166.呼び出し~ギディアスside
「バルトス、落ち着くんだ。
オギラドン国のチャガン商会会長の息子さんだね。
今年初出店したヤッツジュースとカハイじゃないかな?
ヤッツジュース美味しそうに飲んでるね。
試飲したけど、甘くて独特の風味が美味しかったよ」
冷え込む外気にフルリと身震いして元凶の注意を逸らしにかかる。
そういえばあのカハイはものっ凄く苦かったんだよね。
て、あの子カハイも飲もうとしてる?!
子供の飲み物じゃないよ?!
流石に近くの獣人2人がかりで止めてるけど····結局飲むんだ。
ていうか止めちゃうような代物を売りに出してるってどうなの?!
ほら、苦いって言ってる。
え、なのに笑い始めた?!
大丈夫かな?!
うん?
一口焼き取り出した?
あ、そのコラボは美味しいかもしれない。
私も今度やってみ····さらにニヤニヤ笑い始めた?!
カンガルーと白虎が後退したけど、気持ちはわかるかも····。
振り返ると護衛2人は無表情だけど、王子2人も引いてるよ。
「それにしても、アリー嬢はいつもあんな感じで祭りを楽しんでるのか?
視察してるみたいだ」
「多分物珍しい物を買うに違いない。
レイ、またアリーの試食会····いや、何でもない」
ゼストゥウェル王子の言葉に2年前の事を思い出したのか、ルドルフが思わず同じ事を口にしようとした。
一瞬レイヤードがチラリと冷たい目を斜め後ろに向けたけど、最後まで言わなかったからか視線を義妹に戻した。
きっとまだ彼はルドルフや、王家の最初の対応を許していないんだろうね。
これに関しては私ももう弁明できないし、王族として既に彼らの望む形での謝罪を正式にしてしまったからこれ以上の謝罪はできないんだよ。
レイヤードもそこは理解しているからこそ、何も言わないで矛を収めたんだろうけど。
かなり昔、アリーを養女に迎えて何年かした頃にバルトスがレイヤードも最近やっと天使を妹として受け入れ始めたと嬉しそうに口を滑らせた事があった。
アリーが養女となったタイミングやまだまだ幼かったレイヤードの気持ちを考えれば本心から受け入れるのに時間を要するのは当然だっただろう。
バルトスもレイヤードの兄として見守っていた。
そして今はその反動のように義妹を溺愛しているんだけど、過保護具合はバルトス以上だ。
これはレイヤードが許してくれるまで年単位で時間がかかりそうだけど、こちらとしては黙ってやり過ごす他ない。
弟よ、頑張れ。
お、そろそろ南の商会ブースに移動かな。
と思ってたら向こうから誰かがアリー達に向かって一直線に走ってくるね。
あの黄茶と焦げ茶の虎柄の彼はアボット会長の弟だったかな。
「ギディ様!」
それと同時に近衛騎士団副団長で黒豹属のアント=モーガがザザッと背後に現れた。
····アン、あの留学生達を監視しててって命令してたけど····。
タイミング良く現れたあっちの弟とこっちのアンに嫌な予感しかしない。
ルドルフもゼストゥウェル王子も何かを察したね。
「問題、だね?」
振り返りつつ、思わずこめかみを押さえてしまう。
できる事なら確認したくない。
「何かどっかの貴族のお偉いさんらしいガキ共がブースで難癖つけてきて、会長出せとか、国交問題にしたいのかとかわめいてんだ。
ブースにいた子供らもそいつが蹴ったりして何人か怪我しちまった!」
そう思っていたらアンが頷くよりも早く、虎属の弟が遠くで捲し立てる。
声大きいね。
おかげで最悪の事態なのはわかったよ。
「そういう事だね、アン」
「はい」
とたんにゼストゥウェル王子の顔色が変わる。
「····兄様ぁぁぁぁ!!!!」
しかし彼が何かを言う前に、向こうで話していたアリーが突然叫んだ。
何事?!
思わず全員が声の主に目を向ける。
あれ、バルトス達····は、もう義妹の隣に立ってるし、バルトスなんてさっさと小柄な体を抱えてるね。
シスコン発言で虎兄弟が引いてるよ。
「兄様達、やっぱりついて来てましたね。
今日は1人で行動するって言ってたのに」
それにアリーは監視されてたのを気づきつつもおかんむりだ。
頬っぺた膨らまして可愛らしいな。
私達までいるとは思ってなさそうだ。
「う、嘘だ····グレインビルの悪魔達が····素直に謝っている、だと?!」
あ、ゼストゥウェル王子が愕然としてる。
「そうだ、アリー嬢は悪魔使いだからな」
どうしてルドルフはどや顔なんだろう?
シルもアンもうんうん頷いてるけど、密かにアリーに感化され過ぎてない?!
「という事で、2人共ウィンスさん達と西の商会のブース行って騒がしい貴族の子息達を黙らせて来て」
ん?!
今天の声が降り注いだ?!
悪魔達が抵抗してるけど、どっちが勝つんだろう?!
気になって風で声をかき集めるよね?!
「その代わり、さっさと終わるようなら一緒に回ろう?
そろそろ疲れたの。
抱っこして一緒に回りたいな。
私はこのまま南の商会のブースに行くから、そこで合流しよう?
ね、お願い?」
お、これは天に軍配か?!
「本当か?!
実に3年ぶりの天使とお祭りデート。
滾る!」
「絶対だよ、アリー。
僕なんか4年ぶりなんですからね、兄上」
「もちろん挑むところだ!」
天の勝利だ!
ありがとう、グレインビルの悪魔使い!
南の国までその名が轟いてるなんて流石だ!
そこの悪魔達は義妹とのお祭りデートに浮き足立ってるから、カンガルー属の君の事なんて眼中になくなっているから安心していいよ!
おっと、あっちは既に転移してしまったか。
私達もさっさと行かないとね。
こっちは彼らみたいに1度通ったくらいでは流石にこの人数を転移させる事はできない。
「ゼストゥウェル王子はこのまま残ってアリー嬢を見守ってて。
君の弟や取り巻きと鉢合わせするのも避けたいだろう。
それにあの子にもしもの事があると後が怖い」
「わかった。
何かあれば責任をもって守る」
うん、後ろの護衛もいるし大丈夫だろう。
1番避けたかったあの問題児達との遭遇は回避できたみたいだしね。
そうして私達は問題児達がいるはずの西のブースへと急いだ。
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