56.お耳と尻尾の誘惑
「そっか、女の子だって隠してたんだね」
「····ぅ····はい」
何故だろう、完璧なつもりだったのに。
僕は帽子を脱いでしょぼくれている。
「····獣人は鼻が利くから、性別を偽るのは難しい。
人ならわからなかったと思うぞ」
「ふふふ、ペルジアは優しいね。
見た瞬間に気づくくらい可愛らしいし、性別を誤魔化せたとしても一部の変態趣味なオジサンに拐われたらいけないから、次からお忍びで来る時はもっと小汚なさを装わないと駄目だよ?
あんまり小綺麗な感じだと貴族なのもバレちゃうし」
白いお兄さんはよしよしと僕を撫でてくれる····癒しだ。
変装は奥が深いね。
もっと研究しなくっちゃ。
レイヤード義兄様にそういう魔具作ってもらえないか聞いてみようかな。
白い彼の名前はウィンス=アボットさんといって、バゴラさん、ペルジアさんと3人兄弟なんだって。
彼らは平民なのと様呼びしたら思いっきり嫌がられたので、さん付けにしたんだ。
代わりに僕は彼らに敬語禁止の刑を言い渡したよ。
今の僕は平民に扮してるからね。
上の兄2人が商会を立ち上げて、ペルジアさんは冒険者となって来年から商会の手伝いとの2足の草鞋をふむ事にしてるって言ってた。
お兄さん達が大好きなんだろうな。
僕も義兄様達が大好きだから共感しまくりだね。
「にしても兄貴達に頼まれて去年この祭りに下見にきてたのをよく覚えてたな。
こないだの大会で優勝した事の方がよっぽどインパクトあったと思うんだが」
少し驚いたように猫目を見開くギザ耳の虎獣人さん····なで回したい····しないよ、もちろん····多分。
「大会の結果は最後まで見ませんでしたし、獣人さんのお耳と尻尾の方がよっぽど気になります。
特にペルジアさんのお耳は特徴的だったのと、去年は私の身長も低すぎてお祭りの人混みに蹴散らされそうだったので、1番上の兄様が抱っこしてくれてたんです。
大人の男性より頭1つ分高かったから、ペルジアさんみたいに背の高いお耳は目につきました」
「そんなに耳と尻尾が好きなんだ?
ペルジアからこの国の人属の貴族令嬢は特に獣人が苦手だって聞いてたけど、違ったのかな?」
商人だからね。
そりゃターゲットにしたい貴族令嬢の動向は気になるよね。
でもごめんね。
否定はしてあげられないんだ。
「うーん、残念ながら多分合ってます。
昔は今よりずっと体が弱くて領から出なかったせいか、同い年の貴族令嬢との接点がないので直接的にはわかりませんが。
私は獣人さんだから苦手ってことはありませんし、お耳と尻尾のさわり心地が大好きです」
そう、僕は今だってそのお耳と尻尾をモフりたくて仕方ない。
ちゃんとフォロー&アピールしなきゃね。
「うん、さっきからずーっと俺達の耳と尻尾をみてるもんね」
あれ、白虎さんには勝手に伝わってた。
凄く微笑ましい目を向けられてる。
「····それより、説明しなくて良いのか?」
「あっ、そうですね。
ウィンスさん、ペルシアさん、良ければそこの出店で買ったコレを一緒に食べませんか」
ペルジアさんの軌道修正の言葉に頷きつつ、僕は鞄から去年も買った小さなカステラを取り出す。
「マジックバッグ····初めて見た。
いただくよ」
「ウィンスさんも、甘いの苦手でなければどうぞ。
マジックバッグは値が張りますが、冒険者をやるなら便利で良いと思いますよ」
それとなく推薦しておこうっと。
「ありがとう。
ペルジア、卒業祝いの候補に加えて良いから考えといて」
「····わかった」
こうして香辛料の説明会という名のお茶会は揺れるお耳と尻尾の誘惑に耐えしのびながら始まった····ポーカーフェイスを保つのが大変だったよ。
レイヤード義兄様との約束が憎い!
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