第6話 美少女も推しには弱いらしい

「つ、疲れた……」

「ちょっと遠かったね」

「それだけじゃないけどな……まぁそうだね……」


 俺はライブ会場を見ながら呟いた。パフェを食べさせてもらった後、俺と美亜はファミレスを出てこのライブ会場に向かったわけなんだが……めっちゃ疲れた。


 歩きながら腕を絡めてこようとする美亜をけ、諦めず握ってこようとする手を振り払わないようにしながら躱し、最終的に拗ねた表情を浮かべる美亜を宥める羽目に。


 俺は小さい頃からダンスをやっていたから体力には自信があったのだが、なんか精神的に疲れた、うん。


 宥めるためにもう一度頭を撫でたのだが、それ以来すごいご機嫌だ。なんでこんなに俺に懐いているのか正直わからなくて戸惑っていた。


「あ、グッズ販売してる! 響夜くん並ぼう?」

「そうだね」


 グッズ販売の列に並ぶ。いつもテレビで見るときは大行列なのに、高校生限定だからか、それともまだ時間が早いからか比較的列は短い。この分なら30分くらいで買うことができるだろう。


 俺が少しホッとしている隣で、美亜は指折り何かを数えていた。


「えーっと、団扇でしょ、Tシャツでしょ、缶バッジでしょ……」


 おいおい、幾つ買うつもりだよ!? どっかのお嬢様なのか!?

 指が折りたたまれて行く様子に驚愕する。


 ライブのグッズは正直かなり高い。それこそ今回のライブ限定品になれば、高校生ではそれしか買えないという人も多いだろう。

 それなのに沢山買おうとする美亜は、かなり異常といえる。


「なぁ、美亜ってお嬢様だったりするのか?」

「え? そんなことないと思うけど……どうして?」

「いや、それならいいんだ。変なこと聞いてごめん」


 美亜が首を傾げる姿に勘違いだったかとホッとする。きっとお小遣いを今日のために貯めていたのだろう。これがもしどっかの社長令嬢とかだったら「お嬢様に失礼な態度を取るとは何様のつもりだ!」とかありそうで怖い……いや、ラノベの読み過ぎか。


 そんな馬鹿げた想像に内心で苦笑しながら、俺も何を買おうかな、と考えること30分。


「わぁ! すごい……!」

「あ、あぁ、本当に……」


 ラ・プルェーヴのグッズが所狭しと並べられ、美亜は目を輝かせ、俺は言葉を失った。正直に言おう、俺は今、めちゃくちゃ感動している!


 だって、半端なく可愛くて、やばいくらい歌が上手くて、笑顔が癒されるラ・プルェーブのグッズだよ!? 何度ライブの抽選に応募しても当たらず、絶望を味わってきた俺にとってこの光景は奇跡に近かった。


 美亜がやはりグッズをどんどん手に取っていく中、俺は真剣に吟味していた。


「これ、いやこっちかな……これもいいよな……」


 三つだけ決めた頃には結構な時間が経っていた。周りを見渡すとすでにブースの中に美亜は見当たらない。俺は真剣になりすぎて美亜のことを忘れていたことに気づき、慌ててブースから出た。すると、顔をデレっとさせて団扇を眺める美亜の姿が!


 美少女が浮かべちゃダメだろ、という表情だが不思議と癒される。俺が近づいていっても気づかないくらい団扇に夢中になっていた。


「ごめん遅くなって」

「あ、ううん、大丈夫だよ」


 すっと美亜の手首に目をやるとかなり大きなトートバッグ(もちろんこれもグッズだ)が目に入る。しかも相当膨らんでいた。


「ずいぶん買ったんだな」

「う、うん、ミーサちゃんが可愛くて……」

「ミーサちゃん推しなのか」

「う、うん……」


 ミーサちゃん、銀髪ツインテールでメンバーの中では妹ポジションの子だ。あざと可愛いタイプで俺の推しでもある。


「そんだけ買うってよっぽど好きなんだな」

「う、うん、だって可愛いんだもん……!」


 頬をうっすら赤く染めて恥ずかしそうに言うのは反則だと思う。彼女らに負けないくらい、いやむしろ勝ってるんじゃないかというくらい可愛い。


「俺もミーサちゃん推し」

「ほんと!? やっぱり可愛いよね!」

「ああ」

「えへへ、響夜くんと一緒だ……」


 恥ずかしがっていたのから一転、俺の言葉に嬉しそうな表情をする美亜。単純すぎる。

 俺たちはグッズを見てミーサちゃんについて語りながら、ライブまでの時間を過ごすのだった。




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