返しの企て

 第2試合が終わり、控え室へ足を進めていた時。向かい側からロウが歩いてきた。これから大扉へと向かうのだろう。


「待て」

「……なんだ」


 ロウが俺を呼び止めた。何故か異様に絡んでくるが、俺は知らぬ内になにかしてしまったのだろうか。控え室の騒動のせいか?


「貴様、何かしら勘づいているのだろう」

「……なんのことだ」

「とぼけるな。先程の試合、貴様の動きは不自然さがあった。まるで慣れない動きをしているかのようなぎこちなさ。他の参加者を騙せても俺やハイの目は騙せんぞ」

「………………」

「貴様は何を見ている。何をそんなにも

「……協力してくれるか」

「内容による」

「……では話そう。俺の考えだが…」






『続いて第3試合。選手を紹介させていただきます!大扉側におりますは、旧都カサンドラより来たる魔道士、サランサ!』


 珍しく2本の杖を持つサランサは、何やら緊張しているのかしきりに杖を床についたりして落ち着きがない。


『司会席側におりますは、お待たせしました。ギアルトリア魔闘会にて幾度となく優勝を飾った覇者、ロウその人です!』


 一際大きな歓声。やはりロウは名声実績共に大きいのだろう。


「あの女も可哀想だな。初戦でいきなり覇者とぶつかるなんて」

「まったくだ。あの震え様は相当心に来てんじゃねぇか?」


 観客らは未だに震えるサランサへ向けて憐れみの視線を向ける。誰の目から見ても、一方的な試合が行われるであろうことは明らかだった。





 控え室に残る選手らを除いて。


「あの女、とんだ狸だな」

「そうね。そもそもあのバトルロワイヤルを生き延びたのだし。緊張でガチガチなんて普通はありえないわよ」

「ううむ、魔闘会覇者を前にしてそんなことをわざわざする必要があるのかね?」

「ないね。あの男は相手がどんな状況だろうと徹底的に叩き潰すことで有名さ。あんな弱々しい姿を見せられようと手を抜きはしないだろうよ」


 トーナメント参加者たちは、勝者敗者問わず投影魔道具で試合の様子を確認していた。話題はもちろん試合の事だ。トーナメント参加は強者の証。そのためベスト3に入らずとも表彰されるためだ。観客席に行くこともできるが、それをするならば参加者たちと意見を交わした方が成長できると思ったのだろう。


 その部屋の隅で、蹲っている者がいた。ローブを纏った少年。ダークホースと呼ばれていた彼だ。


「…ぐ……うぅ……」


 何やら苦しげにしており、身体を抱きしめ何かに耐えていた。


「フゥ…フゥ……」


 汗は蒸発し、口からはほんの少しばかり黒い煙が出ている。彼のうちに眠る力は、確かにその命を蝕んでいたのだった。






 廊下で、俺はハイと向き合っていた。


 明るかったハイの表情は曇り、沈んでいる。まあ俺が言ったことが原因なのだが。


「わかった。けれど、なんとも胸糞悪いね」

「……ああ。だからこそ、泳がせなければならん。会場の人々を守るにはわざと危険にするしかない」

「わかってる。僕だけだと大して気づけなかったかもだし。ロウと君のおかげだね」


 ロウにしたものと同じように一通り説明は済ませた。後は敵が動くまで待つだけ。その時こそ、俺も本調子で暴れることができるはずだ。


「それにしても、凄いスキルを持ってるんだね。【スーパーアーマー】だっけ?効果も凄まじいというのに、発動すれば自身で解除しない限り発動し続けるなんて前代未聞だよ」

「……俺もこんなスキルがあるとは知らなかった。あらゆる文献を調べてみたが、これと同じような発動の仕方をするスキルは見つからなかった」

「へぇ……うーん、興味深い。ちょっと魔法撃ってもいい?」

「………………」

「ごめん、冗談だから。だから無言で距離詰めてこないでよ怖い怖い怖い!」


 馬鹿なことを言うハイを軽く虐めてやると、ハイは早足で後ろに下がる。面白かったが、流石に可哀想かと冗談だと一言入れた。


「君っていつも無表情だから圧が凄いんだよ。無言で迫ってくるとかそれこそゴーストを見るより怖い」

「……俺ってそんなに怖いか?」

「うん。まともに直視したら意識無くなるだろうね」


 大袈裟な。まあささやかな反撃だと受け取っておこう。


「さて、そろそろ控え室に戻ろうか。ロウの試合が始まってだいぶ経つし」

「……そうだな」


 控え室へと足を進める。その際に魔石を使って探知を行うが、自分たち以外に気配は無い。


 気をつけながらも戻り、控え室の扉を開けると、唖然とした様子の参加者たちの姿が見えた。


『予想だにしなかったどんでん返し!魔闘会覇者ロウ、まさかの初戦敗退!!第3試合、勝者はサランサ!』

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