第10話 レオに騎士団の試合を見に来ないかと誘われました
シュミナと友達になって、数か月が経過した。後日我が家に遊びに来てくれたシュミナを、すっかり気に入った両親によって、今では家族ぐるみで仲良くしている。
先日行われた私の誕生日パーティーにも、家族で参加してくれた。ただ、シュミナのお姉さんでもある、シャティ様だけはどうしても馬が合わないが、それは仕方ない事ね。
今日もシュミナと一緒に、我が家でケーキを作っているところだ。
「ミシェル、随分と上手に生クリームを泡立てられるようになったわね。これなら十分美味しいケーキが出来るわ」
「本当?ここまで来るのに本当に苦労したのよ!もう腕がパンパンよ」
そう言いながら2人で笑い合った。
「やっぱりクリームを均等に付けるのって難しいわ。何度やってもボコボコになるの。それにしても、シュミナは本当に上手ね。シェフが作ったみたいだわ」
本当にシュミナは器用だ。それに引き換え、私は…
まあ、人には得意不得意があるのもね。
ケーキ作りの後は、2人でティータイム。
「それで、ミシェル。スタンディーフォン公爵令息様に、お菓子はプレゼントしたの?」
「まだよ。だってこの出来じゃあ、レオにバカにされるわ」
そう、私はいつか自分で作ったお菓子を、レオにプレゼントしようと思っているのだが、中々満足いく出来栄えの物が作れないのだ。ちなみに、レオの事はシュミナに話してある。
「この前のミシェルの誕生日の時に初めてお会いしたけれど、スタンディーフォン公爵令息様もミシェルに気がある様に思ったのだけれど」
急にシュミナが突拍子もない事を言いだした。
「もうシュミナ、そんな事言われると期待しちゃうじゃない!」
「ごめんね。でも本当にそう思ったから」
苦笑いのシュミナ。でも、もしそうなら嬉しいわ。その後は2人で我が家の書庫に行き、いくつか小説をシュミナに貸した。
「それじゃあ、ミシェル。またね」
「うん!また今度ね」
シュミナを見送ると、再び調理場へと向かう。まだ時間があるし、簡単に出来るカップケーキを作ろう。
シュミナにカップケーキの作り方を教えてもらって以来、時間を見つけては厨房に来てお菓子を作っている。その為、卵も上手に割れるようになった。最初は固まっていた公爵家のシェフたちとも、今ではすっかり仲良しだ。
「お嬢様、いちごジャムを作ったのですが、カップケーキに入れてみてはいかがですか?」
「まあ、それは美味しそうね。ありがとう。早速入れてみるわ」
こうやって、料理のアドバイスをくれるのだ。焼きあがったカップケーキを1口。うん、美味しいわ。これならレオにあげても問題なさそうね。
でも、最近レオは忙しいのか、我が家にあまり来なくなった。わざわざ持って行くのもねぇ。
まあいいわ、機会があればいつか渡そう。それにしても、沢山作ってしまった。いつもの様に、使用人たちに配ろう。
「あなた達も、良かったら食べてね」
シェフ達にそう言い残し、使用人たちの休憩室へと向かった。
「カップケーキを作ったの。よかったらみんなで食べて」
私がカップケーキを持って行くと、嬉しそうにメイドたちが集まってきた。
「お嬢様、さっきシュミナ嬢とケーキを作ったばかりでしょう?今度はカップケーキですか?どれだけ私たちを太らせおつもりですか?」
不満げなルシアナ。
「文句があるなら食べなくてもいいわよ!」
ルシアナからカップケーキを取り上げようとしたのだが、軽くかわされた。
「別に食べないとは言っていませんよ」
そう言いつつ、一番たくさん食べるルシアナ。
「お嬢様、随分と上達しましたね。これはジャムが入っているのですね。とっても美味しいですわ」
そう言って褒めてくれるのはエレナだ。彼女は本当にほめ上手だ。
その時だった。
「お嬢様、ここにいらしたのですね。レオ様がいらっしゃいましたよ」
別のメイドが呼びに来てくれた。
「レオが!すぐに行くわ!そうそう、あなたもカップケーキを食べてね」
そう言い残し、休憩室を後にした。嬉しくてつい小走りしてしまう。
「お嬢様!嬉しいのは分かりますが、走ってはいけませんよ」
すかさずルシアナに怒られた。
「はい、ごめんなさい」
嬉しくてつい…
そうそう、悪い事をした時は素直に謝る。1度目の生では“ごめんなさい”と言う言葉が大っ嫌いで、一度も言った事はなかった。ただし、他の人からはしょっちゅう言わせていたけれどね…
今は率先して言う様にしている。もう絶対あの頃の自分には戻りたくない。だから、1度目の生では出来なかった事を、率先してやる様にしているのだ。
おっと話がそれてしまった。今はレオね。
急いでレオが待っているという、居間へと向かう。
「お待たせしてごめんね。レオ。今日はどうしたの?」
嬉しくてレオに駆け寄った。
「ミシェル、いい匂いがする!」
私の匂いをクンクン嗅ぐレオ。令嬢の匂いを嗅ぐなんて、相変わらず失礼な奴ね。
「お菓子を作っていたのよ」
「はっ?ミシェルがお菓子を?あり得ないだろ!よし、俺が味見してやる!持ってこい!」
偉そうな奴ね。でもさっき作ったお菓子は、使用人の休憩室に置いて来たわ。きっと今頃、皆の胃袋の中ね。
そう思っていたのだが
「お嬢様が作ったお菓子なら、ここにありますよ」
どうやらルシアナが少し確保してくれていた様だ。
「へ~、見た目は普通だな!どれどれ」
1口で食べるレオ。
「おい、これ本当にミシェルが作ったのか?嘘だろ!普通にうまいんだけれど」
「レオ、あんた失礼すぎよ!シュミナに教えてもらった通りに作ったのだから、美味しいに決まっているでしょう」
お菓子名人のシュミナのレシピ通りに作っているのだ。味は美味しいに決まっている!
「へ~、お前の初めての友達の、ガーディアン侯爵令嬢にか。それにしても、ミシェルと友達になってくれるなんて、ガーディアン侯爵令嬢も物好きだな」
「何ですって!」
相変わらず減らず口なんだから!
「それで、今日は何しに来たの?また私を太らせるために、大量のお菓子でも持ってきた?」
相変わらず私を子豚に戻そうと必死なレオ。本当に、私を何だと思っているのかしら?
「そうそう、今日はお前に大事な話があって来たんだ。実は来月騎士団の試合があるんだが、俺も試合に出る事になった。だから、ミシェルも見に来い!」
へ~、騎士団の試合か。という事は、レオのカッコいい姿が見られるという訳ね。
「もちろん行くわ!時間と場所を教えて」
食いつき気味にレオに詰め寄ってしまったせいか、若干引かれてしまった。
「珍しいな、今まで何度誘っても来なかったミシェルが、即答で来ると言うなんて。まさか、騎士団に好きな奴でも居るのか?」
急に真剣な顔で詰め寄るレオに、肩をがっちり掴まれる。まあ、居ると言えば居るけれどね。
「別にいないわよ。ただ私は、カッコいい騎士たちの試合が見たいと思っただけよ!」
「それならいいけれど…そうそう、試合会場は招待状が無いとは入れないんだ。これ、招待状だ!ここに日時と場所が書いてある。いいか!絶対に忘れるなよ!やっぱりミシェルに渡しておくのは心配だからな」
そう言ってなぜかルシアナに招待状を渡すレオ。さすがのルシアナも苦笑いをしている。
「もう、レオ。あなた失礼すぎるわよ!」
本当に、何なのよこいつ!1度目の生の時、命がけで私を守ってくれたレオを見ていなかったら、間違いなくこんな無礼者になんて惚れないところだわ。
「後、会場は騎士団員たちもたくさん来ている。一応腐ってもお前は公爵令嬢だ。まあ、誰も興味を抱かないだろうが、念のため地味な格好で来いよ!いいな!」
何なのよ!こいつは!どうして私はこんな男に惚れたのかしら?正直自分でもよくわからなくなってきた。
「おい、ミシェル、聞いているのか?」
「聞いているわよ!はいはい、地味な格好で行けばいいのね」
こうなったらもうヤケクソだ。そう叫んでやった。
「それじゃあ、俺帰るわ。そうだ、お前の作ったお菓子、もうないのか?せっかくだから、貰ってやるよ」
「もうないわよ!使用人たちに配ったからね」
本当に、図々しい男ね。
「なんだよそれ!次からは使用人に配らず、俺の分をしっかり残しておけよ。それじゃあ、また来るからな」
「もう来なくていいわよ!」
ついそう叫んでしまった。いけないわ、レオの前では、どうしても素直になれない。
まあレオの事だから、私が何と言おうとまた来るのだけれどね。
来月はレオのカッコいい姿が見られるのね。そういえば、私を助けようと必死に戦っていたレオ、かっこよかったな。
何だかんだ言っても、物凄く楽しみなミシェルであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。