320.お詫びとご褒美
「わざとですね」
「はっはっは。
なんのことじゃ」
ニーアとセバスチャンの声だ····。
意識が浮上する。
どうやら少し眠ってたみたいだ。
「お嬢様との旅に浮かれて私まで撒こうとしないで下さい。
それに抱いて移動するのは専属侍女の私のご褒美です。
なのにご褒美を横から掻っ攫うだけでなく、移動中ずっとしがみつかれているなんて、羨ましいのを通り越して殺意が湧きます」
んん?
僕のできる専属侍女ニーアの発言の後半がぽんこつ発言になってないかな?
それに殺意はお爺ちゃんに湧かせちゃ駄目だよ、ニーア。
「お嬢様が羽のように軽くて何の負荷にもならんかったからのう。
うっかり足が進んでしまっただけじゃ。
あの程度で撒かれると思うとは。
鍛錬がちと足りんのじゃなかろうかのう?」
さすがグレインビル家で執事長やってるだけの事はあるね。
A級冒険者の殺意発言なんて軽く受け流しつつ····挑発してないかな?
「それにヒュイルグには爺も迎えに行く予定だったのを、当主が1人で迎えに行ったからのう。
今回の旅は悲しむ爺への詫びとご褒美の爺とお嬢様の旅じゃ。
この1年、日夜こつこつと恨み言を吐き続けてみるもんじゃな。
お主は長らくヒュイルグでお嬢様と過ごしておったのじゃから、もっと譲る心を持たんか。
お邪魔虫め」
「何の嫌がらせで旦那様からお嬢様との旅をもぎ取ってるんですか。
お嬢様の専属侍女なのですから共に在るのは当然です。
お邪魔虫はそちらでしょう、
セバスチャンの話し方が僕に対してと違うけど、それは彼なりの線引きなんだと思う。
確かに僕を抱っこするセバスチャンは服の上からわかるくらい鍛えられた筋肉を感じた。
趣味は筋トレなのかな?
確かにセバスチャンの後押しがなかったら義父様の許可は出なかっただろうけど、僕との旅って義父様のお詫びなの?
恨み言って日夜こつこつと吐き続けるものじゃないよ?
ていうか、誰に吐き続けたの?
浮かれてるのは否定しないし、ご褒美発言してるから、お仕事で僕の面倒は見てるけど楽しんでくれてるのかな?
それならそれで嬉しいな。
赤ん坊の時から僕の面倒を見てくれてる1人だし、お祖父様は僕が養女になった時にはもういなかったんだ。
僕や義兄様達にとってはセバスチャンが祖父みたいなものなんだよ。
特に僕にとっては初めて覚えた祖父の感覚だから、セバスチャンには甘えたくなっちゃうんだよ。
昔は義父様が王都のお仕事であまり邸にいなかったし、拾われた時から死にかけまくってた僕の事を義母様と一緒に看病してくれてたのがセバスチャンなんだ。
横に寝かされると苦しい時は義母様と交代で夜通し抱っこしてくれてた時もあるんだよ。
どこの馬の骨かもわからない僕を何も言えない赤ん坊だからって悪く言ったり雑に扱ったり、後は泣かないし笑わない僕を気味悪がったりする使用人の方が昔は多かった。
だけど長くグレインビル家に仕えてくれてるセバスチャンは、そんな事1度もしなくて、むしろ執事長の権限でそんな人達から守ってくれてたくらいなんだ。
前世も今世も血の繋がりのある人達とのまともな縁は無かったから、僕に初めての祖父の感覚を教えてくれたのはセバスチャンなんだと思う。
「何じゃ、文句があるならいつでも受けて立つぞ」
「望むところです」
チャ。
あれ、金属音?!
ニーア、何か構えてないかな?!
やる気と書いて殺る気かな?!
まずい、セバスチャンは筋トレが趣味なだけのお爺ちゃんなんだよ!!
「セ、セバスチャン、ニーア、おはよう。
従兄様達はまだかな?」
慌てて今起きた風を装って声をかける。
「おはようございます。
もう少し眠っていてもよろしかったのですが、もう到着されますよ。
ほら、あそこに」
よ、良かった。
途端にいつもの執事口調に戻ったセバスチャンはにこにこしてるし、ニーアが何かしようとしたのも気づいてないみたい。
「いたいたー。
はあ、はあ、速いよ、君達ー」
息を切らして登場したのはもちろん従兄様。
ニーアには悪いけど、いくら僕がもやしっ子でも背は150センチくらいで体重も数十キロはあるんだ。
筋トレが趣味らしいセバスチャンに抱っこされておいて良かったかも。
従兄様だけじゃなく、その後ろに山道には慣れていそうな3人の護衛さん達を引き連れたお姉様にも、従兄様ほどじゃないけど疲れが見える。
護衛には鳥属、豹属、山羊属とバラバラ属性だけど、登山に特化した種属を選んでる。
鳥属さんは猛禽類なのはわかるけど、見た目からはちょっと断定できないや。
獣人さんだけあって、3人に疲れは見えないよ。
僕の方の護衛はニーアがいるから問題ない。
セバスチャンも長らくグレインビル家にいるからね。
そこらへんの魔獣くらいなら魔法も無しで倒せる。
でも実のところタマシロ君で変身しようかとも言ったんたけど、従兄様以外の人の目にいつ触れるかわからないからってセバスチャンに止められちゃったんだ。
僕ができるのは、なるべく負担にならないようにセバスチャンの、年の割に鍛えて太くなってる首にギュッてしがみついておくくらいだった。
「さすがグレインビル侯爵家の使用人方ですね」
藤色の髪に淡い青緑色の目をした背の高いお姉様が感心した様子でセバスチャンとニーアを見ていた。
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