253.稀有なお友達とは

「つまりバルトス兄様が私と連絡を終えた後、このお城に来た事のあるギディアス様を引き連れて転移したってこと?」

「アリー、ギディって呼んで欲しいな」


 ····一瞬、弟王子のルド様とのいつぞやのやり取りを思い出したからね。


「えっと、ギディ様?」

「ふん、距離を詰めようとするな。

王族接近禁止の約束は健在だ」


 義兄様が不愉快そうに鼻を鳴らす。


「ありがとう、アリー。

バルトス、お願いを素直に聞いて手伝ったんだから、今くらいいいでしょ」

「爆ぜろ」

「ふふふ、ありがとう、バルトス」


 うん、やっぱりこの2人の会話がコントに聞こえる。


「でもそれだけじゃ来られなかったんだよ?

ねえ、今はアリーの稀有な燃えるような赤い髪と珍しい青い目したお友達について話してもいいかな?」

「稀有なお友達、ですか?」


 ん?

何の事だろう?


 この2人だけじゃ転移で来るのは難しいのは薄々気づいてた。

それに稀有で燃えるような赤い髪と珍しい青い目で、わざわざ僕の許可を求めるお話····ふと思い当たる。


「····許可します」

「チッ」


 そう言うと、義兄様が舌打ちして守りに特化したこのお部屋の中で更に防音、防視の魔法を発動させた。

どうでもいいけど、ここの国王の僕の態度は置いといて、不敬罪とかならないよね?


「アリーは光の精霊王様以外にも上位の精霊と仲が良いんだね」


 やっぱり?

あの彼が手を貸したのなら、2人が仲良くここまで転移できた上に魔力の枯渇もなく元気にコントできてるのも納得だ。


 僕に許可を求めたのは、どこぞの第1王子と闇の精霊さんが光の精霊王を怒らせてお仕置きされた一件で僕の目について魔法誓約を交わしたからだろうね。

精霊さんの話に触れるなら、僕の目に関する誓約に抵触する可能性が高いもの。


 あれ?

もしかしてレイヤード義兄様がルドルフ王子に呼び出されたのって····。


 僕をお膝に乗せてにこにこ微笑むバルトス義兄様を思わず見上げる。


「俺の可愛い天使。

どうした?

見上げてくる天使な顔もいいな」


 デレデレしながら僕の頭を大きな手でナデナデし始めた。


「珍しいね?

兄様が手を借りるのも、彼が兄様に手を貸すのも」


 基本的に僕を大好きな精霊さん達と僕を溺愛する僕の家族達は何かと喧嘩しがちなんだ。

愛されるって時にしょうもな····コホン····どうしようもない闘いを生むんだなって今世で初めて知った事の1つだよ。


「ふっ、俺の可愛いめそめそ天使の元に駆けつける為ならエセ爽やか野郎の押し売りでも買ってやるぞ」

「め、めそめそはもうしてないもん」


 義兄様の言葉に今朝の自分の痴態を思い出して顔が熱くなる。

思わずぷいっと顔を背ける。


 僕の中身は四捨五入すれば400才なのに、ホームシックで泣きつくとか恥ずかしいよ!


「赤くなる天使も····いい」


 もう!

そんな風に微笑ましく見ないでよ!


「うん、相変わらずのグレインビルだね」


 ギディ様、砂糖を口に大量投入したようなお顔しないでよ!


「それでね」


 あ、少し真面目なお顔になった。


「あの青年や光の精霊王様と同レベルの力を持つ稀有なお友達は他にもたくさんいるのかな?」


 ふーん。

彼は自分が精霊の中でもどういう立場なのかまでは言ってない。

けどギディ様は薄々気づいてる、てとこかな?


「それは····秘密です」


 でもそんな事知ってどうするの?

無駄な思惑に巻きこまれるのは避けたいから真実なんて語らないよ。


 引き締まった太ももの上でギディ様に背を向け、義兄様の広いお胸に再びギュッとしがみつく。


「ふ、役得だな」


 義兄様も同じようにギュッと抱きしめ、ついでに背中をトントンしてくれる。

むむ、そうされると睡魔が襲ってきちゃうのに····。


 でも心地良いから止めてとは絶対言わない。


「えー、私が悪者になってない?」


 ギディ様は少し拗ねたような声を出すけど、今はそちらを見ないようにしよう。


 好奇心は猫をも殺すっていうのが僕の元の世界の常套句なんだよ。

お互いにね。

当たらず触らずがいい。


「俺の可愛い天使の気分を害するなら悪者だな。

そもそも結局のところお前が自分からついて来たのに気づいてないと思うか?

無理強いまではしていない。

あのエセ野郎が手を貸した時点でお前がいなくてもここに転移はできたぞ」

「だって楽しそうだし、もう国王陛下には書き置き書いた後だったし?

それに弟王子の滞在期間が延長する事態だし?

それに国王を狙った謀反が起こった上に代々忠臣として辺境を守ってきた臣下の溺愛する娘が拐われたんだよ?

それもアドライド国の王子の初めての親善外交中にだし?

同盟国とはいえ非公式でもさすがに釘は刺しておかないとね?

王太子の僕が直接赴く事でうちの第2王子の存在も守られるでしょ?」


 ふむ。

本音は楽しそうだから、なんだろうな。

お顔がニヤニヤしてるよ?


 でもまあ、確かに今回の件はヒュイルグ国の汚点だ。

その上国の重要性が高い王太子が王子の為に動いた事は非公式であってもいずれは各国それぞれの諜報員から知らされる。

王太子のスペア第2王子の価値はそのままに、けれど王位継承者同士の仲は良好だと判断されるだろうね。


 だけど、だ。

僕を拐った犯人達は数年前に自国の汚点となった第2王子の誘拐犯と同一人物でもある。


 そしてそもそも何故この最北端にして雪に覆われるこの国に、よりによって冬に差しかかるあの時期に王子を渡航させたのか。

そしてこの国も何故あの時期に受け入れたのか。


 王子が自国に戻れる頃にはアリリアの咲く学園の卒業が間近に迫ってる頃だろうね。


 うーん····双方の国に落とし所が点在してるね。


「ふぁ····」


 考えてたら眠くなってきちゃった。


 ただでさえ昨夜はあまり眠れてないんだ。

その上焦がれに焦がれた大好きなバルトス義兄様のお膝に乗って広いお胸にダイブして背中をトントン、頭ナデナデされてるんだよ。

体力のないホームシッカーの瞼は確実に重くなるに決まってる。


「眠くなってきたのか、俺の可愛い天使」

「昨夜はあまり眠れてないんでしょ?

こっちに突撃訪問した事はもう知らせてあるから、アリーは何も心配せずにそのまま眠るといいよ」


 ああ、やっぱりレイヤード義兄様を慌てた様子で呼び出したのは、そういう事か。


「ん····おやすみなさい」

「「おやすみ」」


 そのまま僕は心地良い微睡みに身を任せた。

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