第78話 救援部隊
輸送ヘリに乗り、富士市の戦闘区域に向けて急いでいる。
琵琶湖血戦と似たような計測値であるならば、ホロゥの出現は一週間近く続く可能性が高かった。短期決戦は見込めない。
神子の戦法を真似し、迎撃するワルキューレを最小限に編成して断続的な戦闘が可能になるように指示が出ていた。町を守り抜き、被害を最小に抑える。
緊張しているのか、張り詰めた空気が機内に充満している。
「……あの、百合花ちゃん」
おずおずとした様子で静香が小さく手を挙げる。
「どうしたの?」
「えと、私、つい勢いで着いて来ちゃいましたが、戦力になりますか? 足手まといなら後ろで待機してますけど……」
「大丈夫。夜叉を前に足を動かせたんだもの。胆力は並のワルキューレ以上にあると言って間違いないよ。怖いなら無理強いはできないけど、静香ちゃんはもう立派なワルキューレだから自信を持って」
「ッ! 少しでもお力になれるよう頑張ります!」
気合いを入れる静香を樹と千代が優しい目で見守っている。
その隣で、葵が緊張と恐怖で震える香織を優しく抱きしめていた。安心する場所を得た香織は少しでも落ち着こうと葵に身を任せている。
少しずつ暗雲が増えてきた。不穏な空が外に広がっている。
「あたしもついに大きな戦いに参加することになるのか。怖いな」
「樹様はこの命に代えてもお守りします」
「ありがと千代。でも、やっぱさすが百合花と杏華だね。落ち着いてる」
「そんなことないよ。怖くてたまらない」
「だが、勇敢にして希望たる乙女が恐怖を見せては明日の光は潰えるだろう。いかなる時も気丈であれ。勇気を奮い立たせ!」
杏華の力強い宣言に聖蘭の綾埜たちが同調する。
「悪しき化け物に裁きを! 死の鉄槌をくれてやろう!」
「物語に困難は付きもの。でも、乗り越えられるからこその困難!」
「我らの弾丸が奴らの奥底まで引き裂いて、無惨な屍を晒すよう叩き潰してやろうぞ!」
緊張感を感じさせずに盛り上がる聖蘭の雰囲気に自然と場が和む。無駄にこもっていた力が抜けていった。
アサルトの柄に触れ、覚悟を改めて確かめた。
「皆さんすごいですね。我々も貢献しないと」
「どうでもいいぜ。俺はホロゥをたくさんぶっ殺せればな。……っと。早速お出ましかよ」
心愛が何かに気づいたようにシートベルトを強く縛った。
百合花も接近してくる敵に気づき、適当なものに掴まって操縦士に叫ぶ。
「下から来ますよ!」
百合花の警告と同時に機体の警報ランプが赤く点灯し警告音が流れる。
『接近警報! 接近警報! 機体の向きを変えてください!』
「これは!? 皆さん掴まって! 緊急回避します!」
慌てて操縦桿を横に倒し、機体が半回転するように回避運動を取ると、機体が進んでいた一帯を雲の下から無数の金属片が飛んできて蹂躙した。
金属片は空中で意思を持っているように向きを変えた。ヘリを追随してくる。
千代と綾埜、ユークリットの三人が扉を開いてアサルトの射撃で迎撃を試みた。弾幕を形成して金属片を撃ち落としていく。
雲の下からの攻撃は続き、落としても落としても金属片は補充される。三人も射撃だけに集中すると回避運動の際にヘリから投げ出されてしまうために必死だ。空中ではあの金属片になすすべもなく体中を穴だらけにされてしまう。
こんな攻撃を仕掛けてくるホロゥなどヤツしかいない。
そろそろ痺れを切らして姿を見せるだろうと百合花がアサルトを握ると、思った通り雲を突き抜けヘリの後ろにホロゥが飛びだしてきた。
「目標確認! タイラント種のヤタガラス!」
「速い! ヘリの速度じゃ追いつかれます! 迎撃してください!」
巨大な翼を広げ、三本の足を持つ黒い金属のカラス。空中戦に特化したホロゥ――ヤタガラスだ。
ヘリを上回る速度で追撃してくるため、下手すると撃墜されてしまう相手だった。
が、ヤタガラスが攻撃を仕掛けてきたということは真下はもう富士市ということになる。
ならば、と百合花がパラシュートのリュックを掴んだ。心愛を思い浮かべながら急いで装着し、千代たちの後ろに立つ。
「皆ごめん! 先に行くよ!」
「先に行く……って!? まさか正気!?」
「安全を確認して着陸して! はっ!」
驚く樹たちを置き、百合花はヘリから飛び降りた。同時にアサルトに込めるリリカルパワーを強くする。
ヤタガラスの狙いがヘリから百合花に逸れた。急降下して落下する百合花を追いかける。
「おもしれぇ! 俺も行くぜ!」
「ちょっ!? 馬鹿心愛!」
瑞菜の制止を振り切り心愛も飛び降りた。上からヤタガラスに襲いかかる。
大口を開けて百合花を喰らおうと接近するヤタガラスを、冷静に見つめながらアサルトを射撃形態に変形させた。照準を口に合わせる。
「くらえ!」
回避不能の距離まで誘い込み、射撃する。
放たれた弾丸がヤタガラスの頭部を撃ち抜いた。口内の柔らかい部分から貫通して頭頂部を吹き飛ばす。
そこに心愛が全力の一撃を叩き込んだ。
弾かれ、粉々になりながら墜落したヤタガラスが空中で消滅する。これでひとまず空の脅威は去った。
百合花はパラシュートを開き、減速しながら着陸に成功した。心愛も離れた位置にダイナミックな着陸を決める。
「とりあえず、軽く掃討しながら状況の把握ね」
周囲をホロゥに囲まれながらも、余裕を見せてアサルトの切っ先をホロゥの鼻先へと突きつけた。
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