第82話 友に捧ぐ救いの太刀

 高速でステップを踏みながら放たれる一閃。

 横合いからの一撃を樹はどうにか体の正面でアサルトを交差させることで防いだ。だが、あまりの威力に体は吹き飛ばされ、腕に痺れが残る。

 近くの車で衝撃を吸収し立ち上がる。アサルトを握る手に力が入らなかった。


「くっ! すごい一撃……!」


 アサルトを確認し、冷や汗を浮かべながら苦笑する。

 全力でシールドを展開していたにもかかわらず、今の一撃で全体に亀裂が入っていた。次にまた攻撃をもらうと今度は砕けてしまう。

 衝撃波か、それとも車にぶつかった時かは知らないが頭から血が流れてくる。

 血が目に入らないように袖で軽く拭うと、深く息を吸って呼吸を整えた。


「樹さん!」


 心配した瑞菜が側に寄ってくる。

 それと、もう一人。暴圧的な殺意を纏いながら天から降ってきた。


「避けて瑞菜さん!」

「え!? わきゃあ!」


 慌てて前方向に転がると、瑞菜のすぐ後ろを百合花が叩き割っていた。

 コンビニエンスストアが粉々に破壊され、巻き上げられた瓦礫が降り注いでくる。

 落下する瓦礫の合間を縫うように移動しながら逆転の一手を考える。

 樹が考えているプランを実行するには、動きを止めなくてはならない。そのために何をするべきか必死に頭を働かせる。

 百合花がターゲットを瑞菜に絞った。

 体を刺し貫こうと、アサルトを正面に構えて勢いよく突進する。


「あぁぁあああ!!」

「!? あぶな!」


 顔のすぐ横をアサルトが通り抜け、風圧で髪が数本散った。

 頬に薄い切り傷が刻まれるが、命に関わる傷ではない。今のはよく避けた。

 アサルトを持ち直した百合花が今度は力任せの叩き付けを行う。

 これも、グレネードをリリカルパワーで守り、足元で爆発させて威力を殺し衝撃だけを残した爆発で飛び下がって回避する。百合花の攻撃は民家を粉砕した。

 瑞菜が反撃を仕掛ける。

 アサルトを射撃形態に変形させ、足を止めないように動きながら乱射する。

 当てなくていい。ただ牽制ができればそれでよかった。


「アアアアァァアアアァァァァアアアァア!!」


 制御の効かない百合花がまた叫び、足から血が噴き出したかと思うと蹲り、吐血した。

 リミットが近付いている。今すぐにでも決着をつけなくてはならない。

 そんな時だった。

 状況をひっくり返す鍵となる建物を樹が見つけた。

 ここで決めるしかないと、百合花の注意を自分に向けさせるために石を投げてぶつける。


「来なさい! あたしはこっちだ!」

「――!! ハアアァァァ!!」


 強く地面を蹴って飛び上がる。

 百合花の攻撃に樹が微笑んだ。距離が開いているなら、間違いなく上から叩きつける攻撃を選択すると読んでいたからだ。

 アサルトからリリカルパワーを放ち、反動を利用して攻撃を回避する。

 樹に躱された百合花はそのままその場所――ガソリンスタンドへと突っ込んでいく。

 先ほどと同じようにガソリンスタンドは跡形もなく吹き飛んだ。だが、壊れた機械の放電でガソリンに火が付き、大爆発が起きる。

 爆発で百合花の体は吹っ飛び、民家の塀にぶつかった。頭を強く打ったのか、動きが鈍くなる。


「今!!」


 チャンスと見た樹が一気に距離を詰めた。

 迫ってくる樹を視界に捉え、百合花のアサルトが変形する。

 射撃形態に変わるとそのまま弾丸が撃ち出される。


「はぁ!」

「第二射!」


 過剰な威力にはなるが、瑞菜と杏華の二人が放たれた弾丸を破壊した。樹の歩みは止めさせない。

 すぐに形態が射撃から近接へと変わる。

 次の行動は予想できる。百合花はアサルトを投げるつもりだ。


「いっけぇぇぇぇぇぇ!!」


 投げられる直前、樹は両手のアサルトを先に投げつけた。

 高速で回転しながら飛び、的確に百合花のアサルトへぶつかる。その際、樹のアサルトが限界を迎えて砕け散った。

 それでも百合花はアサルトを手放さない。まだ柄が握られている。


「浅かったか!」


 投げられると、恐らく樹は死ぬ。

 それでももう止まらない。せめて、命尽きようと百合花だけは救うと足を動かし続けた。

 と、遠方から聞こえる銃声。

 決定打となった誰かの弾丸が百合花のアサルトを撃ち抜き、手放させることに成功した。

 止まらない程度に振り返ると、静香が銃口から煙の上るアサルトを持って立っているのが見える。


「樹さん! 百合花ちゃんを助けて!!」


 静香に背中を押してもらい、真っ直ぐ前を見つめる。

 もう樹と百合花を阻む障害は何もない。瑞菜も杏華も祈るように二人の様子を見守る。

 そして……


「百合花ぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


 立ち上がろうとしていた百合花の正面から樹が抱きつく。

 逃がしはしないと体を強く密着させ、強引に唇を塞いだ。

 舌を絡ませながら押さえつける。錆びた鉄のような味が広がるが、不思議と嫌には感じなかった。

 不意打ちのキス。物理的ではなく、精神的な衝撃でバーストを解除させる。

 そんな樹の賭けは……。

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