259.魔族と人族と精霊〜ギディアスside
「アリーは光の精霊王様以外にも上位の精霊と仲が良いんだね」
そう、目の前で兄といちゃこらしているこの少女に確認したい本題は、あの赤髪の男の正体。
ついでに他にもそんな存在がいるのかもできれば教えて欲しいんだけど、どうだろうね。
この一件で魔力はかなり消費させられたし、バルトスが咄嗟に私を己の魔力で覆ってくれたにしても、五体満足で転移できたのは紛れもなくあの男のお陰だ。
あの時一瞬感じた煮えたぎる魔力は明らかに異質な物だったし、そもそもあんな事ができるのは人とは別次元の存在でもなければ普通はできないよ。
それに人
そのどれもがあの男は精霊だと告げている。
余談だけど、この世界の私達のような人の形を取る者達を大きく識別するなら魔族と人族に分かれる。
人族を細かく分ければ獣人属、魔人属、人属となるけれど、魔族と人族は住む世界を違えていて、互いに顔を合わせる事は基本的にないとされているんだ。
ちなみに魔人属の祖は魔族とも言われているけれど、はっきりしていない。
これらの事はあくまで口伝によって広く浅く認知されている程度だけどね。
魔族は人族を忌み嫌い、力の差も相まって遭遇すれば瞬殺されると言われているせいかまともに調べる者もいないし、そもそも調べる対象もないんだよね。
喪われた魔法と呼ばれる古代の魔法には魔族を召喚する方法もあるとされているけれど、全てがあやふやな口伝で王族のみが閲覧を許される禁書と呼ばれる古い文献でも真偽を確かめる術はなかった。
王位を継げば王だけが閲覧を許される書物を見られるかもしれないけれど、今の私が知り得る知識はここまでが限界。
精霊については人族と共に在るけれど人に似て人に非ず、その姿を人が捉える事は奇跡とされている。
正直この少女の眼の秘密を知り、精霊という存在をはっきりと見るまでは彼らの存在を幽霊や人を化かす魔獣の類いじゃないかと疑ってすらいたくらいだ。
そして直感だけどあの赤髪の男は我が国の隣国であるザルハード国の第1王子と共にいる闇の精霊よりも強い。
かなり高位、もしかしたら1度だけ会った事のある光の精霊王のような力ある存在じゃないかな?
確認する為にも、まずは目の前の彼女に許可を得る。
魔力がないのに珍しい魔眼に加えて御伽噺でしか聞いた事のない、伝説級の精霊眼まで持つこの少女の秘密を守る為、私とこの子で誓約を交わしているからね。
交わした誓約に抵触するのはまずい。
そして許可を得た私を天使の頭上から苦々しそうな顔でずっと睨んでいるバルトス。
しかし彼の天使が許可を与えた以上は静観してくれるみたいだ。
天使のお陰か殺気までは出していないけど、顔つきは凶悪だよ。
どうにかならない?
天使は何かに気づいたように兄を見上げる。
直前で元の兄の顔に戻るとか、どんな顔芸のエキスパートなの?!
「珍しいね?
兄様が手を借りるのも、彼が兄様に手を貸すのも」
あの時の光の精霊王様や、今のこの様子で精霊と確信できたあの男とのやり取りを思い出しても、恐らくグレインビル一派と精霊一派とでこの少女を取り合いしているのは間違いない。
そもそもバルトスは誰かの手を借りる事だって滅多にないから、この子が不思議そうな顔をするのも頷ける。
「ふっ、俺の可愛いめそめそ天使の元に駆けつける為ならエセ爽やか野郎の押し売りでも買ってやるぞ」
「め、めそめそはもうしてないもん」
なんてグレインビルの悪魔と悪魔使いの甘々劇場を見せつけられる羽目になったのにはまいったけど。
もちろん放っておけば劇場公演が続くから、話を戻す。
「あの青年や光の精霊王様と同レベルの力を持つ稀有なお友達は他にもたくさんいるのかな?」
「それは····秘密です」
けれど結局秘密は秘密のままに、兄に抱きついて背を向かれてしまった。
ある意味これが答えなんだろうけどね。
残念だけど、この子も相変わらず面倒事への察知能力はよく働くみたいだ。
まああわよくばこの子を懐柔して手元に置きたいと思ってしまうのは、王太子である以上仕方ないよ。
友に睨まれすぎてそろそろハートブレイクしそうでつらい。
もちろん無理強いはしないから、そろそろ凶悪な顔を戻さない?
だってこの子のこれは諸刃の剣だよね。
扱い方を間違えば、背後に化け物レベルの精霊や魔王や悪魔達がいるんだから。
そしてふとヒュイルグ国王はこの事を知っているんじゃないかと直感する。
もしもこの子が望むなら、妃に据えたいと思うのも頷ける。
なんて思ってたら悪者にされそうになってしまった。
突然連れられて来たんだから確認してみるくらいいいでしょ。
「俺の可愛い天使の気分を害するなら悪者だな。
そもそも結局のところお前が自分からついて来たのに気づいてないと思うか?
無理強いまではしていない。
あのエセ野郎が手を貸した時点でお前がいなくてもここに転移はできたぞ」
と思ってたらこれだよ。
本当に私の友は勘が良い。
「だって楽しそうだし、もう国王陛下には書き置き書いた後だったし?
それに弟王子の滞在期間が延長する
それに国王を狙った謀反が起こった上に代々忠臣として辺境を守ってきた臣下の溺愛する娘が拐われたんだよ?
それもアドライド国の王子の初めての親善外交中にだし?
同盟国とはいえ非公式でもさすがに釘は刺しておかないとね?
王太子の僕が直接赴く事でうちの第2王子の存在も守られるでしょ?」
だから色々理由をつけてみたけれど、本心は亀裂の入りまくってる
お互いの立場上なかなか難しい課題だけどさ。
もちろん未知との何かしらの遭遇がありそうでわくわくするからっていうのもあるけどね。
間違いなく好奇心は刺激されるし、楽しそうじゃない?
そう思って友の天使を見れば、夢の世界に羽ばたきそうだね。
あんな風に兄を恋しがって泣いてたんだから、きっと昨夜は眠れてなかったのかな。
バルトスも気づいて背中を優しく叩く。
寝かしつけに入ったみたい。
「眠くなってきたのか、俺の可愛い天使」
「昨夜はあまり眠れてないんでしょ?
こっちに突撃訪問した事はもう知らせてあるから、アリーは何も心配せずにそのまま眠るといいよ」
直前にはなったけど、知らせを出しておいて本当に良かった。
恐らくルドあたりが彼を呼び出してるんじゃないかな。
この子が起きている間に
「ん····おやすみなさい」
「「おやすみ」」
そうして相変わらず可愛らしい彼女は微睡み始めた。
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