第54話 光の精霊

『魔王様、目的地に到着しました。』


到着した場所は、“隷属魔法陣”が描かれた檻でできた牢獄だった。


(檻・床・天井あらゆる所に“隷属魔法陣”が描かれている。閉じ込められている種族のも多種多様だ。深く考えると余計なことを考えてしまうから、とりあえずひたすら解除していこう。幸い、クロンの力を必要とする程の”隷属魔法陣”は無いようだし。)


「ヒスイ。俺はひたすら隷属魔法を解除していくから、捕らえている者達への回復や説明は任せたよ。黒、念のためにまた見張りをお願いね。」


≪『はいッ!』≫


(さぁ、いきますか!)


…マジックジャマー(闇魔法)…

…マジックブレイク(闇魔法)…

…アンチマジックフィールド(闇魔法)…



…マジックジャマー(闇魔法)…

…マジックブレイク(闇魔法)…

…アンチマジックフィールド(闇魔法)…


………


…マジックジャマー(闇魔法)…

…マジックブレイク(闇魔法)…

…アンチマジックフィールド(闇魔法)…


…………………………………


「ふぅ。終わったぁ。MPはまだ余裕があるけど疲れたな。」


ヒスイも説明作業と回復作業を終えて、コウスケの腕の中に戻ってきた。


助け出された者は、ヒスイの回復魔法や回復薬で動けるようにまで回復したあと、その場で解放されていく。


解放された者達には、念のためにアイテムや食料を詰め込んだアイテムポーチを渡しておいた。


(ヒスイは、当然のように腕の中に戻ってきた。ここが定位置になったのかな。…そうだッ!こっそり「五穀豊穣」スキルを試してみよう。≪世界樹≫だし、なにか良い効果があるかもしれない。)


…ユニークスキル「五穀豊穣」発動…


≪ふぅ。コウスケさんの腕の中は本当に良い場所ですね。…ッ!何ですか!?この極上の腐葉土と美しい水を吸収しながら光合成しているような感覚は!?コウスケさんッ!こんな力を隠し持っていたのですねッ!≫


(…すごい効き目だな。ヒスイの鱗や瞳の潤いが目に見えて良くなっている。さすがユニークスキルってところかな。)


「五穀豊穣」スキルの効果を検証しているとクロンが転送されてきた。


…咎人の千剣…任務を完了したため殲滅形態を解除…反動でこれより24時間活動を停止します…


「よし。クロンも終わったみたいだし、そろそろ帰りますか。」


メッセージによりクロンの任務完了を確認したコウスケは、拠点に帰るための転移門設置の準備を始めると、不意に目の前にスピネルにそっくりな精霊が、怒りの表情で空中で仁王立ちしていた。


『あなた!わたしが見えるのね!わたしの双子の妹を解放しなさい!あなたの胸に隠しているペンダントに閉じ込めているのはわかっています!』


(今まで顕現していない精霊は見えなかったはず。スピネルと魂契約したら他の精霊も見えるようになってしまったのか。っていうか≪光の精霊≫本当に捕まってたんだね…。スピネルの姉ということは、妹と同じで思い込みが激しい可能性が高いから説明しても理解してくれないと思うけど、一応説明しておくか。)


服の中からペンダントを取り出して、説明を始めた。


「このとおり、疲れたため眠っているだけです。それに、このペンダントは精霊樹で出来ていて、隷属魔法陣などで閉じ込めているわけではありません。」


≪光の精霊≫は、ペンダントを注意深く観察し始め、なにかを考えながら周りを飛び回ると、コウスケの目の前で深々と頭を下げた。


『聖剣を持ち、光の祝福を受け、≪世界樹≫を従える異界の勇者よ。早とちりをしてしまい申し訳ありません。わたくしは≪光の精霊≫です。以後お見知りおきを。ところでユニは元気ですか?』


(理解早すぎじゃね。スピネルの姉とはいえ、さすが≪光の精霊≫ってことかな。状況から現状を理解してくれたのか。)


「ええ。ユニも元気ですよ。一緒に来ますか?スピネルと一緒に精霊樹のペンダントで休んでください。お連れします。」


そう言って精霊樹のペンダントを近づけると、≪光の精霊≫はなんの疑いもなくペンダントの中に入った。


『それではお願いします。精霊樹なんて数百年前に人間によって切り倒されて以来触れることすら出来なかったから楽しみだわ。…スピネル…、貴女…またそんなにだらしない顔で寝てるなんて…フフ…安心しきっているのね。』


≪光の精霊≫も、うとうとし始めて、妹の隣で横になった。


「あなたも力を奪われて疲れているんですね。拠点には”精霊の泉”もありますので、好きに使ってください。」


≪光の精霊≫は物凄い勢いで跳ね起き、コウスケに詰め寄った。


『精霊の泉ッ!!!数百年前に精霊樹と一緒に枯れた筈では!?精霊の泉が枯れて以降、我々精霊の力は衰える一方で……。』


それを見ていたヒスイが、なだめるように≪光の精霊≫に話かけた。


≪ここはまだ敵の陣地です。コウスケさんのお家に帰ってから、ゆっくり話を聞きましょう。≫


≪光の精霊≫は残念そうにまたスピネルの隣に戻っていった。


コウスケは、時空間魔法で転移門をつくり、仮拠点をいくつか経由したあとに、拠点に戻った。

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