第45話 ちびっ子の力
「負けるよ、お兄ちゃん」
決闘も2ターンが経過し、ライフレースはカンイチがやや有利。
しかし、対面のユウは準備万端。
両者ともに、決闘が大きく動き出す予感を胸に、新たなターンが始まる。
3ターン目。
カンイチは悩んでいた。
「手札に攻撃技が少ない。このターンは準備に回したいけど」
準備は隙につながる。被弾のリスクを背負う必要がある。
カンイチが準備したいと考えていたカードは2種類。
一つは手札消費を抑える道具カード≪アフターマス≫、もう一つはダメージを軽減する道具カード≪アンカーボルト≫。
二枚を伏せる寸前で、カンイチの手が止まる。
無意識が危険を察知したのか、背筋に悪寒が走る。
一度手を引いて、改めて考え直す。
よく考えと、こんなシーンが前にもあった。
前回、メイド戦で使用した≪アンカーボルト≫は、銃の攻撃に効果がなかった。
おそらく、メイドとユウの武器は同じもの。だとすると、今、≪アンカーボルト≫を展開しても意味がないということになる。
カンイチはカード一枚だけをセットして準備フェイズを終えることにした。
『オープン』
『デュエル!』
当然、ユウは3枚をセットしていた。
道具を展開するカンイチに向け、銃弾を連射する。
乾いた銃声が三発。
カンイチの肩、腹、太ももを打ち抜いた。痺れに顔をしかめる、
しかし、もとよりこの程度の被弾は織り込み済み。道具も展開できた。悪くはない。
「攻撃が相手にヒットした時、≪センターサークルグリップ≫の効果でデッキトップを確認してデッキのトップかボトムに送れる」
宣言の通りに、ユウは自分のデッキトップを確認する。
まずは一番下に。そして次。このターン、ユウが当てた攻撃は三発。三回確認できる。
ユウは二回目で手を止め、にやりと笑った。そのままカードはデッキトップに置く。
「終了フェイズに≪センターサークルグリップ≫のもう一つの効果、条件を満たしたデッキトップのカードを手札に加えることができる」
ついさっきデッキトップに積み込んだばかりのカードをそのまま手札に加える。
「ここからが本番。覚悟してよね、お兄ちゃん」
4ターン目。
さっきの様子を見る限り、ユウは望みのカードを引き当てたのだろう。だとすると、ここで動いてくる可能性は高い。
だとすれば、どうするか。
カンイチは自分の場と手札をもう一度確認する。
「……ビビっている場合じゃないよな」
さっきのターンで攻撃の準備は済ませた。ここで引いても準備を無駄にするだけだ。
カンイチは2枚のカードをセットした。
対面のちびっ子は、引いたカードを使いたくてうずうずしている様子だ。分かりやすい。
その浮足立った様子に、逆にカンイチは自分のプレイへの自信を深めた。
『オープン』
『デュエル!』
ユウのセットカードはたった一枚。
メイド戦のことを考えると珍しい選択だ。
まずは力を溜めたカンイチに対し、ユウはさっそくカードを使用してきた。
「ボクは≪オモチャ匣(パンドラボックス)≫を展開するよ!」
ユウが展開したのは道具カード。紫色の小箱がユウの周囲を衛星のように浮遊し始める。しかし、道具カードは展開の瞬間には特に効果がないものも多い。今回もそうだった。
カンイチはそのまま溜めていた力を開放して攻撃。ユウへ大きなダメージを与える。
あれだけ身構えていたのにと、拍子抜けしたカンイチ。しかし、大きなリアクションを返した人物が他にいた。
「ワイルドカードじゃないか!?」
観戦席にいたミノはその場で立ち上がった。
ワイルドカードは通常のカードと違い、ADGsに一枚だけしか存在しないカード。武器種を問わずに使用することができ、普通のカードより癖が強く、強大な効果を持つとされるカードだ。
ワイルドカードはプレイヤー人口の3割程度の枚数しか存在せず、その全てが唯一のカード名と効果を持っている、
ミノも、≪オモチャ匣≫というカード名に聞き覚えはなかった。しかし、ミノは通常カードのほとんど全てを記憶している。少なくともカード名に聞き覚えくらいはある。そんな彼女でも知らないカード。それはつまり、ワイルドカードに他ならない。
そして何よりワイルドカードは強い。
ミノは手のひらを握って、助手を見つめた。
逆に、隣の執事はそんな探偵の様子を横目で観察していた。
5ターン目。
カンイチの方針は初志貫徹。
3ターン目に展開した道具カードの効果はこのターンで無くなってしまう。今が攻め時だ。
ユウのずっと自信満々な様子は気になるが、やるしかない。
攻撃カード≪負い断ち≫をセットして、戦闘前フェイズへ進む。
『オープン』
『デュエル!』
ユウの決闘場にはカードがずらり。分かってはいたが、これで手札がなくならないとは、すさまじいリソース供給力だ。
逆に、カンイチ側はカード1枚当たりの与ダメージ量で上回る必要がある。
斧を構えて、力を溜める。
ユウの1拍目はまたしても道具カード。銃にオプションパーツを追加する。
「ここで≪オモチャ匣(パンドラボックス)≫の効果が発動! 開け、ボクの≪オモチャ匣(パンドラボックス)≫!」
その宣言と共に、ユウの周囲を回っていた紫色の匣から瘴気の濁流が流れ出し、カンイチへとまとわりついた。章記が触れている場所から痺れを感じる。
「ワイルドカード、≪オモチャ匣(パンドラボックス)≫はボクが道具カードを展開するたび、お兄ちゃんにダメージを与え続ける」
カンイチは瘴気の渦から飛び出して、仁王立ちのユウへと一撃を入れる。
返しに、ユウは笑いながら二発の弾丸を発射した。
本来なら、この銃弾だけが、こちらの被ダメージだったはずなのに、あの匣のせいで倍のダメージを受けることになってしまった。
あのデッキは攻撃のために準備が必要で、そのタイミングが隙になる。ならば、準備中でも攻撃を飛ばせればいい。当たり前だけど無茶苦茶だ。
「これが、ワイルドカードの力……」
カンイチは初めて、ユウの自信の正体を知ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます