19.懐かしのベイ(米)

 僕の体調が良くなって好きに出歩けるようになった頃には、冬の始まりを告げるように肌寒くなっていた。

そんな僕は現在進行形でとてつもない高揚感を持ってわが家の厨房の一角でにこにこと作業中。

そう、秋の始まりに購入した調味料で味噌汁やすまし汁を料理長達と作ったのだ。

そしてもちろん····ベイ!

いや、米!

そう、夢にまで見たごはん!


「ごっはんだ、ごっはんだ、おっにぎり、おっにぎり!」


 もちろん、僕はとんでもなくご機嫌。


「お嬢様もすっかり回復なされたみたいで良かったです。

でも張り切りすぎてまた倒れないようにしてくださいましね」

「ふふふ、心配しないでニーア」


 炊飯器も土鍋もないからフライパンで炊飯。

ちゃんとおこげも作っておく。

ほんわり良い匂い。

炊き上がったご飯に塩をまぶしてお馴染みのおにぎり。

いつか海苔も手に入れるぞ!


 料理人達は興味津々で僕と料理長のお手伝い。


「お嬢、今度は何作るんだ?」

「良い匂いじゃなぁ、お嬢」


 若い料理人から古参の料理人まで10人ほどがわいわいガヤガヤ集まった。

うん、こうして改めて見ると筋骨隆々で顔も厳つくてとても料理人に見えないのは何でかな?!


「まずは初めての調味料のアジソとセウユをそれぞれ使ったスープ!

お好みでこのナナミをかけて。

白いのはベイを炊いて塩ふってから三角に握ってみたの。

ベイの本来の味も引き立つしベイと汁物の組み合わせは絶対合うはず!

さぁ、食べてみて!」


 初めての食べ物だけど、そこは僕と彼らの付き合いの長さで培った信頼がある。

皆は躊躇うことなく大きく一口。


「うわ、旨い!」

「何だか素朴な味じゃな」

「それぞれ美味しいけど、ベイとスープの組み合わせがまた合うわ!」

「スープにナナミ入れたら味が引き締まって良いアクセントになった!」

「すげぇ、ホントだ」


 ふふふ、いつもはおすまし顔の侍女ニーアも顔を崩したね。

皆の笑顔を見ながら僕もおにぎりを頬張る。

おこげも最高!

思ってた通りの僕にとってのお馴染みの味に大満足!


「良い匂いがするな」


 おっと義父様の登場だ。

お昼時だし、厨房の匂いに誘われたらしい。

相変わらず凛々しい美養父で目の保養になる。


「料理長にも手伝ってもらって作ったの。

父様も食べて!」

「私の娘はエプロン姿も可愛いね。

いただくよ」


 切れ長の赤い目を細めてまずはおにぎりをパクリ。

目を見開いた!


「旨いな。

このスープも美味しい。

赤い調味料を入れると深酒の翌日にもってこいだ。

私としては茶色いスープが好みかな。

でもどちらもベイと合う。

私の天使は料理上手で嬉しいよ」

「ふふふー、父様は誉め上手で嬉しい!

ぎゅー!」


 運命の食材を美味しそうに口に運ぶ運命の義父様!

今日はいつもより余計にテンションが上がります!


「可愛いアリー、はしゃぎすぎて倒れないようにね」

「はい!」


 抱きついた僕を軽々受け止め、食べながら釘を刺す。

立ち食いは貴族的にマナー違反だけど、今日は味見の会だから義父様も気にしない。

料理人達と今はここにいない僕をお世話してくれてる侍女数名分より多めに作ってお昼の賄いになってるけど、量もちょうど良かった。

他の侍女達のは後でニーアが届けてくれる。


 義父様は朝から動いてる僕を心配して領地内の視察を予定より早めて帰って来てくれたんだろうなぁ。

義父様とお昼ご飯も一緒にできて嬉しい。


「お嬢、後片付けは儂らでやるから、そろそろ部屋に戻って休憩しなされ」

「そうですよ、お嬢様。

体力も体重も落ちてますから、無理はいけません。

食後のお茶がてら、ゆっくりなさいませ」

「それではアリー、私と部屋に行こうか」


 料理長とニーアに促されるように義父様にいつも通り縦に抱き抱えられる。

もう屋敷内なら自分でいくらでも歩けるくらい回復したのに、過保護だよ。

でも朝から立ちっぱなしだったから、ちょっと疲れたかな?

僕は義父様の首にぎゅっとしがみつくと、抱きしめ返してくれる。

少しゆっくり歩く振動と義父様の温もりが心地よくて、僕はそのままお昼寝タイムとなった。

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