68.馴れ初め

 レイヤード義兄様の癒しの寝顔や、起きて僕を乗せてくれる義父様より少しだけ厚みの少ないお膝を堪能したりつつ、1度休憩を挟んで馬車は王都を少し越えて山を整地した貴族の別荘がいくつかの区画で区切って建ち並ぶ内の義父様の所有する別荘で停車。


 休憩の時は義兄様が作った保冷温に優れた水筒の試作品の出来を2人で堪能しながら散策したよ。

義父様は残って馬車の具合や御者台の感想をニーア達に聞いてた。

うまくいけばロイヤリティーがまた入りそうだね。


 既に夕方だから今日はここでお泊りなんだけど、僕がここに来たのは今回で2度目。

以前ここに来たのは僕が1才になった今くらいの時期だったかな。

その時も狩猟祭の為に家族で来たんだけど、生憎その時は僕が翌日に高熱を出して義母様とレイヤード義兄様とお留守番になったんだ。

当時は普通の馬車で通常の時間をかけて来たから小さかった僕には負担だったんだと思う。


 本当はその時伯父様一家と僕の顔合わせをする予定だったけど、結局伯母様達と顔を合わせたのは義母様のお葬式の時だった。

伯父様と伯母様の馴れ初めは学園で義母様とお友達になった伯母様を伯父様が見初めて口説いたんだって前にバルトス義兄様から聞いたから、伯母様は友人で義妹の義母様とのお別れは惜しんでくれたんじゃないかな。

状況も状況だったし、伯母様達とは顔を合わせただけでその時は伯母様とは話せてないんだ。


 ちなみに今回一緒に行動する従姉様おねえさま以外にもバルトス義兄様より1つ年上のお兄さんが1人いて、今もなんだけど伯父様と従兄様おにいさまはグレインビル領にお馬に乗って2人で来る事が時々あったから実は伯母様達女性陣より気心が知れてるんだよ。


 明日はお昼前にここを出発して、夕方にアビニシア領領主が用意したゲストハウスで3日間泊まる予定だけど、義父様と伯父様は元々仲の良い友人同士だし、親戚関係もあるからどうせなら親交を深めようって伯父様の方から義父様と主催者側にお願いして3日間同じハウスになった。


 従姉様はレイヤード義兄様の1つ下だけど学園での接点はないみたいで話に出た事がないし、従兄様からの前情報では公爵令嬢としての振る舞いは及第点だけど気が強いみたいだね。


 伯母様は良くも悪くも普通で元は侯爵の出らしい。

学園で伯父様に出会う前は当時王太子だった国王陛下の婚約者候補の1人で王妃様と婚約者の座を争ってた····主にそれぞれの生家が。

伯母様も王妃様も未来の王妃に相応しい教育を受けてたのは間違いないんだけど、伯母様は侯爵令嬢としての義務感、王妃様は王様に好意は寄せてたけど王妃の立場には拘って無かったって。

ぶっちゃけ側妃のが責任少なくて良いって考えだったみたい。

ふふふ、これは義母様の秘密情報だからもちろん誰にも言わない。

3人は学園の寮で秘密の女子会をする仲だったらしいよ。

青春だよね。


 明後日開催される狩猟祭に義父様達が参加する間、僕は伯母様と従姉様と一緒に王妃様が主催するお茶会に参加する予定だけど、他にも参加する婦女子がいる手前そこらへんの当時の恋バナは聞けないのがちょっぴり残念。


 そうそう、義父様と義母様の馴れ初めはグレインビル領で開催された狩猟祭。

当時はまだ領のすぐ隣の隣国とは同盟結んでなくて戦争までは発展しないけど大きめの紛争はちょくちょくあったし経済面でも今より格段に劣ってたから当然狩猟祭は順番通りにうちの領でも開催されてたんだ。


 当時8才の義母様を9才の義父様が見初めて1年間義母様の生家に週1で通って口説き落としたっていうのはグレインビル領内では周知の事実。

義父様の転移魔法はその時習得したらしいけど、9才で高位魔法を習得するって義母様への執念がそら恐ろしいよ。


 義母様の生家の方はさすがに2人とも幼すぎるっていうのと、義母様は目を離すと走り回ってじっとしてないような淑女教育がままならないお転婆少女で、そのくせ時々倒れるような体の弱さを合わせ持ってたから辺境領に嫁がせるのが不安だったみたい。

それに本人が嫌がれば間違いなく家出するくらいには行動力のある頑固者だったから、本人の了承が絶対条件だったっていうのは伯父様から聞かされた。


 当時陞爵したばかりとは言っても義母様の生家は実は公爵家。

陞爵間近だったとはいえ、当時はぎりぎり伯爵位だったグレインビル家との家格差はどうだったのか聞いたら、そこはグレインビル家が伯爵の中でも特殊な辺境伯だったのと、義母様の資質的な理由を考慮して気にされなかったって聞いたけど····でも今でも貴族は家格を優先する。

当時はもっと厳格だったと思うし、生家の娘は義母様1人なんだ。

生家から愛されてたのか、お転婆少女がかなりぶっ飛んでたのか、その両方か、どっちだろうって考えると····ねぇ。

とは言っても出会った翌年の冬には婚約してたんだから、義父様が情熱的だったんだろうな。


 そうそう、この別荘なんだけど義母様の生家がある領にも近いんだよ。

婚約記念に義父様が10才になってすぐに冒険者登録して稼いだお金で購入したらしいよ。

義母様の生家に通いつつ、冒険者やりつつ、グレインビル領の次期領主としてお勉強と隣国との競り合いも参加して····幼い頃の義父様って凄すぎない。

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