326.溶岩キューブ

「わああああ!!」

「「アリー!!」」


 僕の叫び声を聞きつけたのか、従兄様とジェン様が血相を変えた様子で火口間際に走ってきた。


 お耳様とお尻尾様を携えたりそうでない護衛さん達もすぐ後に続いてる。


「従兄様!

ジェン様!

見て見て!

すごーい!!」


 僕はもちろん大興奮を継続だ!


 ニーアの張ってる結界魔法にバシャバシャとマグマが吹きつけられ、当たっては火花を上げつつ下に落ちるというのを繰り返している。

橙色の液体がガラス板に強力ストレートシャワーモードで当たる様は圧巻の光景だね。


 もちろん僕はセバスチャンに抱っこされてるし、僕達の周りはガラスの箱のように結界魔法で囲まれてる。


 ちなみに僕達の隣には僕達の周りと同じ結界魔法で作ってもらった、同じくらいのサイズで高さだけ半分の箱を設置してる。

跳ね返った溶岩がその箱にも入って徐々に溜まってるんだ。


 あ、子クジラのつぶらな瞳と目が合った。

子クジラの吹きつける溶岩は勢いが足りなくて届いてないのが、また可愛い。


 もちろん僕はちゃんと手を振ってご挨拶するよ。


「えーっと・・・・楽しんでるみたいで良かったよ」


 マグマの川を挟んで向こう側にいる従兄様ってば、脱力したみたいに笑ってる。

ここまでの道のりで疲れちゃったのかな?


 僕はセバスチャンに抱っこされて眠ってたからわからないけど、火山の火口だものね。

きっと険しい道のりだったに違いない。


 ジェン様や護衛の皆は呆然と立ってる。

きっと皆話せないくらい疲れてるんだね。


「あ、そろそろいい感じ!」

「わかりました。

少々名残惜しいですが、しばしお待ち下さい」


 そう言って老齢の筋肉執事長は僕を下に下ろして庇うように前に出た。


「参るぞ」

「はい」


 セバスチャンが大槍を両手に構えて前に突きだすと魔法で風を纏わせる。

ブン、ブン、という音と共に扇風機の羽根のように回転させていくと、風が広範囲に渦を巻いて前方のクジラの群れに向かった。


 僕達を囲う結界魔法は風がぶつかる瞬間にニーアが絶妙なコントロールで前方の壁と天井を消した。


 渦を巻いた風は吹きつけるマグマを巻きこんで群れに跳ね返る。

セバスチャンの扇風機の魔法って、こんなにめちゃくちゃな強風モードになるんだね。

初めて知った。


 驚いた群れは僕達の前からいなくなってしまったから、ちょっと寂しい。

あの子クジラにまた会いたいな。


 なんて思ってる間にも、ニーアは隣で溶岩が溜まっていたガラスケース、じゃなかった、結界に向かって冷たい風を当てている。


 すぐに温度が下がって固まっていくのをにこにこ微笑んで眺めていると、セバスチャンにまた片手で抱っこされてしまった。


「1人で平気だよ?」

「またいつ群れが襲うかわかりませんからな」

「んー、それもそっか。

重かったらいつでも言ってよ?」

「お嬢様は羽根のように軽いから問題ございませんよ」


 何回目かのやり取りをして、負担を少なくするのにまたぴとっと体をくっつけておく。

 

「ちっ、耄碌爺」


 あ、あれ、今舌打ちと一緒に何かが聞こえた?!


「空耳です」

「そ、そう?」


 僕のできる専属侍女が隣の溶岩を冷ますのに思ってた以上の風を魔法で吹きつけているから、よく聞こえないんだ。


 ニーアの言う通り聞き間違いだったみたい。


 そんなに大量の風を使って慌てて冷まさなくてもいいと思うんだけど、場所が場所で危険だものね。

そこらへんはニーアにお任せしとこう。


「できました。

危ないですから、少し離れていて下さい」

「あ、ちょっと待って。

従兄様!

皆様!

そこ退いててー!」


 ニーアの言葉に向こうの人達に声をかける。


 瞬間、ガッ、という音と共に固まった溶岩が向こうに飛んで行った。


 あ、あれ、もう少し待っても良かったんじゃ····。


「うわー!!

俺の方に来たー!!」


 溶岩は綺麗に孤を描いて従兄様の方へ。

間一髪で避けた従兄様はへなへなと座りこむ。


「あ、あぶっ、あぶっ、危なかっ、、」


 う、うん、本当にね。

従兄様の30センチくらい手前の地面にめり込んでるね。


 言葉になってない言葉をあわあわ言いながら吐いてるけど、怪我はしてなさそうで何よりだ。


「チッ」


 あ、あれ?

また舌打ちの音が。


 ニーアをちらりと見れば、サッカーのシュートの後のフォームからいつもの侍女立ちになるところだった。


「空耳です」

「そ、そう?」


 できる専属侍女がそう言うなら、きっとそうだね。


 改めてあちらを見れば、ガラスケースはいつの間にか消えて無くなって、真っ黒い溶岩キューブが出来上がってる。


「参りましょうか」

「うん!」


 セバスチャンはそう言って僕を抱っこしたまま軽く走って跳躍する。


 僕の体に浮遊感は感じるけど、着地の時の衝撃は殆どなかった。


 マグマ川の幅は10メートルくらいだったけど、危なげなく渡ってしまった。

身体強化して追い風を起こしてたにしても、老人の身体能力は超越してるね。


「すげえな」


 うんうん、まだ驚いてるらしいジェン様を背に庇ってる豹属のおじさんに僕も同意するよ。

驚きを表すようにピンとしてるお耳様とお尻尾様をなでなでしたいな。


「さすがの身のこなしっす」

「あれがグレインビルの先代当主の頃から仕える····」


 鳥属と彼の言葉に続いた山羊属の青年達のひそひそ話にうんうんと頷く。


 うちの先代当主の頃から仕えてくれてる執事····。


「鮮血の····」


 ん?

鮮血?


「お嬢様」

「ふぁい!」


 おっと、聞き耳立ててたのバレちゃった?!

お行儀悪いね?!


 僕の頭越しに向こうの護衛さん達をちらりと見たセバスチャンの呼びかけにビクッてしちゃった。


「はっはっは。

驚くお嬢様もお可愛らしい。

あの塊はどうされますか?」


 あ、何だ、そっちの事か。


 あれ?

何であの護衛さん達体を寄せ合って固まってるんだろ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る