179.狼さんのブラッシング1
「シル様!
やっとこの日がまいりましたね!
覚悟してください!」
「あ、ああ。
その、好きにもふってブラッシングしてくれ」
ソファに座るシル様のすぐ後ろには背もたれを挟んで僕が立っている。
もちろん僕のテンションはうなぎ登り!
昨年より一回り太く逞しく育てられた狼さんの筋肉はこの1年以上の間に彼がどれだけ努力したのかうかがい知る事ができる。
あの時僕のこの高ランクの顔面偏差値を最大限に利用して引き留めて良かった。
今では貫禄もついた精悍素敵美中年!
そんな彼のお顔とお耳の配合バランスの何と素晴らしき事か!
まずはシル様専用ブラシで同色の髪と一緒にとかしていく。
「相変わらず、ああいう時はとろけるような笑顔をしてるね」
「くっ、俺の天使が毒牙に····だがあの笑顔は····いい!!」
「いや、そもそもレイはあの立ち位置でいい····と、思うぞ!
とてもいい!」
「ふん」
ギディ様とバルトス義兄様はお話が噛み合っているようで、多分噛み合ってない。
ちなみに今はロイヤル側と僕達グレインビル家側で別れて座ってるよ。
それぞれの背後に護衛の2人と僕が立っていて、ザルハード国のロイヤルはやや緊張気味かな。
何だか鼻息の荒いレイヤード義兄様は立ちっぱなしの僕を心配してくれてるんだろうね。
僕の背後にぴったりくっついてあまりない色味らしい白銀髪を撫でてくれてるよ。
場所は再び客室だけど、今は商会長さん達と従兄様は別室にいるんだ。
彼らはお互いの商会やお店が扱う商品についての算段を立ててる。
押しかけ試食組のロイヤル達も別口で僕達と話したいらしくて、ちょうどいいから試飲が落ち着いたところで食堂と客室に別れた。
それに商会長さん達がいると護衛のシル様とアン様をもふれない。
ロイヤルの警護の観点から主張されると仕方ないよね。
商会長さん達は警護からすれば危険度がそこはかとなく低い一般的だし、特にカンガルーさんとはさほど面識ないんだもの。
だったら押しかけて来なきゃいいのにって思ったのは秘密にしとこうかな。
なのでまずはシル様とアン様を交互にもふってから、白虎さんとカンガルーさんをもふるって決めた。
その間にお祭りの日の七光り王子とその取り巻きの起こした一件についてお話しするんだって。
一応変装中とはいえ、僕へのカツアゲ行為についての補償のお話しもあるみたい?
まあそこに関しては保護者の義父様か代理のバルトス義兄様とで決めてくれればいいって事で、僕は当事者とは名ばかりのついでの立ち会い。
大体、僕は面倒だから黙ってたんだよ?
なのに現在手の平サイズの闇の精霊さんのおくつろぎスポットと化した頭の主、ゼストゥウェル第1王子殿下が正式な謝罪をしてきて翌日にはバレちゃった。
ただその時はちょうどお祭り疲れで発熱してたから誤魔化せたと思って一安心してたんだ。
なのに高熱が引いて微熱になった頃····。
いつぞやのどなたかの時のような分厚い反省文が何故だかレイヤード義兄様から手渡された。
その時に改めて義父様と義兄様の2人がかりで厳重注意を受けちゃった。
黙ってた事もばれてた事もすっかり忘れてたから、僕からすれば不意打ちもいいとこだよね。
もちろん誤魔化されてくれない家族も僕は大好きだよ。
素敵笑顔の2人の顔圧にちょっと泣きそうだったけど。
反省文は未だに僕のお部屋の机の引き出しにそっとしまってる。
あれ、見なきゃいけない?
軽くパラパラめくりはしたけどさ。
「まずはあの日の我がザルハード国第3王子エリュシウェル=ザルハードが働いた、アリアチェリーナ=グレインビル嬢へのあるまじき言動について改めて正式に謝罪する」
え、もうロイヤルの謝罪なんて面倒なんだけど····。
僕は素敵なケモ耳に集中したいのに、こっち見ないで欲しい。
「····受け入れます。
ただ、謝罪するのは第3王子であって第1王子である殿下ではありませんよね?
そもそも殿下にはあの日私の事を庇った上で謝罪していただきましたし、今はどういうお立場から発言されているのでしょう?」
毛並みの整ったお耳を今度はもふもふ、にぎにぎと触れる。
このほどよく柔らかい三角お耳がたまんない~!
「初めに伝えるべきだったな。
すまない。
留学中は彼らを日々教育及び監督する事で留学の継続を貴国には了承していただいている。
今はそうした立場から改めて謝罪をしている。
ただし今年入学したわが国の留学生のうち、第3王子の婚約者については反省と改善の余地無しとして帰らせた。
今後は自国にて再教育し、素質無しとなった場合には婚約を解消する。
ただし残る2人も私か貴国の私達の後見人となっているギディアス殿が留学するに足らないと判断すれば即刻留学を中止する」
····えっと、諸刃の剣って言葉はこっちの世界にあったかな?
今回のこの一件で、悪くはない立場にはなったよね。
ザルハード国は未だに誰も立太子されてないから、ゼストゥウェル第1王子が第3王子を教育や監視する立場となったのは1歩リードしたと言える。
だけどそれは残った2人が常識と良識をせめてこちらの国の半分でも身につけていたらの話だよね。
仮にそれを備えていたとしても継承問題を考えれば彼らが意図的に問題起こす可能性だって0じゃない。
だって彼らの不始末は必然的に第1王子の不始末になっちゃうんだから。
とはいっても····せっかく七光りが勝手に自爆したこの状況は確かに旨味のある絶好の機会なんだよね。
なんて考えながら僕の手によって軽く乱れたお髪を整え、今度はシル様の隣に移動してやや斜めに座る。
シル様も僕の方に尻尾が来るようにちゃんと斜めに座り直してくれたよ。
レイヤード義兄さまはそのまま背もたれに寄りかかって僕の頭をなでなでし続けてるし、バルトス義兄様は僕との隙間を埋めて腰に手を回す。
もちろんロイヤルの視線なんて気にする僕達じゃないよ。
義兄様達ってば、甘えん坊さんで可愛いね。
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