324.いつも通りの従兄様

「はい、ジェン様····んふふ」


 僕の名前を呼んだ途端に赤くなったジェン様にお返事したら、ポポポッと更に赤くなっちゃった。

可愛いよね。

へらっとした顔てうっかり笑っちゃった。


「そ、の、んー、こほん。

この果実水はグレインビル領の特産物かしら?

ガウディード様からも聞いていたでしょうし、昨夜の夕食会で父もちらっと話していたけど、うちの領を温泉街と銘打って観光地にする計画があるの。

温泉玉子にこの果実水。

この領にとって、とても魅力的だわ」


 あ、咳払いして照れてる自分を無理矢理引っこめたと思ったら、またまた目がギラギラし始めた。


「そうですね。

温泉の後の火照った体にこの果実水。

素敵な組み合わせです。

でも果実水についてはもう少し待ってくれたら、もっと素敵な物が掛け合わさるかもしれませんよ?」

「そうなのね。

なら待つわ」


 即答するジェン様に、同じく果実水について待ったをかけている従兄様がくすりと笑う。


「即決だね。

この短い間にそんなにアリーを信用できるようになったんだ」

「だって、可愛いんだもの」

「え、そっち?」

「可愛いは正義だわ。

ね、アリー」

「ねー」


 ジェン様に激しく同意だよ。

まだ照れが引かないのか、お耳のあたりを赤くしながら微笑むスーパーモデルなジェン様、いい!


「アリー、俺の方との契約も考えておいてよね、ね?」

「ふふふ、わかってるよ、従兄様」

「俺とはねーをしてくれない」

「ふふふ」


 あ、その角度のちょっと落ちこんだ感じのお顔、好き。


「アリーはガウディード様が好きなのね」


 ジェン様、少し残念そう?

どうしてかな?

チラッと従兄様を見てため息?


 はっ、まさか····これは小さな恋が芽生えている?!

従兄様、意外とモテるって聞いた事ある!

自己申告だけど!


 でもジェン様に嘘も吐きたくないし、従兄様とは今後も良い関係でいたいんだ。


「従兄様のお顔が母様に似ている時は大好き。

それに母様と血の繋がった甥だもの。

私の家族に迷惑さえかけなければ中身は関係なく無条件で好きです」

「そう····そうなのね。

ふふふ、まだそっち方面も幼いのね」


 何故かな?

もの凄く生温かい目で見つめられている。

何ならよしよしも追加されてしまった。


 そっち方面て、どういう方面?

内面かな?

一応僕の実年齢は四捨五入すれば400才になるんだけど?


 そっち方面

外見かな?

外見は····まあ確かに人より成長が遅いのは否めないけど、ちょっとずつは成長してるんだよ?


「はあ、可愛い。

このままうちの子にならないかしら?

手取り足取り色々と教えてあげたい」


 よしよししながら戸惑ってる僕の事うっとり見つめ始めちゃってる。

頬が上気するスーパーモデルって色っぽいんだね。


「え、えーと、駄目だから!

シュレジェンナ嬢の趣味は何も言わないけど、アリーは駄目だから!

アリーを連れてきた俺が殺られるから!

悪魔達だけじゃなくて魔王も降臨するから!

もう見つめるの禁止ね!」


 突然慌てふためく従兄様。


 え、どうしたの?!


 最後には僕の腰に腕を回して胡座をかいてた自分のお膝にひょいっと乗せる。

いわゆるバックハグみたいになった。


 と思ったら、僕の膝裏に腕を差し込んで僕のお尻を支点に回転。


「ちょっ、ちょっと従兄様?!」


 それだけでも恥ずかしいのに、そのまま僕の顔を隠すように自分の胸に押しつけてぎゅうぎゅう抱き締めちゃう。

従兄様らしからぬ暴挙に、正直戸惑うけど、まあ痛くはないからいいか。


「あら、まさかガウディード様、アリーを?」


 ん?

ジェン様のお声が一段低くなった?

僕がどうしたの?


 今は従兄様のお胸しか見えない。


「違うから!

アリーは可愛い従妹なだけ!

でも今は俺が保護者だから、そういうのは····うわ!

セ、セバス、ニーア、物騒!

違うからね!

俺はアリーを守ってるだけだからね!

物騒な物は仕舞ってー!」


 セバスチャンとニーアが何かしてるの?

物騒な物は元々持ってないよ?

セバスチャンの大槍も調理道具みたいだし、ニーアのナイフは果物ナイフしか今は携帯してなかったはず。


 うーん、ここに来てからはどことなくしっかり者に見えた従兄様が、何だかいつもの従兄様に戻ったみたいだ。

むしろ普段通りで安心する。


 それに昔は義兄様達がいてもよく僕を抱っこしてくれたけど、義母様が亡くなってからはご無沙汰だった。

久しぶりだし、手つきはあの頃みたいに優しくて、これはこれで安心する。


「えへへ、従兄様、好き」


 ついでだから、ぎゅってしておこう。


「えっ、そ、そう?

俺も好きだよ····って、従兄様としてね?!

ちょっ、全員で仕留めようとするの止めて?!」


 ふふふ、意味のわからない焦り方をする従兄様が本当にいつも通り僕を和ませてくれる。

あ、また眠くなってきた····。


 ここはぽかぽかしてるし、温泉玉子を久々に食べて心もお腹も満足だ。

僕の後頭部をそれとなく支えてくれてる従兄様の手も大きくて温かい。


 火口まではセバスチャンが抱っこして連れてってくれるって言ってたし、重かったらニーアにタマシロ君を使ってもらうよう言ってあるから····。


「従兄様、おやすみなさい」

「嘘でしょ、このタイミング?!

俺の最強の盾が寝ちゃったー!!」


 ああ、今日もいつも通りだね、従兄様。

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