226.変態国王〜ルドルフside

「それに今は城の中よりもここが1番安全じゃないのかな?

ここなら侵入者がいてもすぐわかるように僕が色々手を加えてるし、建物には保護魔法をかけてる。

アリーは嫌がるだろうけど、最悪は壊して脱出もしやすい。

君も実はそれを見越してここに避難誘導されたんじゃない?

今の君は大して戦えないからね。

それよりあの夫人を手引きした何者かは捕まったわけ?」


 大して戦えない?

どういう意味だ?

確かかつて双頭の獅子と呼ばれ、武に優れているとアドライド国にまで噂が広まっていたこの国の双子の王子が国王と大公ではなかっただろうか。


「鋭いね。

まだだよ。

今は元王女を尋問してるけど、収穫はないんじゃないのかな」

「何者かの狙いは?」

「少なくともグレインビル嬢が狙いの1つなのは確かみたいだね。

ヒルシュが言ってなかった?

数年前に王子を拐った誘拐犯が手引きしたって。

どうやらその内の1人がグレインビル嬢の居場所を探せと言ったようだよ」

「そう」

「心当たりはないのかな?」

「あり過ぎるね」


 レイの言葉に俺も頷く。

全てはあの時の俺の落ち度だ。


「あの時魔力がない事に興味を示していた者もいたし、初対面のグレインビル嬢に殺意を持っていた者もいた。

しかもの機転で俺達全員は救われた分、更に恨みを買った可能性もある」

「なるほど」

「すまない、レイ。

あの時の誘拐に巻き込まれた事も、この国に足止めされたのも俺のせいだ」


 あれからシルを始めとした騎士団の面々、時には兄上やバルトス殿、それからレイやゼストの護衛にも手合わせしてもらい、兵法を学び、冒険者としての依頼をこなして自己研鑽に励んだ。

だが今のレイを知れば知るほどまだまだだと落ち込みそうになる。


「君のせい、というのは少し違う。

だけどアリーには今後もできるだけ近づいて欲しくないとは思ってる。

もちろん君達にもだけどね」


 そう言ってレイは大公を冷たく見やる。


「そうだね。

今回こんな事になったのは私達のせいだから申し訳ないとは思ってるけど、陛下がご執心だから約束はしかねるね。

それにグレインビル嬢は国民がこの国の王妃に求める物を持ち合わせているから止める事も出来ない」

「そうだろうね。

だけど間違いなくアリーはこの国の国王も含めた重鎮達を嫌っている。

特に国王とその側近、そして君は明確だ」


 レイの言葉にあの晩餐会の時の舌打ちや、先ほどのふざけているのかという苛立たしげな言葉を思い出す。

声は小さかったが、風を使って周辺を探っていたからその声を拾ってしまったのだ。


 思えばレイが指定した3人といる時はいつもの温和な雰囲気とは何か違う気配を纏っているように感じていた。


「やはりそうなのか。

だが何故だ?

アリー嬢は俺達王族と距離を置こうとはしても、嫌っているわけではないだろう?」


 と言いつつ、もし嫌われていたらどうしようかと内心ひやひやしてしまう。

だが、答えは全くの予想外だった。


「国王と側近がアリーの1人前の専属侍女を殺し、そこの彼は立場上止められたはずなのに止めようともしなかった者の1人だからだよ」

「は?!

····何故····そんな····」


 見れば大公は痛ましそうな顔を心の妹に向けている。


「言い訳はできないね。

その通りだ。

だからも内々にしか婚約を打診しない」


 だが兄の顔をした大公と心の妹の兄であるレイは俺の疑問は無視して2人の話は進む。


 ふと誘拐された時の、あの専属侍女の言葉を思い出す。


『本来お嬢様だけであったなら恐らくご自身で切り抜けられたでしょう。

常に備えるようにされていらっしゃいますし、場数だけは無駄にこなされていますから』


『お嬢様はただでさえ魔力0の魔術師家系の養女として狙われやすい。

その上体調を崩せば死にかけるくらいお体は虚弱なのです』


『お嬢様はこれまでに何度か拐われておりますし、外部の要因によって命の危険にも晒されてきております。

お嬢様付きの専属侍女は護衛も兼ねておりますが、私は3人目の専属侍女です』


『元々のグレインビル辺境領がどのような場所で、領主は代々何を使命とされるのかお忘れですか?

お嬢様の体質も、とても稀有なものなのですよ』


 今の国王は昔ヒュイルグ国辺境の地の領主だった。

飢餓に喘ぐあの土地の民への支援と引き換えに、先代の国王はグレインビル領に紛争を仕掛けるよう彼に要求していたのは広く知られている。

同盟国であるにも関わらずだ。


 それだけこの大公の双子の弟王子であった今の国王や代々のグレインビル領領主を毛嫌いしていたらしいが、まさかその延長で心の妹の誘拐を目論み、当時の専属侍女を殺したのか?!


「むしろしなければいいんじゃない。

アリーからすればそれすら虫酸が走る思いだろうね」

「ははっ。

そんな風に私達に言うのは君達グレインビルの人間くらいだろうね。

だが、それくらい弟は君の妹に焦がれているんだ。

恋なんて言葉が軽く聞こえるくらいに」


 大公は苦笑するが、レイの態度は冷え冷えとしたものだった。


「良いように使おうとしているだけでしかない。

もしくは幼児趣味の変態だ」

「全て含めてアリアチェリーナ=グレインビル侯爵令嬢の魅力だね。

だけど私も最初は長らく弟が婚約すらしようとしなかったのは、幼児趣味の変態だからかとドン引いたのも確かだ。

何せ3つか4つの幼子を見る目を間近で見て初めて弟の本気度はわかったけど、あの目はそんな幼子に向けては駄目な類のものだったと今でも思うよ。

確かに先が楽しみになる美幼女ではあったけれどね」

「まだ王子だった国王が君と側近を引き連れて内々に邸に押しかけてアリーに求婚した時だね。

アリーのゴミ屑を見るような目を物ともせずに、婚約でもなく恍惚の目で求婚する変態野郎は僕達家族でも引いたよ」


 な?!

やっぱりあの国王は変態だったのか?!



※※※※※※※※※

お知らせ

※※※※※※※※※

側近の名前をアドレイからヒルシュに変更しています。

熊属誘拐犯のラディアスもベルヌに変更していきます。

アドライド国や王太子ギディアスの名前に似ていたので。

ネーミングセンスが壊滅状態ですみません。

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