第55話 戦場を裂く蒼の弾丸
現場は混乱状態だった。
先日のビータイプの襲撃により破壊されたエリアが今回ホロゥが出現した区画の避難経路と被っていたため、住民の避難はまだ終わっていない。
右往左往する人たちに、ホロゥが容赦なく襲いかかっていく。
百合花たちが駆けつけた頃には、既に複数の死傷者が出てしまっていた。
「ッ! またビータイプ!」
「数もうじゃうじゃと……」
蜂のようなホロゥが自由に飛び回っている。
逃げ道のない人たちめがけて急降下し、尾の針で突き刺して毒を流し込む。
何体かは、持ち運びやすいのか子供を捕まえて連れ去ろうとしていた。親らしき男性が抵抗するが、ホロゥには歯が立たない。
手をこまねいていると、百合花のすぐ後ろで凄まじい衝撃音が轟いた。刹那の後、子供を捕らえて飛び去ろうとしていたホロゥの頭が消し飛ぶ。
空中でホロゥが消滅し、子供が投げ出された。が、地面に叩きつけられることはなく、安全な高さで杏華が受け止める。
子供を無事に親の元へ届ける様子を見ながら、百合花は後ろを振り向いた。
「さすがの弾速と威力だけど、危ないよ」
「杏華ちゃんが受け止めると信じていたよ。それに、我が瞳はたとえ光の届かぬ闇の底であろうと化け物をしっかり捉えることができる!」
そう、アサルトを構えていた聖蘭のワルキューレが自信満々に言う。
射撃形態のアサルトを見て、彩花は思わず小さな拍手をした。
「噂に聞いていたけど、これが聖蘭のアサルト……
聖蘭黒百合学園が支給するすべてのアサルトの射撃機構は、この電磁加速機銃――通称レールガンで統一されていた。
リリカルパワーを流すことで、銃身内部にプラズマを発生させて弾丸を超加速して発射するというもの。
射程こそ最新型ですら三百メートルと短いが、射程内では一撃でタイラント種ホロゥの装甲に深刻な損傷を与えることができるなど威力は絶大。また、秒速三十キロメートルという速度で放たれた弾丸の回避はほぼ不可能。
当然、ビータイプなどという雑魚では掠っただけでも衝撃波による即死が待ち受けているだろう。
仲間を殺され、何が起きたのかも分からずにホロゥが滅茶苦茶に動き回る。
が、それで高度を上げたことで住民が巻き込まれる心配がなくなった。
その瞬間を逃すほど聖蘭のワルキューレたちは甘くない。ここぞとばかりにレールガンが次々放たれる。
逃げることもできずに砕け散るホロゥたち。一方的な戦いだった。
「すごいな……」
「本当ですね。……でも、杏華はきっともっと強くなってるんでしょ?」
「当然っ……と。どうやら断末魔で引き寄せられた招かれざるお客様が来たかな」
杏華が見たほうを百合花も見る。
海の上を飛ぶ大型のホロゥ。あれが、今回出現したホロゥを指揮するクインビータイプのホロゥだと推測できる。
杏華がアサルトを射撃形態に変形させた。
「見せてあげる。私の力!」
杏華のアサルトが青い光に包まれた。
銃身近くで放電が繰り返され、稲妻はまとまって本来は銃口があるはずの部分から伸びる金属の棒へと集まっていく。
「くらいなさい! カタストロフキャノンッ!!」
杏華がトリガーを引いた瞬間、棒の先端で集まっていた電気の塊が爆ぜた。
電撃は青白い一条の閃光となって音速以上の早さでクインビーを襲撃する。
真っ正面から直撃を受けたクインビーは、一瞬で腹部が破壊された。甲高い断末魔の奇声が聞こえてくる。
閃光はクインビーの背後にいた数体も飲み込み、あっという間に分解消滅させる。
しばらくもがき苦しむように動いた後、クインビーは海へと落ちて消滅した。同時に、市街にいたホロゥたちが統制を失い始める。
「見たか! これがカタストロフキャノン! 地獄から放たれる聖なる雷の裁きなのだ!」
「前はブルーシャイニングとか言ってなかった? それに、地獄なのに聖なる雷なんだ……」
「う、うるさいよ! それより、私たちが残った残党を始末するから、百合花たちは迷える子羊を光に導いてあげて」
「避難誘導ね。分かった」
「よろしく。クラリス・アブチュラ・メルデス」
「……何それ」
本当に意味が分からない言葉を残され、その意味を答える前に杏華たちが残党狩りに行ってしまう。
残された百合花と彩花は、言われたとおり住民の避難誘導をすることにした。
だが、避難誘導をしていても彩花の興味は別の所にあった。
「ねぇ百合花ちゃん。杏華ちゃんのあれ、何なの? 明らかにオーバーキルの威力じゃない?」
「えっと。あれは超加速荷電粒子砲ですね。詳しい原理は私も分かりませんが、SF映画に登場するビーム兵器みたいなものと思ってもらえると。世界でも杏華しか持ってないアサルトです」
「ねぇ。そんなとんでもないアサルトどこのメーカーが作ったの!?」
「このアサルトの製造元と同じですよ」
自分のアサルトを見せながら、百合花が答える。
西園寺家の関係者はどこまでも常識外れだなと彩花が苦笑いし、百合花と協力してこれ以上負傷者を出さないように行動していく。
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