222.いつから?
「どういう事か説明されよ、ヒュイルグ国国王。
あの茶会や晩餐会もそうであったが、流石にあの母娘の言動は常軌を逸して目に余る。
アドライド国王族である私だけではない。
我が国の貴族令嬢に対しても、アドライド国王族の護衛に対してもだ」
わぁ、ルドルフ王子って、感情的にならずにちゃんと王族らしく物申せるんだね。
あの後夫人はいつもの側近が率いてきた兵士さん達に両脇をガシッとホールドされてズリズリ引きずられて引っ立てられた。
色々と夫である宰相や僕に喚き散らしていたけど腰が抜けてたし魔封じの枷もつけられちゃったから、ほぼ無抵抗だったよ。
そんな事より、僕はいつまでお外で君達に付き合わなければいけないんだろうね。
いくら義兄様に抱っこされて、それとなく義兄様が魔法で僕の周りの空気を温めてくれてても疲れてくるんだけどな。
「失礼。
ひとまずご令嬢に温室へお入りいただいてもよろしいかな?
少しお疲れのようだ」
ゴードンお爺さんグッジョブ!
普通は王族同士のお話に割って入るの勇気がいるのに、さすがだね。
「ああ。
私達もそこで説明をさせてもらおう」
え、嫌なんだけど。
国王ってば、何の巻き込み事故にするつもりかな。
思わずムスッとしちゃった。
「陛下。
私の方からグレインビル嬢へ説明致します。
陛下と宰相閣下は早急に書類の調印と例の処理を指揮なさって下さい」
「いや、しかし····そう、だな。
ここはお前に任せる」
彼の性格的には直接サクッと説明しそうだけど、任せるって事は今はよっぽど時間との勝負に入っているのかな、何かを警戒してるのかな?
僕のお顔見てため息吐くなんて、失礼だよ。
まあずっとムスッとはしてるけどさ。
「王子、グレインビル嬢。
今は時間を争う故側近であるユニロムに任せるが、1週間以内には私の方から全て話そう。
それまでの間そなた達の護衛の数を増やす。
しばし不便をかけるが我慢されよ」
「····わかった」
王子が頷く。
状況を把握しきれないながらも、何かしらの事態が大きく動いているのは肌で感じ取っているんだと思う。
「すまない」
王子ではなく僕の方を見ながらそう言うと、彼はすぐに宰相と近衛や兵士を伴って踵を返した。
「それでは中にお入り下され」
ゴードンお爺さんもすぐに温室の扉を開く。
中に入ると温室全体はほんのり暖かい。
冬の間は一定の温度が保たれるように暖炉の火は消されないんだ。
普段僕がお茶をするソファとテーブル、少し離れてテーブルセットの辺りにはそれとは別に小型のストーブでしっかりと暖められている。
ここには時々人が入るし、僕が気分でソファでも椅子でもどちらでも使えるようにしてある。
「ご令嬢と兄君はカハイでよろしいかな」
「ああ。
王子には紅茶を頼む」
義兄様の言葉を快く受け、お爺さんはそのまま奥でお茶の準備を始める。
侍女もいないし、お爺さんの立場は1番下だからっていうのもあるけど、実はお茶を淹れるのが上手いんだ。
珈琲を淹れるのもすぐに覚えてくれたんだよ。
ちなみにこの国にきてすぐの頃、僕に使う茶葉に何かが混入されて以来、備え付けの棚は義兄様によって僕達兄妹とお爺さん、マーサしか開かないよう設定されてるんだ。
僕の疲れを感じ取ってくれたのか、指示を出した義兄様はソファの方に僕ごと座ってくれた。
僕は義兄様のお膝に横向きに座ってお胸にもたれつつ、背中を支えてもらってるから楽ちんだ。
こんな場でお行儀悪いかな?
でも知らないや。
義兄様の鼓動と温もりを感じて残っていた苛立ちのようなささくれた気持ちもやっと消えた。
中の温度も心地良くて、何だが眠くなるね。
義兄様はもう侍従役はしないのかな?
ここの面子は今更驚いてないから、認識阻害の魔法を使っててもわかってたみたいだけど。
ルドルフ王子は僕達、というか義兄様の隣に座ってお膝で寛ぐ僕に何か言いたそうなお顔をしたけど、正面を向く。
どうしたの?
護衛と侍従であるシル様とコード令息はもちろん王子の後方に立ったよ。
他国だしあんな事があったんだから、警戒して当然だよね。
お爺さんは僕と義兄様、王子の前にだけ用意した物を置いて立ち去る。
「毒の心配はいらないよ、ルドルフ王子」
義兄様はわざとわかるように鑑定魔法を使って一声かけてから、この国の職人さんに作ってもらった僕専用のマグを手渡してくれた。
自分も僕とお揃いのマグで一口飲む。
棚の設定を知らないから王子達が警戒するのは当然だし、ある意味側近への嫌味パフォーマンスだね。
お茶が来るまで立って待っていた猫っ毛の側近は必然的に僕達の対面のソファに断りを入れてから腰かけ、僕達を囲むように小さな結界を張って防音、防視、守護の効果を付与してから話し始めた。
「このような事態に巻き込み、申し訳ございません。
10年程王宮内にしつこく残っていた反乱分子を本日一掃します。
唯一邪魔だったクェベル国の元王女も今日のこれでまとめて処断となります」
ふーん、宰相夫人とはもう言わないんだね。
「ねえ、そんな事より僕の妹を囮に使ったのかな?」
けっこう
義兄様はマグを置いたらお膝に乗せた僕のフードを後ろに脱がせて髪を手櫛で整えてくれる。
少しピリピリした空気を醸し出してるけど、仕方ないよね。
「今日のこの一件に関してだけは誓って違います」
側近さんもそんな僕達を無礼だとは思ってないみたい。
むしろ真剣に否定する。
まあ当然か。
僕に帰られたら困るのは彼らだもの。
「本来なら夫人があの場に現れる事はありえませんでしたが、こちらが予期しない者が手引きしたようです。
ただ····夫人とその娘をコンプシャー公爵家から追放できる証言を偶然····いえ、グレインビル嬢。
貴女が
感謝しております」
含みを持たせた言い方だけど、君はいつから
「注意しただけですのに」
「ベストタイミングな煽りでしたよ」
「それはかなり初めから見ていたという事か?」
僕へ苦笑する側近に王子が眉を顰めて口を挟み、シル様は無表情でわざと殺気を放って威嚇する。
そうだね。
夫人が魔法で攻撃しようとしたのは娘がこの国の王族直系の血を引いてる発言したあたりだもの。
他国の王族を害しようとする者をこの国の都合でわざと泳がせたのなら、さすがにまず過ぎるだろうな。
でもそれは違うはずだよ?
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