第8話 シュミナ様と一緒にお菓子を作ります
シュミナ様の誕生日パーティーの翌日から、早速借りた小説を読み始めた。エレナの準備してくれた小説より、文字が大きくて読みやすい。その為私の読むスピードは一気に上がり、シュミナ様との約束の日までに、3冊も読み切る事が出来たのだ。
それも、どのお話も面白くて、ついつい夜更かししてはルシアナに叱られた。
「お嬢様、夜更かしは美容の天敵ですよ!」
ってね。
でも、面白いのでついつい夜更かししてしまうのだ。
そして、今日はシュミナ様との約束の日。初めて出来た私のお友達に、両親も大喜び。お母様が手土産を準備してくれた。ちなみに、今回の手土産選びは私も一緒に参加した。どうやら私は誰かに何かをするという事が、苦手な様だ。
でも、苦手だからと言って放置するつもりはない。少しずつ相手の事を考えて、プレゼントを選べたらと考えている。
ちなみに手土産は、今王都で流行りのマカロンというお菓子だ。シュミナ様、喜んでくれるかしら。
馬車の中で1人ニヤニヤする私に、向いに座っているルシアナが苦笑いをしているが、気にしないでおこう。
そうしているうちに、侯爵家に着いたようだ。先週来たばかりだから、特に緊張することなく玄関へと向かう。ありがたい事に、ルシアナが先に行って話を付けて来てくれたので、スムーズに行けた。
玄関に入るとシュミナ様だけでなく、シュミナ様のご両親も一緒に居た。
「本日はお招きいただき、ありがとうございます。これ、つまらない物ですが、どうぞ」
ルシアナに教えてもらった通り挨拶をした。なぜ自信作のお土産を“つまらない物”と言うのか未だに納得出来ないが、これがマナーらしい。
「あなたがミシェル嬢だね。娘から話は聞いていますよ。わざわざ手土産までありがとう。さあ、中に入って」
シュミナ様のお父様に促され、居間へと通された。さすが侯爵家、中も立派ね。
「まさかシュミナがあなた様の様な方と仲良くしていただけるなんて。本当にありがとうございます。この子は本当に引っ込み思案で。ずっと友達が出来なくて、物凄く心配していたのですよ。どうか、これからも仲良くしてあげてくださいね」
涙ながらに訴えるシュミナ様のお母様。
「実は私もずっと友達が出来なくて。シュミナ様の様なお優しい方とお友達になれて、とても嬉しいです。そうそう、シュミナ様から借りた本、とっても面白かったわ。私、一気に読んじゃった」
ご両親の間に座っていたシュミナ様に本を渡した。
「それは良かったです。他にも面白い本がいくつかあるので、お貸ししますね」
「まあ、本当?それは楽しみだわ。そうそう、今日はお菓子作りをする約束だったわよね。私、お菓子を作ったことが無いのだけれど、大丈夫かしら?」
お菓子どころか、厨房にすら入った事が無い。そんな私に作れるか不安だったが、せっかくシュミナ様が誘ってくれたのだ。それに、今回の生では出来るだけ何にでも挑戦したいと思っている。
「そうでしたわね。では、早速厨房に行きましょうか?」
シュミナ様が差し出してくれた手を取り、2人で厨房に向かう。厨房には沢山のシェフたちがいた。それに、見た事のない道具がたくさん並んでいる。
「お嬢様、お待ちしておりましたよ。あそこの一角に材料を準備してありますので、ご自由にお使いください」
1人の男性がシュミナ様に話しかけて来た。どうやら料理長の様だ。
「いつもありがとう、早速借りるわね」
シュミナ様に連れられて、料理長が準備してくれたスペースへと向かった。
「今日は簡単なカップケーキを作ろうと思っているのですが、よろしいですか?」
「もちろんよ。でも、私本当に何も出来ないけれど、大丈夫かしら?」
目の前に並ぶ食材も道具の名前すらわからない。こんな何も知らない子、シュミナ様は嫌いにならないかしら…そんな不安が頭をよぎる。
「大丈夫ですわ。さあ、早速作りましょう。まずはバターを湯煎で溶かしていきます」
バター?これかしら?それに“ゆせん”って何?私が明らかに混乱しているのにどうやら気づいたシュミナ様が、まずは材料の説明をしてくれた。
そして、実践しながら優しく教えてくれる。とにかくシュミナ様が行う動作を、見よう見まねで行っていく。
「ミシェル様、上手ですわ。次は卵を割りましょう」
そう言うと、簡単に卵を割ったシュミナ様。よし、私も!そう思ったのだが、卵にヒビを入れようとしたのだが、力が入りすぎて、ぐちゃっと潰れてしまった。
「ごめんなさい!どうしましょう」
混乱する私に
「大丈夫ですよ。別の卵を準備しますね」
そう言って新しい卵を渡してくれたシュミナ様。この子、本当に優しいわ。
何度も失敗し、やっと卵が割れた。ただし、殻が入ってしまったので、シュミナ様が丁寧に取ってくれた。その後も小麦粉を舞い上がらせてむせてしまったり、勢いよく混ぜたせいで周りに飛び散ってしまったりと、自分で言うのも何だが、まあ酷いありさまだった。
周りで見ていた料理人たちも、苦笑いしている。
何とか生地をカップに流し込み、焼き上がりを待つ。
「シュミナ様、ごめんなさい。まさか自分がこんなに不器用だなんて思わなかったわ。厨房もこんなに汚してしまって…」
申し訳なさ過ぎて、合わせる顔もない。
「ミシェル様、最初は皆こんなものですわ。確かにミシェル様は少し不器用ではありますが、一生懸命作る事が大切ですわよ。それに、私こんなに楽しいお菓子作りは初めてでしたわ。やっぱり、お友達と一緒に作るお菓子作りは楽しいですわね」
そう言って、にっこり笑うシュミナ様。しばらくすると、いい匂いがして来た。どうやら焼きあがった様だ。
早速1口食べてみる。
「シュミナ様、このカップケーキ、とっても美味しいわ。ありがとう、シュミナ様のおかげよ。本当にシュミナ様はお菓子を教える天才ですわ。私の様な不器用な者にも、こんなに美味しくお菓子を作らせてくれたのですもの」
嬉しくてシュミナ様の手を握って何度もお礼を言った。恥ずかしそうに頬を赤くするシュミナ様。
「ミシェル様が一生懸命作ったからですわ。それから…もしよろしければ、私の事をシュミナと呼び捨てで呼んで頂けませんか。せっかく友達になれたのですし」
そう言うと俯いてしまったシュミナ。
「わかったわ、シュミナ。それなら私の事も、ミシェルと呼んで。だって、私達お友達だものね。それから敬語も無しね。お友達に敬語なんておかしいわ」
私の言葉を聞き、ぱっと笑顔になるシュミナ。本当に可愛い!
「わかったわ、ミシェル」
「そうだわ、家は無駄に大きな書庫があるの。そこに恋愛小説が山の様にあるのよ。よかったら、今度家に遊びに来ない?きっとお父様とお母様も喜ぶわ」
「本当?ぜひ行きたいわ」
「それじゃあ、約束ね」
お菓子作りの後は、自分たちで作ったカップケーキを食べながら沢山おしゃべりをした。もちろん、今回借りた本の話題でも大いに盛り上がった。帰り際には、新たに2冊の本と、今日作ったカップケーキをお土産で持たせてくれた。
「今日はありがとう。楽しかったわ!今度は絶対家に遊びに来てね」
「ええ、もちろん行くわ」
シュミナに見送られ、公爵家の馬車へと乗り込む。今日はとっても楽しかったわ。そうそう、今日教えてもらったカップケーキ、早速家でも作ってみよう。そして、次シュミナに会う時までに、完璧にマスターして驚かせよう。
そんな事を考えながら、1人馬車に揺られるミシェルであった。
~あとがき~
いつもお読みいただきありがとうございますm(__)m
次回、シュミナ視点です。
よろしくお願いします(*'▽')
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