338.家族風呂と浮くお盆とお酒に第3王子の国別噂の違い

「えへへー。

数百年ぶりの温泉、さいこー!

んんんー!」


 体が温まってくると、前世での温泉が思い出されてあの頃と同じ温泉の感覚に嬉しくなっちゃう。

両手を上げて気持ち良く伸びをする。


「でも1度くらいは貸し切り風呂に家族で入りたいな。

僕もう成人したし、その時には湯船にお盆か桶を浮かべて皆で日本酒で一杯····あ、でも失敗すると昔みたいに水没させちゃう?

レイヤード義兄様に絶対ひっくり返らない魔具のお盆作ってもらわなくちゃ。

その前に1回はお酒への耐性がどれくらいか知っておかなくちゃだね。

昔の僕はザルだったけど、今の僕はわかんないや。

でも僕も少しずつ女性らしい体になってるから、それ用の水着が必要かな?

こんな布1枚じゃいつめくれるかわかんないし」


 チラリと胸元を見る。


 うん、寄せれば寄るようにはなった。


「それにはこの国もあの国も平和でいてもらわないとな」


 あの第1王子には頑張ってもらいたいよね。


 ここに来る前に調べた情報を思い出して苦笑い。


 やっぱりこの国の王都では、あのキナ臭いイグドゥラシャ国の末姫と恋愛的に良い感じだって噂になってるんだ。

こないだ闇の精霊さんにも確認したけど、本当みたい。


 学園での恋の噂って広まりやすいんだね。

しかも王女のお姉さんはこの国の王太子の元婚約者だからもしかして姉妹で婚約者を差し替えるのかって話もあった分、気にはなるよね。


 もちろん第3王子の恋がプラスに働いて、本来の学生の本分的なやる気スイッチが押されたなら噂が本当でも問題ない。

いつまでも何年か前のレイチェル様の卒業式で見たような、死んだ魚みたいに淀んだ目をしてたら怖すぎる。


 でも今の魚の目の保存状態まではわからなかったけど、思春期男子の本能的なやる気スイッチの方を強く押しちゃったみたいなんだ。


 骨抜きにされてて勉学に身が入らず、成績も一国の王子の留学では許されない真ん中どころをうろうろしてるんだって。


 でもこの世の中の王族が皆お勉強が得意なわけじゃないとは思うよ。

優れた統治者には智者が多いっていうけど、それだけとも限らない。


 要は自分の不得意ジャンルを補える優秀な側近で脇を固めて、彼らの意見に傾ける耳があればればいいんだ。


 戦乱の時代じゃないもの。

国を統治するのに問題が無ければ、トップにそこまでのカリスマ性も必要ない。


 なのに第3王子は性格も僕のグリーンカレーをカツアゲしようとした時と変わらず。

というか、むしろ短気と獣人や平民への差別主義に拍車がかかってて、この国での学友は1人もいないし、敬遠されてるんだって。


 ここまでがセットでアドライド国王都の学園を中心に噂が拡散されてるんだ。

当初の恋の噂は主に女子生徒達からだったようどけど、王子の性格云々が度を超えたのかな?


 この国の国民を占める割合が多い、獣人や平民の学生達から噂が拡散されれば、すぐに国内にも広がってしまったんだ。


 さすがにグレインビル領領主の引きこもり娘の僕の耳には調べない限り入ってこなかったけどね。


 これが僕が調べて出てきたアドライド国内での第3王子の情報だよ。


 ただね、これが隣国ザルハード国内には全く伝わっていない。

友好国な上に陸続きの隣国どから人の流動が2国間でかなり多いのにも関わらず、だよ。


 面白いよね。


 誰かが第3王子のいわゆる醜聞ってやつを間違いなくもみ消してるって事だよ。

けどこれだけ隣国で、もはや常識になりつつある悪評を防ぐって、どれだけの富と権力を持ってる人なのかな?

状況を整理すれば、ある程度絞られてくるんだ。


 でもそんな誰かもそろそろ厳しくなってくるはずだよ。


 特に第1王子が卒業しても自国にはあまり帰らず、なのにこの国で仮の立場とはいえ本格的に交易に携わるんだもの。


 未来の国王が誰になるか、言い換えればどちらの王子につくのが利益があるのかを憂慮した、他ならぬザルハード国内の貴族達が2人の王子の情報を仕入れようとするのは、どんな権力者でも止められない。


 だってそういうのを1番気にするのは、富と権力を持った自分の地位を守りたいまつりごとに関わる重鎮や高位貴族達だもの。


 まあそれもあってザルハード国王は第1王子への後継としての期待感を高めているんじゃないかなっていうのが僕の所感。

そもそもが友好国で悪名高くなった王子じゃ、外交に差し障りしかないし。


 でも交易の試用期間はともかく流民問題なんていう、ザルハード国王の何代かにわたる解決できてない、厄介極まりない問題の担当も任されちゃってるからな。


 第1王子が問題をクリアすれば立太子は確実になるだろうけど、国王は期待してるのか潰したいのか、それとも期待と潰しが国王以外のそれぞれ別の人達の思惑が絡んだ末のそれなのか、どちらかな。


「んー、面倒臭そう!」


 バシャバシャと顔にお湯をかけて顔にも温泉成分を浸透させる。


 だからある意味このファムント辺境領の温泉街計画は、このアドライド国とザルハード国双方の国王や重鎮達のどちらも注目してる可能性がかなり高い。


 請け負う予定になかったアドバイザー。

とっても嫌な予感がする今日この頃だね!

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