392.弛むお顔と高笑い

「それにしても、ヒュイルグ国での活躍に続き、あなたのアイデアはどうなっているのかしら?」


 すっと目を細めて流し目をする艶女はロウリュウからそう時間が経ってないだけに、頬がまだ赤みがあって色っぽいね。


 僕も少しは色っぽく成長したはずなんだけど、背が低いせいか皆まだまだ子供扱いなんだ。


 まああちらの世界じゃ、まだ中学生だもの。

子供扱いも仕方ない。


 それに家族に子供扱いされるのも……たくさん甘えられるから実は好き。

今までの反動なのか、自分でもびっくりするくらい甘えたくなって困っちゃう。


 あんまり酷いなって自分でも思った時はメンテナンスの終わったタマシロ君でイタチになって甘えるよ。

動物なら変じゃないでしょう?

家族も少し大きめのポケットがついた服を着てくれてたりするから、よく籠城してるんだ。


 でもムササビ禁止命令はまだ解けないのがつらい。

ムササビ飛行は無期限延期中で、さすがに泣いた。


 せっかくコルクマットを完成させたのに。


「ずっとお部屋にこもって生きてきておりますもの。

本に口伝、それにグレインビル領には獣人の方々も含め、あらゆる方が過去流れ着いておりましてよ。

沢山の方々のアイデアが点在しておりますの。

私はただ点と点を線で結んで丸投げ、良くて資金援助で先行投資をするだけでしてよ」

「そうでしたわね。

それにしても、本当にそれだけかしら?」

「というと?」

「あなたがこの領に来て、新たに作った物の幅が広すぎましてよ?」


 何だかこちらを探ってない?

でも確かにこの領に来てから色々やったかも?


「弾泉水はもちろん、今や貴族向けの温泉施設で必ずオーダーされる弾ける果実水。

その素で作る柔らかなパンも早速ガウディ令息がアフタヌーンティーに取り入れて弾ける果実水と共に王都で流行らせておりますわ」


 とか思ってたら、艶女が列挙し始めた?!


 でも従兄様のカフェについてはそうなんだよね。


 酵母菌について情報を解禁した途端、うちの料理長に突撃訪問して色々聞き出してたから、多分最初から計画してたんじゃないかな?


 後日、義母様によく似たお顔でありがとうって言われたのを思い出して、思わず緩んだお顔でへへへ、と笑っちゃった。


 従兄様のカフェでアフタヌーンティーにひと口サイズのパンを出すようにしたら、お店は連日満員御礼。


 温泉街では主に玉子サンドを中心としたお総菜パンが大流行中で、温泉玉子バージョンと普通のゆで卵バージョンの2種類を作ってるよ。


 温泉玉子のウケはやっぱり鼻の良い獣人さんになる程悪いんだけど、玉子サンドにするとそこからまた好みが分岐するんだって。

面白いね。


「まあ、もしかしてガウディ令息のお顔を思い出したのかしら?

アリーがあの方のお顔を心底好きなのはわかりますけれど、弛み過ぎでしてよ」

「はっ、そんなに?!」


 僕一応令嬢なのに、変態みたいなお顔はまずい。

慌てて引き締める。


「それくらいなら大丈夫でしてよ。

よろしいですこと?

ご家族と私以外に見せてはいけませんのよ。

どこぞの馬の骨が食べようとしてはいけませんもの」


 え、馬が骨なの?!

スケルトンの馬……ある意味会ってみたいかもしれない。


「注意なさって。

それでどこまで話したかしら。

そうそう、ここ、第2の温泉街計画地の貴族向けリゾートホテルだけでなく、平民達でも気軽に入れるサウナ。

リゾートホテルは状況によっては延期も視野に入れているでしょうが、庶民向けのドーム型のテントサウナはすぐにでも稼働できますでしょう。

今はこちらに入っているのは温泉を冷ましたものですけれど、冷泉を引く作業に取りかかっておりますわよね」

「弾泉水の水源地である冷泉も含めてあの付近の整備もあと数ヶ月で終了とはお聞きしましたわ」


 サウナテントの増産と、大衆浴場とかで使ってるマグマプレートの浴槽を作ってる時にどうしても出る砕石は手頃な大きさの物を集めて取っておいたんだって。


 サウナストーンとしていくつか混ぜて使うみたい。


 溶岩プレート焼き肉っていうのも多国籍カフェで出し始めたらしくて、商魂逞しいけど、嫌いじゃない。

それにあのプレート使うと余分な脂が落ちてヘルシーでいいよね。


 火山地帯の多いオギラドン国やブランドゥール国出身のカンガルーさんと白虎さんが商会長を務めるチャガン商会とアボット商会も溶岩プレートを売り出すって言ってた。


 南と西の諸国にも火山性の温泉はあるから、そのうち温泉ムーブメントが起こるかもね。


「温泉街の共同出資の多国籍カフェではジャムを弾泉水に溶かして大流行中ですし、大衆浴場の売り子が扱うコルクで作った簡易のクーラーボックスとコップも好評だとか」

「ええ。

お陰様でうちの領に大量に保管していたコルク栓が順調に減っておりますの」


 これに関してはうちの領収がまた跳ね上がったから良かったと思ってるよ。

コルクマットを思い出すとムササビ飛行への渇望が爆発しそうだから最近は考えないようにしているけど。


「売り子が着ている水着も問い合わせが殺到してコード伯爵が嬉しい悲鳴を上げておりましたわ。

アリーと素材に拘って作った苦労が報われると高笑いしておりましてよ」

「た、高笑い?

あのコード伯爵が、ですの?」


 シルバーグレイな髪がよく似合う、とっても落ち着いた紳士なお爺さんだよね?!

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