361.お誘いと、スン
「失礼致します」
あちらの世界の懐石料理なる物の最後を飾る和菓子とお抹茶を飲んだところでセバスチャンが戻って来た。
不意に外に出たと思っていたけど、どうしたんだろう?
何となくドアの方を見れば、開いたドアの隙間から一瞬見えたのは黒髪をアップにした女性。
質素だけど品がある出で立ちだ。
「お嬢様、本国の上司にあたる方がご用件を伝えにいらっしゃいましたが、いかがなさいますか?」
そっと僕に耳打ちする。
うーん、もしかしてとは思ってたんだけど、話には聞いてたあの人も来てたのかな?
どこの国とは言わなかったけど、間違いなくジャガンダ国だ。
「お通しして」
セバスチャンに目配せされたニーアがドアを空けて促すと、しずしずと入ってきた。
黒髪だけじゃなく黒目で、ジャガンダ国の高位貴族に多い顔立ちだ。
ザ・アジアンビューティーって言葉がピッタリの、決して若作りしてるわけじゃないけど
「どうぞお話しなさって」
「グレインビル侯爵家ご令嬢でしょうか。
約束もなく歓談の場に不躾に参りました事に、まずは謝罪申し上げます」
「初めまして。
アリアチェリーナ=グレインビルでしてよ。
私の方こそ人手も限られてお忙しいだろう時に、こちらのお2人のお時間を頂戴致しましたもの。
むしろご配慮に感謝しておりますわ。
ご用件をお伺いしてもよろしいかしら?」
静かに一礼した所作も洗練されていて綺麗だね。
「お言葉、痛み入ります。
我が主よりお嬢様のお時間をこれよりしばし頂戴したいとの
もう1度、今度は深く一礼したまま僕の返答を待つ。
ジャガンダ国の礼儀作法的に、何かしらの返答を返すまではそのままでいるはずだ。
チラリと見やれば、やっぱり各兄妹共に名残惜しそうだからちょうどいいか。
各妹達は彼女に気づいてからはどこか背筋が伸びた様子を見せてるし、何より所作や話し方からも間違いなく彼女達より格が上だ。
「私もご一緒させていただいてもよろしくて?
この方は見た目通りにお体はとても虚弱でいらっしゃるの。
知らぬ方だけの場で万が一があってはいけませんわ」
「ご令嬢がよろしければ、もちろんにございます」
レイチェル様も気を利かせてくれたみたい。
それとも初めから聞いていたのかな?
どちらにしても間で口を挟むという事は、お姉さんやその主っていう人とも何度か会ってるんじゃないかな。
お姉さんの言葉に頷いた艶女は部屋に残る人達に妖艶に微笑みかけた。
「この奥にもう1つお部屋がございますの。
何かしらお話になるようでしたら、それぞれに分かれてお話なさって」
僕の返答は聞かずともわかりきったものとして扱われてるね。
「アリー、平気なのかい?」
兄妹で話せと言外に伝える艶女に、心配そうに僕を見る従兄様。
ついでにコード令息も心配そうなお顔だね。
従兄様には今日の事を黙っていただけに、どこまでが僕の予定に入っているのか本当のところがわかっていなくて戸惑ってるね。
普通にイレギュラーな事態なんだけど、何年かぶりに会えた実妹との時間だもの。
最近お世話になってる僕としては、兄妹の時間を取ってあげたいんだ。
何年か前に怒りに任せて兄妹の仲を引き裂いたのは他ならぬ僕なんだけどさ。
彼女的にも今僕達が着ている服の生地やジャガンダ国での研究について実兄に話したい事はたくさんあるだろうし。
彼女の正体?
今さらだけど、僕の従妹
縁を切った彼女を従兄様に合わせたのは、彼女が僕の期待に応えたご褒美と、これからの事も含めて今後の口裏を合わせる為。
まあ色々状況が変わったんだけど、そこは追々ね。
それよりも僕をフォローしようとするこの美男美女はやっぱりお似合いだ。
そっち方面に仲が進展しないのかな?
へへへ、義母様に似たお子ちゃまに会える日も近い?
「うん、レイチェル様もいるから平気。
お2人共、戻るまで私の連れのお話し相手をお願いしてもよろしいかしら?」
なんて脳内をお花畑に埋没しているのを隠して目の前の2人に聞いてみる。
「「もちろんにございます」」
どことなく嬉しそうなお顔で即答されちゃった。
ふふふ、可愛らしい女子達にそんなお顔を向けられるのは気持ちが良いね。
どうせなら兎属の君には後でそのお耳様と隠れたお尻尾様にブラッシングをさせて欲しいな。
「セバスチャンとニーアはここに残っていて」
もちろん僕の脳内とリアルなお口は全く違う事を伝える。
「「····」」
うーん、これは無言の抵抗かな?
スン、て表情が抜けた落ちて怖い。
「腕の良さそうな方がご一緒だから、大丈夫だよ?」
「「····」」
やっぱり無言だ。
もちろん僕の護衛も兼ねる2人だから、抵抗があるのはわかってるよ。
でもさすがにここで2人を連れて行くのははばかられる状況なんだよね。
「彼らは私の護衛も兼ねる身の上の為、ご無礼お許し下さいませね。
こちらに戻るまでは何があってもお護りいただけるとお約束下さいますでしょ?」
「私の全身全霊をかけてお約束致しましょう」
隙の無い、礼の姿勢を取り続けるお姉さんにそう問えば、望む答えが返ってきた。
うちの使用人2人は改めてお姉さんを凝視する。
「「かしこまりました」」
うん、スンてしてるけど納得はしてくれたみたい。
「それではそろそろお顔をお上げ下さいまして?
もちろん喜んで承りましてよ」
僕の返答を受けてお姉さんは初めてお顔を上げる。
「それでは、ご案内致します」
「参りましょう」
「はい」
お姉さんと艶女に促されて立ち上がった。
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