15.運命の食材
「ケルトさんからセウユを置いてると聞いてうかがいました、とここの人に伝えてくれますか?」
シル様におろしてもらい、恐らくお手伝いの孤児だろう子供に取り次ぎをお願いする。
ブース内の商品を見渡すが、醤油以外にも色々と調味料らしき物が陳列している。
奥から品の良さげな焦げ茶の髪と目をした中年の女性が出てきた。
「お嬢ちゃんがセウユを欲しいのかい?
そこのお兄さん達じゃなく?」
「はい!
ケルトさんの串焼きが美味しすぎて、うちでも食べたいなって。
他にも調味料をいくつか見繕って欲しいですが、味がわからないので色々教えて下さい!」
ニコニコ、ハキハキと話す。
商人はこうした話し方を好む傾向がある。
「ふふ、お嬢ちゃん色々心得てるみたいだね」
ご名答。
自領で商品開発をしていく際、商業ギルドの人と話す機会が何度かあった。
「これがセウユだよ。
こっちは辛味の強い粉末で、ナナミ。
これは豆を発酵させたやつで、汁にとかして食べるアジソ。
このブースではセウユが塩加減の違いで2種類、ナナミは辛さと風味違いが2種類、アジソは風味違いで3種類置いてある」
皆で試食をさせてもらう。
「「「「辛い!」」」」
「「「「しょっぱい!」」」」
男達は全員顔を顰めた。
まぁそのまま食べればそうだろうな。
僕の欲しかった懐かしの調味料とほぼ同じ。
これはあの主食の発見も期待できる!
「他に珍しい穀物ってあったりしますか?」
「お嬢ちゃん博識だね。
ベイっていう粒状の穀物があるよ。
茹で蒸して食べるんだけど、ほら、これ」
「中を見てもいいですか?」
「もちろんだよ」
手渡された紙袋を開けてみる。
(き、きたぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!)
お米だ!
日本人の心の友!
やっばい、興奮し過ぎて鼻血出そう!
「で、では、先ほどの調味料を全て3つずつ。
ベイは一番大きな袋の物を5袋下さい!」
「お嬢ちゃん、太っ腹だね。
まいどあり!」
お手伝いの少年少女達が商品を揃えているのを見物しながら、ほくほくと満面の笑みを浮かべる。
あ、全て使いきった後の購入方法も合わせて聞いておかないと。
ベイを取りに奥へ行ったのを見計らったのか、殿下と護衛達が話しかけてきた。
「おい、正気か?!
あんなものをそんなに買ってどうするんだ?!」
「アリー嬢、もう少し減らした方が····」
「なになに、荷物持ちなら俺やるよー」
殿下とシル様はドン引きした顔で購入を引き止める。
アン様は楽しそうだ。
バルトス義兄様は見慣れた光景だったのだろう。
「俺のアリーは買い物してる姿も可愛い」
うん、通常運転だね。
「心配していただいてありがとうございます。
ふふふ、運命の食材達なのでむしろもっと欲しいくらいです。
義兄様、義兄様の鞄貸して下さい」
支払いは王家と下手に関わりたくないので殿下の申し出を辞退し、義兄様にお願いする。
僕は義兄様の鞄に持ってきてくれたベイを詰めてもらう。
僕の鞄は入り口が狭くて大袋がつっかえてしまうのだ。
調味料は自分の鞄に入れていく。
「うわ、もしかしなくても
初めて見たけど、便利だねぇ。」
アン様がキラキラした目をして持ち上げたり、つついたりする。
豹獣人さんは好奇心大勢なのかな。
支払いを済ませた義兄様に抱っこされ、外にそろって出る。
「本日はお耳と尻尾をありがとうございました。
もしまた何かの時に会う事がありましたら、触らせていただいてもよろしいですか?」
「あぁ、かまわないよ」
「うん、ぜひぜひ触ってー」
護衛の2人と和やかに話す。
「ま、待て!
俺の疎外感をどうしてくれる!」
殿下が横槍を入れるが、知らないよ。
「そもそも俺とアリーの一時に無理矢理押し入ったのはそちらですよ。
疎外感とか知るわけないでしょう」
義兄様、けっこう辛辣。
殿下半泣きじゃないかな。
「そ、そうだ!
アリー、今日買ったやつで何か作るのだろう!
それを食べさせろ!」
「あんなに嫌がっていたのに····何故です?」
「うっ····食べたいからだ!
····そんなに俺は嫌がられているのか?」
しょんぼりと殿下が俯く。
さすがに何だか可哀想だ。
まだ13才の子供だし、仕方ないか。
まぁ僕は9才設定でもっと子供なはずなんだけど。
「レイヤード兄様が帰ってくるタイミングでなら、家にいらっしゃれば良いのではないですか」
「アリー?!」
「ただし、私はあくまでレイヤード兄様の帰宅の際にたまたまいる妹なだけです。
私と直接会うのを理由にはなさらないで下さい」
「なるほど、わかった!
その、俺の事はそんなに嫌ってないのか?」
「嫌い以前に良くも悪くも思っていません。
お家柄と関わりたくないだけです。
お茶会の時にも思いましたが、魔力がない私が関わればつまらないからみがありそうなので。
あと、またお耳と尻尾に触りたいです」
「そっちが本当の理由では····」
「いけませんか?」
「う、いや、どのみち護衛はつけねばならないからな」
「アリー?!」
「では、皆様ごきげんよう」
義兄様は無視してさっさと切り上げる。
殿下達は義兄様の反対を警戒してか、足早に去って行った。
「アリー、何であんなことを····もしかして、疲れて眠くなってるのか?
そういえば、少し体温が高い。
あー、もうっ。
眠くなると面倒になって適当に対処する癖やめてくれ」
「へへ、兄様、ぎゅー。
おやすみなさい」
そう、その通り。
僕はもう小一時間ほど睡魔と戦い続けていた。
中身はともかく、体は9才児なので疲れた時の睡魔には抗えないのだ。
義兄様に抱きついて心地よく寝息をたて始めるのだった。
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