ある町の人々◆
その青年はいくつもの紙袋やビニール袋を抱えて歩いていた。
よろけて、うまく歩けないほどの荷物。中身は野菜や果物、生活雑貨である。何もそこまで買い込まなくともと思うかも知れないがこれらは青年が買った物ではない。もちろん盗んだ物でもない。全て貰った物なのだ。
と、今も一人の主婦らしき女性が青年に近づいたと思えば「良かったら貰ってください」と近くのスーパーで買った特売品の入った袋を手渡した。青年はそれを苦笑しつつ礼を言い、受けとる。
断りきれず結局貰ってしまうのはわかっていた。いつもそうなのだ。この町に引っ越してきてからというもの毎日この調子だ。出歩く度に面識もない人物が手に持っているものを渡してくる。断っても、しつこく渡そうとしてくる。貰ってくれと泣き出す者もいるくらいだ。
何故くれるのかと理由を訊ねてみると、皆、何故か渡したくなると答える。青年がどこの誰かも知らないのにだ。特別美形と言うわけでも、可哀想になるくらい貧乏そうな見た目というわけでもない。
どうも気味が悪い。わかったことは金銭や高価な物はくれない。皆が皆がくれるわけではないということだ。
この町に来る前はこんなことはなかったし、他の町に行った時もこんなことは起きない。となるとこの町に何か秘密があるのは確かだが……。
と、悩んでいた青年はある夜、前に住んでいた町の友人とバーに飲みに行き、自分に起きている現象を話した。
「いいじゃないか、同じくアパートに一人暮らしの身としては羨ましい話だぜ。
毒が入っているわけじゃないんだろう?」
「まあな。実際少し、いや大いに助かっているけどやっぱり気味が悪い。
見ず知らずの人がくれるんだぞ。お返しも受け取ってもらえない」
「それがいいんじゃないか余計な気遣いが要らなくて。
素直にラッキーだと思ってありがたく貰っとけよ。ああ、自分のファンとでも思えばいい」
「いやぁ、そんな風には思えないよ。今に悪いことが起きる気がする。
ある日突然今まで渡したものを返せ! と詰め寄ってくるとか」
「はははっ、ビクビクしすぎだ。まあ、考えすぎないことだな」
何も進展はなかったものの話したことで幾分か気が楽になった青年はバーを出て友人と別れ、駅に向かって歩いた。
すると路地にいる怪しげな老婆に呼び止められた。看板を見るとどうやら占い師のようだ。
「お兄さん、どうだい? 寄ってってよ」
「……まあ、ちょうど良いかもしれないな。わけがわからないことがあってね。
あなたが解決してくれると嬉しいんだけど」
「どうだろうねぇ。私は人のご先祖様がわかるだけだからね」
「先祖ね、まあ見てもらうか。金に余裕はあるしね。一つ立派なのを頼むよ」
「……あんたの先祖は盗賊だね。今の地名で言うと、大蔵町で活動していたようだ」
「盗賊? それは傑作だ! 人から物を奪って生活してたとは。それも今俺が住んでいる町でな」
「まあ慌てないで、盗賊は盗賊でもこれは義賊だね」
「義賊?」
「そう、暴君とでも言うべき殿様や地主から金を奪い、貧しい人々に与えていたのさ」
「ほー、そうだったのか、弱者の味方とは気分がいい。
もしかしたら俺に物をくれる人たちは、俺の先祖に救われた人々の子孫なのかもしれないな」
青年はすっかり気分を良くし、鼻歌交じりに道を歩いた。
これからは何の気兼ねなく物を貰っていいんだ。彼らのためにもそれがいい。
……しかし待てよ。本当にあの町の人が俺の先祖に救われた人の子孫だとしたら当然、俺の先祖に金を奪われ苦汁を飲まされた者の子孫もいるわけで……。
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