第38.5話 英雄の力と神人の王の力(part2)
「人生には渇望が必要だ。渇望が満たされたときに生を謳歌すると言える。俺は弱者をどこまでやらせられるかを求める。それが人生をかけて楽しむ道楽だよ」
「そういうところだっての!」
言い当てられた以上、迷っている場合ではないと雄介は決断する。
再び致命傷になり得る弾丸を無効化した瞬間、雄介は魔王のごとき男に向かって走り出した。
「俺は神人は嫌いなんだよ」
「影らしいな」
「もともとだ。だから皆殺しにしてやる。あんただけ例外ってわけにはいかない」
「妄言はここまでにしろ雑兵。最後のあがきを見せるがいい」
光弾の発射パターンがさらに変化した。雄介がこれまでには視たことのない軌道。このまま突っ込めばまた録画のストックを失うことになる。これ以上はまずい。
ゆえに雄介はここで決着をつけるべく仕掛けを発動させた。
同時に放たれる50の光弾。それらをあらかじめ発射準備していた術がすべて無力化した。
「ほう」
第2射の準備、その意識の先を見抜き、走り接近しながら無効化する準備をする。
(なにぃ)
今まで宗一の近くからしか放たれなかった〈夜光〉が今度は自分を囲むように展開されていた。
「この俺の弾が俺の近くからしか発射できない不便なものかと思ったか?」
雄介はすべてを消すのは無理だと悟る。自分との距離が近すぎて発射された後の者はまったく消すことができない。
体を回転させながら自分を包囲している展開される前、形になる前、形になりつつあるのものを無力化していく。
そして光弾となり展開されたものを消していく。発射前ならまだ間にあう。
残りは15。
雄介は瞬間、呪術剣戟を発生させ、同時に〈爆動〉を用いることで接近速度にブーストをかけた。
残りの15発を回避して一気に相手との距離を詰める雄介に宗一は再び〈夜光〉を光らせる。
夜光は再装填された。再び目の前に展開された八十葉の宝具を前に。
雄介は勝利を確信して笑った。
(それは悪手だぜ)
神人を殺す。その一心で積み上げた2年。その中での経験が雄介を助けた。
神人は慢心しやすい。相手が今まで見せてこなかった手を見せてきた瞬間は勝利を確信している。
狙うべきはその直後。その直後に本命の奇策をぶつけることで相手の反応は遅れるか、相手は混乱する。勝つと自信のある者ほど、その後の詰めが甘くなりがちだ。
雄介の呪いの目が赤く光る。雄介の目に映っていた〈夜光〉はすべて存在強度を失い消えた。
攻撃が止む一瞬。その一瞬で雄介の剣は届く。
もう、刃は宗一の30センチ先まで迫っていた。
(とった!)
この距離なら次が来る前にこの剣は届く。雄介の目には相手がシールド等を展開している様子はない。そしてこの剣もまた触れた相手の存在強度を接触した瞬間0にするため、テイルを用いた鎧やシールドは意味をなさない。
驚いた様子の宗一。目の前に命の危機が迫っているというのに焦っている気配はない。
それを見て。
(なんか変だ)
違和感。
直後八十葉宗一が下へと意識を向けたのを目視した。
自分の真下。50を超える星の輝き。これは〈夜光〉の弾丸が展開されていた。
その認知が限界だった。そこから先は考えることは許されなかった。直後自分はぐちゃぐちゃになりながら吹っ飛び、また体が再生するというおよそ人間が感じてはいけない感覚に全身が襲われた。
雄介にとっては慣れたことだが、だからと言って痛いものは痛いし、とっても怖い経験であることに違いはない。
声を震わせながら、雄介は何が起こったのかを振り返る。
「ほう、まだ生きていたか。すりつぶすつもりで放ったんだがな」
「くそ。今まで手を抜いてたのか」
今まで鈴村宗一が〈夜光〉を使って展開していた光の数は常に50だった。しかし、今自分に向けられた弾は明らかに直前に無効にした50発の第2射としては装填が速すぎる。
つまり八十葉宗一は最初からこちらに向けていた50発と同時に下に50発を用意していたということになる。
意識のベクトルを見逃したのは雄介の失策だったが、そもそも視認する余裕はなかった。展開の出始めをつぶさなければこれほど多くの光弾の処理は間に合わない。
元々先ほどの突撃は宗一が50発を同時展開するという前提なら隙がある、と判断してのこと。それ以上を使えるというなら話が変わっていた。雄介が無効にできるのはあくまで確認できている技だけだ。
自分の認知能力を超えて展開されれば見逃しが起きるのは必然だった。最初、不意を突いた安住の空割はそのまま通ったのも、見てなかったからだ。
「くそ、手を抜いてたわけか」
「当然だろ。俺を誰と心得ている?」
「八十葉宗一。次期八十葉家当主になるべきだった男だ」
「よくわかっているではないか。だが勉強不足だな。そこまで知っているのなら八十葉家の当主を継ぐに必要な条件までを調べておけば、今回のような無様はさらさなかった」
「なんだと」
「八十葉家の〈夜光〉。これは対軍攻撃であり、当主の名をかたるには、最低200の同時展開を要求される」
「にひゃ?」
「そうだ。お前が戦っていたのは歴代最弱の八十葉家当主の4分の1の力に過ぎん。それで勝てるなどと息巻いていた貴様の姿は実に愉快だった」
「く……」
「では、続きだ。片手間も終わったし、今度は倍の光弾でお前と遊んでやろう。雑兵ごときがどこまでできるか。見ものだな?」
地下空間に星が輝く。
すべて、当英雄介を狙う八十葉の至宝だった。
「まずったな……」
当英雄介はここでようやく遅すぎる実感をした。あの相手は本気になる前にとっとと逃げるべき相手だったのだと。
粘れるだけ粘り逃げのチャンスをうかがう気ではあるが、正直な気持ちとしてはもうあきらめかけていた。
両者、偶然にも同じタイミングで瞬きをする。
その時。
当英雄介をかばうように、黒い該当と顔を黒の布で隠した、刀を持つ男が現れた。
雄介と同年齢でありながら、覇気がまるで違うその男を見たとき。
「貴様」
雄介にとっては不自然な出来事が起こる。先ほどまでの余裕の笑みは消え、砲門がさらに倍に増え、自分たちを囲んだのだ。
(今度こそ第39話に続く)
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