394.バーテンダーパフォーマンス

「テストという形で適正を伝える事で、主観だけでなく客観的に向き不向きを知る事ができたのは大きいでしょうね。

何の職種が良くて、更に従業員として貴族と平民のどちらの層と接するのが性格に合っているのか。

迷いのある者達の背中を押す事ができましたわ。

適正が低くとも、逆に熱意を持って挑むきっかけにもなる者もおりますの。

どっちつかずになる事もなくなりましたお陰でしょうね。

各層、各職種でまばらだった技術の習熟具合がそれぞれ安定しましたし、教師陣が少なくても効率的に教えられますわ」


 艶女が優雅に微笑む。


「良うございました。

無理をして合わない仕事をする事が減れば、教育を受ける側の意欲が続きますもの。

当然転職や移住による人材の損失を防ぐ手立てにもなったはず」

「ええ。

ブルグル領でも先月から実施しております。

これで私の自領でも成果が出れば、ファムント領の将来的な強みにもなりましてよ。

もちろん私も先駆者の1人として自らの売りにするつもりですわ」

「レイチェル様は今後もマナー講師としても領地経営者としても、他領や商売を営む貴族からお声がかかりそうですわね。

きっとジェン様も経験を積めばそうなると思いますわ」


 何となくビシッとしたスーツを着て艶女とスーパーモデルがプレゼンしてる妄想してニマニマしちゃった。

2人共かっこいい。


「あらあら、何を妄想してらっしゃるのかしら?」

「ハッ····ナニモ?」

「ふふ。

そういう事にしておきますわ」


 くっ、バレている?!

艶女の流し目ウインクは色っぽいね。


「シュレジェンナ様はこの広大な領を大規模に立て直していくでしょうから、全てが完成した時にあちこちからお声がかかるのでしょうね。

今の私がそうですもの」


 そうだね。

アビニシア領の狩猟祭の時にあった王妃のお茶会で、僕達2人が宣伝····ある意味プレゼンかな····したのが懐かしいな。


「ゲームディーラーやバーテンダーの育成も、あなたが図入りの指南書の基礎を作っていただけた事で計画も随分と前倒しできておりますのよ。

若い貴族達用のバーテンダーパフォーマンスも、先日レイヤード様がお手本を見せていただけましたでしょう。

生徒達のやる気に火をつけてくださいましたわ。

今日もこの時間はお手本を披露なさっていただいてますから、この後で生徒達と顔を合わせるのが楽しみですのよ。

早くあのように格好良く、キレのあるパフォーマンスができるようになってくれればと期待しております。

何より、あれは絶対流行りますわ」


 頬を上気して目を輝かせる艶女、可愛いな。


 あちらの世界ではフレアバーテンディングっていうんだけど、具体的な事を教える前から既にバーテンダーパフォーマンスって皆が言ってたんだ。


 言葉そのままでわかりやすいし、もうそれでいいかって事で訂正もしていない。


 レイヤード義兄様には僕がパフォーマンスを教えておいたよ。

本当は僕がお手本を見せても良かったんだけど、家族に練習がてらお披露目したらそれは絶対駄目って家族に反対されちゃった。


 やってみたら案外上手にできたんだけど····可愛すぎて駄目っていう謎の褒め言葉と共に却下。

どうしてだろ?

残念だ。


 それにしても前世で死ぬまでの間に、色々経験しておくものだよね。


 遊びなんかは賭け事も、お酒も、夜の大人な事も、年齢なりに一通りしてきてたし、特に海外生活だったからね。

はっちゃけた時期もあったんだ。


 でも羽目を外し過ぎると格闘技を極めてた日本在住の親友と幼馴染が海を渡って殴りこみに来かねない。

ギリギリのところでは自重してたよ。


 実際1度だけそういうのあったから、2度としないって決めてたんだ。


 お陰で前世では真正のろくでなしにはならなかった····はず。


 あーあ、懐かしい····会いたいな····。


「アリー?

どうなさったの?

急に無表情になりましてよ?」


 おっと、いけない。

ホームシックになりかねないから、あんまり考えないようにしなきゃ。


 後でレイヤード義兄様にいっぱいギュッと抱きしめてもらおう。


「ごめんなさい、うっかり考え事を。

レイチェル様は正直なところ最短で半年後にこのリゾートホテルをオープンできる程度には、生徒達が育つと判断されておりますの?

建物については正直心配しておりませんわ。

時間がかかるこのサウナ施設や各部屋はほぼできあがっておりますし、この施設の売りでもあるサロンについてもレールを床と天井に敷いて、壁を動かすようにする特許が無事認可されたと聞いてますもの。

柱や壁は最低限で良い分、建築費用も安く抑えられる構造ですし、改装スピードも従来より早いはず」


 それとなく話題を変える。


「そうですわね····このまま順調にいくなら、人が育つ可能性は高いと感じておりましてよ。

シュレジェンナ様には辛口意見にしておりますから、秘密になさって」


 人差し指を唇に当てての流し目は艶女らしく、妖艶だね。

眼福、眼福。

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