悪党偽勇者様、その剣は聖剣じゃないですか?〜クズ男、自由にする〜

パタパタ

覚醒

第1話君は追放だ

「悪いがクスハ。君は追放だ」


 魔法剣士のスキルも持つ将来有望なパーティーリーダーであり、何処か幼さも残る顔立ちの黒髪の美少年アサトは冒険者の集う酒場のテーブルの一つに座り俺に告げた。


「おいおい……冗談は止めてくれよ。

 俺が何をしたって言うんだ?」


 俺、クスハがそう言うとアサトはジロリと俺を睨む。


「何をしただって……?

 ならはっきり言ってやる足手まといなんだよ!

 俺たち『竜の翼』は今度Bランクに昇格する。

 これからもさらに伸びてやがてはA、いいや、Sにまで到達してみせる!

 そんな中にあって努力もせずCランクそこそこの腕しか持たない君は邪魔にしかならないんだ!」


 勢いに押され俺は少し身体を引く。

 だがここで諦めたら、俺はせっかく長い間一緒にやって来たパーティーを追い出されてしまう。


「そう興奮するなって。

 イルマはなんて言ってるんだよ?」


 イルマは同じ村から俺と一緒に冒険者として今までやって来た一つ下の幼馴染だ。

 村ではよく俺を慕って後を付いて来たものだ。


 ま、その頃から俺の情婦なんだが。


 緑の肩までの髪を持ち、あどけない顔立ちで美人というより可愛らしいという表現が似合う。

 なにより村娘のくせして身体つきも良い。


 さらに実力もメキメキと伸ばし、ついにこの間、剣聖のスキルに目覚めた超有望株だ。


 今でこそ少し微妙な距離感はあるが、かつては男女の仲でもあった。


「ふん! いつまでもイルマを自分の所有物みたいに思わないでくれるかな?

 イルマは今後、僕と一緒に生きていく。

 もう君の元には帰さないよ。


 だからイルマはもちろん君の追放に賛成だ。

 イルマだけじゃない。

 マドックもウェリアも賛成してる」


 イルマとアサトのカップルって、見た目美少女同士の絡みにしか見えんな。

 欲望が捗るぜ!


 マドックはウルフヘアの野性味溢れる重戦士のスキルを持つ盾戦士、ウェリアは魔導士のスキルを持つ綺麗系の青髪ロングの魔術士だ。


 ウェリアをどうやって手を出そうかと狙っていたが、マドックのカバーに阻まれてついにベッドへ連れ込むことができなかった。


 ……まあいい、寝取りというのも乙なものだ。

 その快楽は通常のそれよりはるかに超える禁忌の味。


 しばらくはマドックに貸しておいてやろう。

 しかし、てめらがマンネリ化したそのときこそ、ウェリアの大人な身体を食べ尽くしてやろう!


 魅力的な女には常にクズ男が目を光らせていることを忘れるなよ?


 さて対する俺は剣を学べば誰でもこなせる程度の剣の腕。

 才能の差は歴然だった。


 クッ、と俺は歯噛みする。

 アサトはいつの間にか俺の幼馴染のイルマを堕としていたようだ。

 それに限らず、他のパーティーメンバーの同意もすでに得ているときた。


 ここまで来たら、もうどうしようもないと俺にも分かる。

「……分かったよ。

 今回の依頼の分の報酬は分けて貰えるんだろうな?」


「……ふん。

 長い間、一緒にやってきた最後の情けだ」

 そう言ってアサトは銀貨3枚をテーブルに置く。


 銅貨100枚で銀貨1枚。

 安宿ならば銅貨50枚。

 つまり宿代なら6日分。


 引っ込められる前にその銀貨を取り、俺は立ち上がりアサトに背を向ける。


「僕たちを見つけても声を掛けないでくれよ?」

 アサトは俺の背にそう言い放つ。

 俺は一切振り返らずにアサトの前から立ち去った。


 そして、店から十分離れた路地裏。


「ちっくしょう!!!

 アイツらにこれからも寄生してやろうと思っていたのに、追い出されちまったぁぁあああああ!!!」


 アサトの言った通り、俺とパーティーメンバーとの力の差は歴然。

 俺以外の全員はBランクの実力……いいや、いつか必ずAランクに届くだろう。


 対して俺はせいぜいCランク。

 剣士のスキルしか才能がなかったというよりも、無駄な努力を避けてのらりくらりとアイツらに寄生していた。


 パーティーのランクが上がれば必然的に俺の収入も増える。

 俺以外のヤツらは日々一生懸命訓練したり、勉強したり、稼いだ金を貯めたりしているが、愉快な冒険者稼業、そんなことをして何が楽しくて生きてるんだ?

 やっぱ楽して稼がないとな。


 今回、パーティーがBランクに昇格し、俺は遊ぶ金が増える事を楽しみにしていたというのに!!


 追い出されてしまった!!!

 なんてこった!!!


 金が無くなれば幼馴染のイルマに金を借り、パーティー名義でツケで飲んだりしていたのに!

 それも出来なくなってしまった!


 そう、俺、クスハは……。

 クズである。

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