345.美女達のメラメラと握手

「アリー」

「レイチェル様!」


 僕が約束の時間の少し前にお茶会の場へ向かうと、金髪碧眼美女が出迎えてくれた。


「ふふふ、聞いたわ。

温泉で泳いで倒れたのですってね。

温泉は泳ぐものではなくってよ?

もう体調はよろしくて?」

「んふふ、気持ち良くてついうっかり。

もう平気です」


 おっと、やっちまった話がいつの間にかレイチェル様にまで伝わってた。

恥ずかしくて照れ笑いしちゃった。


「気をつけなくては駄目よ」

「はい」


 そう言って最新春モデルらしいネイルシールを使って爪を綺麗に彩った手が僕の頭をよしよしする。


 最後に会ってから半年は経ってたけど、またお色気度が高くなってないかな?


 何だろう、ほら、あちらの世界のラノベだと悪役令嬢の逆転ザマアをする役にぴったり?

少し気の強そうな美人顔で、出るところは出てくびれてるところはちゃんとくびれてる大人な色気、みたいな?


「あら、本当にレイチェル様と仲良しなのね。

アリー、私とももっと仲良くして欲しいわ。

早く貴族用の温泉をオープンさせて、東方の国々のような裸の付き合いをしましょうね」

「あら、その時は私も是非ご一緒するわ。

でも温泉用の衣服を着用するのでしょう?

東方のような裸にはならないわ。

コード伯爵もアリーの服を作るのを楽しみにしているのよ。

それに私とアリーの付き合いは随分長いの。

気心が知れていて打ち解けているのは当然ではなくて?」


 どうしてかな?

タイプの違う美女2人の笑顔に迫力が増し増しになっていってる?


 これは····。


「ふふふ、打ち解けたみたいで良かった」


 そういう事に違いない。


「あら、どうかしら」

「そうね」


 レイチェル様の言葉に頷くジェン様。

うん、喧嘩するほど仲が良いっていうやつじゃないかな。


「ほら、息ぴったり。

ジェン様は人見知りの照れ屋さんなので少し心配してましたが、こんなに早く打ち解けるなんて。

レイチェル様の社交力は素晴らしいですね」

「····どうやったら辺境領地の次期当主をそんな勘違い····いえ、そう、そうね。

アリーに褒められるとこれからも頑張れるわ。

ありがとう」


 前半ぶつぶつ言ってる声が小さくてよく聞こえなかったけど、とりあえず頑張るみたい?

うん、綺麗な手で頭なでなでされながらお礼言われるのは悪くないね。


「ジェン様もこれからもっと話題性のある人になっていくんでしょうね。

素敵です」

「人見知りの照れ屋····え、私?

····いえ、そう、そうね。

とっても頑張っているから、可愛らしいアリーの手で私の事を撫でてくれる?」

「もちろん!」


 ああ、スーパーモデルに幻のお耳様とお尻尾様が見える。

お尻尾様はきっとぶるんぶるん揺れてるに違いない。


 手を伸ばせば、頭を下げてくれる。

スーパーモデルの髪質ってどんなんだろう?

お父さんが狐属····ふわふわ?


 へへへ、いざ!


 なんて思ってたら、セバスチャンが僕をひょいっと抱っこした。


「え、あ、あれ、セバスチャン?」


 ちょっとびっくり。


「お嬢様、ひとまずそれは後に。

仮にも公爵家のご令嬢の前で滞在する邸の次期ご当主様の頭を撫でるのは、無粋に思われてしまいますよ」


 はっ、そうだった!


 この領の孤児を主体にした教育の参考になればいいなと思って紹介したのがこのあでやかな美女、略して艶女あでじょであるレイチェル=ブルグル公爵令嬢なんだ。

もちろん他にもアドバイザーとして目的はあるけどね。


 2人は驚いた事に、数日前に初めましてをしたばかり。


 レイチェル様は社交界で有名だし、ジェン様は辺境領の次期当主だから認識はしてるけど、面識はなかったんだって。


「んー、そっか。

じゃあもっと2人が打ち解けたらか、2人きりの時に····」

「そんな!」

「そうね!」


 ガーンとショックを受けたように固まるジェン様と、何故か嬉しそうな艶女なレイチェル様。


「そうよ、アリー。

いくら何でも私の滞在中はそんな事をしては駄目。

アリーも成人して淑女の仲間入りをしたのだから」

「はっ、成人!」

「そうよ。

あなたは妖精姫とか紫銀の至宝と呼ばれて元々注目されていてよ。

成人の儀には出席せず、なのに出席したものとして名を呼ばれたのもあって、成人した事もこの国全土に広く知れ渡っていらしてよ」

「そんな?!」


 今度は僕がショックを受ける番だ。


 え、この国全土って何事?!

一瞬あだ名は増えてなくて良かったとか思ってからの、落としこみが酷くないかな?!


「アリーはグレインビル侯爵家で唯一の成人した淑女なのだもの。

他領の次期当主の頭をぽんぽんしただなんて可愛らしい噂が出回っては、狙う殿方がより一層に増えかねないわ」

「はい····ん?

狙う殿方?」

「それは駄目ね!

アリー、残念だけれど、私の頭は封印するわ!」

「あ、あれ?」


 そこ封印しちゃうの?!

しかも今までの圧のある笑顔が一念発起したみたいなお顔に····どうしてか目に闘志がみなぎってる?!


「シュレジェンナ様」

「レイチェル様」


 美人さん達が見つめ合う。


 艶女の目もメラメラしてないかな?!


 と、不意にガシッとセバスチャンに抱っこされたままの僕の前で力強く握手した?!


「「アリーを守りましょう!」」


 えっと····え····何から?


 んん?

ニーアがいつの間にか握り合った拳の上にそっと両手を置いて····3人で頷き合った?!

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