最強を目指す者たち

『それでは、トーナメント第1試合両名をご紹介させていただきます。大扉側におりますは、あまたの戦場を渡り歩いた熟練の傭兵、グルド!』


 傭兵グルドが短剣を取り出し、小振りの杖へ添えるように構えた。


『司会席側におりますは、マヌカンドラ帝国に従属いたします小国ロンドーラ出身、疾風のロザリア!』


 ロザリアが杖を床に付くと、ローブに風の魔法力が行き渡りたなびき始めた。


『波乱のバトルロイヤルを生き延びた強者たち!どちらが勝ってもおかしくはありません!それでは、第1試合開始!』


 鐘が鳴ると同時に、ロザリアが消えた。否、グルドへと突撃した。そのスピードに面食らったグルドであるが、咄嗟に横へ転がることで回避。リングの端ギリギリにまで行ったところでロザリアは止まった。


『速い!速すぎる!ロザリア選手、圧倒的スピードでグルド選手へと突進、場外を狙いましたが躱されました!』


「なるほど?初見殺しってやつだな」

「はあ、今ので終わってくれたら楽だったのに。さてさて、どうするつもりかしら」


 ロザリアが再び高速移動を開始。グルドは必死に目で追うも、やはりロザリアの方に分がある。死角へと回られ、中級炎魔法『ブレイズ』が放たれた。

 しかし、流石は傭兵と言うべきか。すぐさまブレイズを感知し回避。反撃の下級雷魔法『ボルト』を放つも、既にロザリアの姿は無い。


「どこを見てるのかしら!」

「ぐおっ!?」


 グルドの背後から下級風魔法『ガスト』が襲う。軽く吹き飛ばされたグルドは素早く起き上がるも、放たれた場所にロザリアの姿は無い。


「やれやれ、どうしたものかな」


 劣勢だというのに、グルドに焦りは微塵もない。冷静さを失う者から死んでいく。戦場の鉄則だ。


『ロザリア選手、その姿をまったくグルド選手へと見せません!速すぎるその戦法から、彼女はロンドール国にて『疾風』と呼ばれるまでになったのです!』


 魔法を放つにしても、あの速度は厄介だ。死角や背後から撃ってきているということは、高速移動しながら狙うだけの技量は無いということ。つまりは一瞬でも止めるか、止まる場所が分かれば対処はできる。


「ふむ……スキル【感覚強化】発動」


 グルドがスキルを発動させたと同時に、杖を振り上げボルトを放つ。電撃はリング床に当たり破片を飛び散らせる。その破片がロザリアに当たった。


「キャッ!?」

「捉えた」


 強化魔法『クイック』を使いロザリアへと肉薄するグルド。杖を持った腕を短剣で突き刺し押し倒す。受け身も取れず倒されたロザリアの顔前に杖が突きつけられた。


「チェックメイトだな」

「な、なんで私の場所が…」

「なあに、速い割りには動きが単調だったものでね。付与魔法『グレーター』で強化魔法『クイック』を強化し、風の魔法力でブーストしたといったところだろう?今まで打ち破られたことが無かったんだろうが、残念だったね。感覚を強化すれば捉えられない程じゃなかった。さて、対戦ありがとう。お疲れ様」


 突きつけた杖から中級炎魔法『ブレイズ』が放たれ、ロザリアの札が破られ転移。これにて第1試合の勝者は決まった。


『決着!ロンドール国にて名声を欲しいままにしていたロザリア選手を、グルド選手は下してみせました!恐るべきは魔闘会、最強を狙う参加者たちはたとえ無名であろうと油断ならない相手なのです!』


 観客の歓声が湧き上がる。その拍手は、グルドだけに送られたものではない。攻略されたとて、確かにその強さを見せつけたロザリアにも向けられているのだ。


 グルドはロザリアの分も一身に拍手を受け、控え室へと戻るのだった。






 凄まじいな。流石は戦場を駆け抜けた傭兵というわけか。


 あの女性の技を看破し、さらに攻略してみせるとは。感覚を強化したとて、対処できるかは別問題。しかしあのグルドという男は速度と動きを計算して、絶妙なタイミングで魔法を放った。


「……怪物ばかりだな」

「それはそうだよ。ロウや僕、それにあのダークホースくんが目立つからといって油断しないようにね。皆、本気で崩しに来る。最強を求めてね」

「……その言い方だと、誰も最強になっていないと言わんばかりだな」

「それはそうだよ。団長2人はどちらも強い。強すぎる。だからこそ、この国の要なんだけど……だ〜れも勝ててない。優勝者は出ても、『最強』になれた人は未だにいないよ」

「……そうか」


 壁は高い。しかし、だからこそ俄然燃えるというものだ。騎士団を束ねる二大団長。俺の力は、いったい何処まで通用するのか。


「……いいや、違う。そうではないな」


 それは最後に気にすべき事。今はまず、目の前の壁を乗り越えなければならない。


「第2試合が始まります!大扉前に集合してください!」


 係員の呼びかけが飛ぶ。俺は腰を上げ、器具を纏う。しっかり特大剣が付けられているか確認すると、リングへと足を進めるのだった。






『リングも修復は完了。準備も整いました!それでは皆様、お待たせしました!トーナメント第2試合、両名をご紹介させていただきます!大扉側におりますは、ギアルトリア国立魔法研究所教授、ノルエーマン!』


 ノルエーマンは軽く咳をしながら腰を伸ばす。緊張を微塵も感じさせず、頬笑みを浮かべているのは年の功だろうか。


『司会席側におりますは、マヌカンドラ帝国に古くから使える小貴族、エンドリー家のご子息。ドラングル・エンドリー!』


 観客席が騒然とする。噂は国中に広まっている。誰もが俺の事を知っているのだろう。


 魔法を使うことの出来ぬ、''なりそこない''と。


 俺は特大剣を取り外すと、片足を勢いよく床へと振り下ろした。


 ドンッとリングが揺れる。観客席のざわめきも消え、ノルエーマンは頬笑みをそのままに眼光を鋭くさせた。


 特大剣を勢いよく振り、両手で構える。対し、ノルエーマンも長杖を構えた。


『このカード、どちらが優を示すのか!それでは、第2試合開始!』


 鐘が鳴らされる。それと同時に、俺は高く跳躍。


『え、え!?』


 手に持った特大剣。持つ唯一の武器を、ノルエーマンへと投擲するのだった。

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