第8話 それぞれの道①/それぞれの道②
1人、森の中を通る道の真ん中で、置き去りにされてしまった誠。
次に進むべき、目的地への道はわかっている。
ただ、いまからどうするべきかを迷っていた。
このままこの場所でリーナが戻るのをただ待つか、それとも目的地へ進むべきか…
彼女が消えた後、走り去る足音は聞こえたが周囲の草木が揺れる姿や落ち葉や枝を踏む音は一切聞こえなかった。おそらく、土で舗装されたこの道を真っ直ぐ先へ進んだはずだ。
オークの軍勢がいつ侵攻を再開するかはわからない。
明日かもしれないし、明後日かもしれない。
もし侵攻が始まれば、おそらくアカルシア王国は滅亡する。オーク達を叩く必要がある。
一刻も早く、急がなくては…という漠然とした焦りが誠の中にあった。
誠は、オーク達と戦いに現代の武器を使う気でいた。
形状しか知らなかったフラッシュバンが生み出せたのだから、他の知っている武器も生み出せるはず…
オーク達は、剛腕であることを活かした物理的な近距離攻撃がメインのはず。近距離が危険ならこちらは間合いの外、遠距離から攻撃し倒せばいい。
幸いこの世界では不思議な力…スキルのおかげで、武器の発達が遅れている。
棍棒や剣などの近接武器や爆弾などはあるようだが、銃火器の類いはまだ無さそうだ。
要は日本に鉄砲が伝来する以前の時代と同じ。
勝ちたいなら、その時代の先人を真似すれば良い。
ポルトガル人によって日本に鉄砲が伝来した後、それを真似して種子島銃が作られた。
長篠の戦いではそれを大量に実戦投入し、当時最強と呼ばれていた武田騎馬軍団を散々に蹴散らした。
そう、この時代の先人とは天下人…織田信長である。
銃火器…剣術や槍術などの他の武術とは違い、長年の鍛錬や練習など不用。
敵を狙って引き金を引ければそれで良し。
あとは、発射された弾丸が敵の皮膚を破り、一瞬でいとも簡単に敵を死に至らしめることができる。
これがあれば、まさに一騎当千だろう。
敵との兵力差がいくらあろうとも、もはや関係ない。
《この世界にはないものを知っている。》
それこそが異世界人である彼の特権であり、アドバンテージである。
ただ、不確定要素が残っている。
1つ目は、敵のスキルが一切不明あること。
2つ目は、自分のスキルの限界がどこまでかが不明なこと。
3つ目は、実行中の予測不能なアクシデント。
1つ目と3つ目は、その時の出方次第で、適宜考えて動くしかない。
いま対策できるのは、2つ目のみ…
考えた結果、誠は進路を決めた。
「先へ進もう…」
しかし、リーナがここへ戻って来るという可能性もあった。
そのため、近くの木に言葉を彫ることにした。
「ナイフがいるな…せっかくなら、射出可能なスペツナズナイフにするか。たしか、あべこべなことを強く念じれば生み出せたはず…」
誠は、フラッシュバンを生み出した時のことを思い出しながら、右手に集中した。
(たしかあの時、この世界には存在しないけど自分の手にはあると強く思っていた。そしたら実体化した。まるでRPGゲームの長い呪文だ。簡略化できないかな…ないけどある、ないがある…「ナイガル」)
「ナイガル!」
スペツナズナイフの形状を思い出しながら言った。
すると、右手にはスペツナズナイフが出現した。
「やった!成功だ。」
自分自身の喜びの声だけが、虚しく森に響く。
「はぁ…」
誠は、大きなため息をついた。
生み出したナイフが、手の平からぼとりと地面に落ちる。
「ただ危ない目に合わせたくなかった…傷つけたくなかっただけだったんだ。なのに、なんでこんなことになったんだろ…」
誠はしばらくの間、その場に座り込み、自分の未熟さを省みながら感傷に浸っていた。
そして、ようやく近くの木にメッセージを彫った。
『コノサキノマチニテマツ byマコト』
メッセージを彫り終わると、新たに生み出したスペツナズナイフを腰に装着する。
肩からかけているショルダーバックには、未だフラッシュバンが11本入っている。
「やっぱこの創造できるスキル、便利だよな〜。」
自分自身のスキルに、彼はひとり関心していた。
「よし、前に進もう。戦に備えて、自分のスキルを詳しく調べてもらわないと。」
誠は、そのままリゼッタの町へ向けて歩みを進めた。
一方、その頃…
リーナは、『透過』のスキルを使ったまま、ただひたすらに走っていた。
自身の爆発した感情を抑えるために、息が切れるまで。ようやく疲れ果て、膝から地面に崩れ落ちた。
切らした呼吸を整えながら、彼女は呟いた。
「なんでわかってくれないのさ…ただ私は誠が心配なだけなのに。」
ふと顔を上げると、目の前には分かれ道があった。
左へ行けば誠の目的地であるリゼッタという町へ。
右へ行けばオーク達の残留する基地の近くを通ることになるが、アカルシア王国へは帰れる。
「もうここまで走って来ちゃったのか…どうしよう。そのままここで待っても、いまは誠に合わせる顔なんてないし…」
んーっと考えた挙句、彼女は自らの意思で道を選び先へと進んだ。
彼女が進んで行ったのは…右の道、自身が生まれたアカルシア王国へと続くだった。
陽が傾き始めた頃、誠はようやくリゼッタという町の城壁前まで到着した。
誠はあの後、リーナに言われていた通りにそのまま道を真っ直ぐ進み、突き当たりの二手にわかれた道を左へと進んだのだった。サルダンという村と同じく、町全体が城壁で囲われている。町というだけあって、その規模は、村の2〜3倍はありそうだ。
出入口に門番2人、壁の上に警備兵が何人かいたが、服装が全員バラバラだった。
「国の兵士だと、鎧や服の色が統一されているはず…違うということは、おそらく民間の市民兵か…?」
警備兵達は周囲を警戒しているが、特に検問などはしていない。すんなり町の中には入れそうだ。
「もしリーナが先にこの町へ来ていたら、門番が彼女を目撃しているはず…尋ねてみる価値はあるな。」
誠は、そのまま道を進み、出入口にいる男の門番に声をかける。
「なぁ、門番さん。ちょっと尋ねたいことがあるんだけど。」
警備兵A「なんだ?少年。」
「ここに俺より背が少し低いぐらいの長い白髪の女の子がここを通らなかったか?はぐれちゃっていま探してるんだ。巫女のような赤い服を着た女の子なんだけど…」
警備兵A「ん〜、見てないな…お前は見覚えあるか?」
警備兵B「いや、そんなやつ俺も見てないな…」
「そっか…まだ来ていないか。すまない、ありがとう。お仕事頑張ってな!じゃあ!」
手を振り、町の中へ立ち去ろうとする誠。
しかし、先程の警備兵に呼び止められてしまった。
警備兵A「ところで、少年…」
「な、なんだ?」
警備兵A「ここらで見ない服装をしているな。いったいどこから来た?」
「あー…」
(正直に言うべきか…誤魔化すべきか…)
警備兵B「あ!もしかして、世界中を旅して回ってる、さすらいの傭兵か?」
「え?あ、そう…そうなんだよ。世界を旅してたら、この装備を洞窟で見つけてな。鎧と違って軽くて丈夫だし、体を動かすのに適してたんだ。だから、気に入っちゃっていまでも身につけてるんだよ。」
ただのTシャツに半ズボン…動くのに適した服装という意味では間違っていない。
警備兵A「ほう、なるほど。町の中で喧嘩とか、厄介ごとは起こさないでくれよ?」
警備兵B「そうそう、俺たちの仕事が増えるからな。」
もう1人の男が、頷きながら言う。
「あぁ、もちろんだ。この町には、アーシャという女性に用があって来たんだ。最近、スキルの調子が悪くてさ。俺のスキルを見てもらおうと思って。」
警備兵A「あぁ、アーシャか…」
男は考え込むように言った。
警備兵B「アーシャなら町の中央にある神殿に居るぞ?」
警備兵A「バカ!こいつが人狩りやアサシンだったらどうする気だよ?まったく…」
そう言って、隣にいる同僚の男の頭をポカリと殴る。
警備兵B「あいてて…警護に特化した傭兵が隣についてるから、大丈夫だって!」
警備兵A「まったく…甘いんだよ、お前は!」
同僚を叱責した後、男は誠に向けて言葉を続けた。
「少年、疑うつもりはないが、下手な気は起こさないでくれよ?最近、よく狙われてるもんでな。
警備は厳重にしているが、未だお金欲しさにアーシャを攫おうとするバカがよく居るんだ。
そいつらはいま、牢屋かあの世に居るがね。」
「俺はほんとに自分のスキルを鑑定してもらいたくて来たんだ。そんなことする気は毛頭ないよ。」
警備兵A「ならいいが…じぁな、行ってこい。」
「あぁ、ありがとう。それじゃあな。」
誠は、警備兵達に背を向け、町の中央にある神殿へ向けて歩を進めた。
一方その頃、森の中を通る道にて…
リーナはわかれ道で、右へ進む道を選び、『透過』のスキルで自身の姿を消したままアカルシア王国へと戻る道を、1人でとぼとぼと進んでいた。
「私だって、役に立てるんだから…」
1人になったリーナは呟く。
彼女は、自分の国へ帰るためにこの道を選んだのではなかった。
(誠は、情報は最大の武器だと言っていた。私に戦闘は出来なくても、私のスキルなら偵察ぐらいはできるもん!)
彼女の真の目的は、道の途中にあるオークの軍勢が駐屯している基地へ潜入し、偵察して敵の情報を集めることだった。
喧嘩したいま、誠に合わせる顔がない彼女は、彼女なりに自分の有用性を証明したかったのだ。
誠と出会い、一緒に旅をして危険な目にもあった。
だけど、彼女にとってはその全てが楽しかった。
戦場は常に命の奪い合い。
十分危険であることは、彼女自身、百も承知。
いままで起きた戦争にアカルシア王国の兵士達を、国の王女として、数えきれない人数、戦場へ見送ってきたのだから…
時は2年前に遡る…
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