311.スパークリングワイン風と睡魔の手招き

「んん?!」

「これ、ワインみたいで味わい深いな」


 従兄様は驚きのままに、義父様は甘さの中にもワインに似た味の深みに感嘆したかのような声を出す。


 こっちの世界の人達は炭酸水に慣れていないからね。

微炭酸を炭酸、炭酸を強炭酸くらいに感じるんじゃないかな?


 まあ厳密には炭酸水とは呼べないんだけど、さしずめこれはスパークリングワイン風だね。


「父様、どう?

甘い?」

「確かに甘いがこれは甘さがスッキリしていて飲みやすいね」


 そう言ってまた一口飲みつつ、グラスを持っていない方の手で反対僕の頭を撫でてくれる。


 義父様の様子と大きな手に安心したせいか、また少し眠くなる。

もちろん今はまだ寝られない。


「んふふふ、良かった。

これ、お腹にもお肌にも良いんだ。

それからね、こうすると綺麗でしょ」


 そう言ってシュガーコートされたエディブルフラワーを自分のラペ色のグラスにいくつか浮かべた。


 すると従兄様のお顔が興奮に赤く染まった。


「アリー!

それ良いね!

この果実水、売って欲しい!」

「····言うと思った」


 けれど僕のお顔は少し曇る。


「え、何?

何かあるのかい?」


 うーん····。


「父様、どうしよう?

僕まだ何も準備できてないよ?」

「そうだね、どうしようか。

ガウディード。

その件はひとまず保留だ」

「ええっ」


 義父様の言葉に泣きそうなお顔になっちゃった。


 ごめんね、従兄様。

僕の体調がまだ落ち着かない真冬に作って、思いつきで体調を見ながら仲の良い人からのお祝いの返礼に贈ってたから、販売やらまで考えきれていなかったんだ。

数日前にもお熱出してたし、僕は今正真正銘の病弱令嬢なんだよ?


 それに従兄様が突撃訪問しちゃったから、販売に関わる義父様とも話し合う余裕が無かったんだ。


「ひとまず、だよ。

お前もまだ今日来た目的を全て話してもいないだろう?

私の可愛いアリーが来る前に話していた件もまだ途中だからね」


 そう言って甥っ子を宥める義父様も素敵だ。


「まあ、そうですね。

アリー、ごめんね。

この果実水にのまれて少し急ぎ過ぎた。

そのケーキの話がまだ途中だったよね。

1つずつ話を進めさせてもらっていいかい?」


 そういえば外で会った時にもどこか言い方が歯切れ悪かったし、僕もまだこの酵素ジュースで説明して無い事もあるんだ。


「うん。

じゃあケーキから話すね。

あのね、これは夏のケーキでしょ?」

「そうだよ。

花びらが味気ないんだよね?

でもシロップ漬けにすると夏はくどさを感じるかもしれないんだ。

クラシックシリーズのテーマはシンプルかつ上品な甘さの演出だからね」

「うん。

それでね、お湯に塩を入れてかけてみたらどうかな?」

「塩····」

「そう。

夏は汗で体の塩分が足りない事もあるから、塩味を感じる事で甘さが引き立つと思うの。

花びらを塩漬けまですると見た目と味を損なうだろうけど、薄い花びらに熱い塩水をかけるのならほど良いんじゃない?」

「なるほど····それこそ夏らしい考えでもあるし、取り入れてみるよ!」


 ニパッと笑う従兄様がちょっと可愛いね。


「それからこのシュガーコートしたお花は飲み物全般に使えるから、まぶす砂糖の量を調節して用途別に売り出してもいいと思う。

飲み物だけじゃなくて、ケーキにこんな風にお好みで購入者が散らしてもいいと思うんだ」


 パラパラと自分のケーキの上に散らせてからパクリ。


「うん、こういうのも食感のアクセントが出て美味しいね。

もちろんこれはお茶や料理にも使えるし、砂糖だけじゃなく塩でも使えるんだよ。

これは父様、うちの領でもハーブソルトなんかに入れて貴族向けに販売できるけど、どうしよう?

幸い食用花の運搬ルートは従兄様が開拓してくれたみたいだよ?」

「はっ、まさかその為に教えてくれたとか?!」

「私、体の弱い令嬢だもの。

義父様は領主のお仕事、バルトス兄様とレイヤード兄様は商業とは全く関係ないお仕事で忙しいでしょ?

頼れるのは従兄様かなって」


 上目遣いに従兄様を見る。

僕は自分のお顔は過大評価も過小評価もしない。

タダで有効活用できる物は有効に利用するのみ!


「そ、そっか。

それじゃあ、叔父上。

後でそれについては話を詰めましょう」

「おや、私も乗せられた。

私の可愛い娘はやり手で可愛いね」


 そう言ってまた頭をなでなでしてくれた。

まずい、気持ち良くて頭がぐらりと揺れそうだ。


「んふふ····父様····もっと····」

「いいよ。

ほら、おいで」


 義父様は誤魔化すようにもっとと頭を下げた僕の両脇に手を入れて、そのままひょいっとお膝に移動させる。


 ええ?!


 びっくりして一瞬意識が覚醒した。


「父様、これは他に人もいるのに恥ずかしいよ?

もう大人なんだよ?」

「大人になっても可愛い娘だから問題ないさ」


 そう言ってぎゅっとされて、よしよしからの、お背中ぽんぽんもされる。


 ただでさえ熱が落ち着いたから久々にお外に出たばかりだったんだ。

思ってたより体力を消費してた。

そこに少し冷えた体は義父様とニーア、それからセバスチャンに代わる代わる魔法で温められては冷めて、また温められてを繰り返したからかな?

体の温まった今は心地良い倦怠感を武器にずっと睡魔が手招きしてたんだよ。


 くっ····ダメだ、子供みたいに眠くなって····きた。

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