三毛猫は彼氏を見ている

ゆーり。

三毛猫は彼氏を見ている①




―――ふぁぁぁ・・・。

―――眠い・・・。


ポカポカと温かな陽気にぐっすりと眠っていた加恋は、自然に起きるがまま目を開けた。 何故だかやたらと体が窮屈な気がして、ぐぐっと伸びをしてみる。 それが異様に気持ちよかった。


―――あれ?


だがそんな身体的感覚よりも気になったことに思わず目を擦る。 寝ているのは当然自宅であるはずなのだが、天井までの距離がやたら遠い。 


―――いつの間にリフォームを・・・?


そんな風に思うが、流石に寝ている間の一日でそれは無理だ。 手を伸ばしてカーテンを開けようと思っても手が届かない。 まるでベッドの上でもがいている魚のように感じられた。


―――何だかおかしいなぁ。

―――もしかして成長期ではなく、後退期・・・?

―――って、そんなわけないよね!?

―――まぁ、カーテンを開けるのは起き上がってからでいいか。


一度ベッドから降りてから考えようと思った。 だがそれを実行しようとしてベッドから転げ落ちてしまうのだ。


「うわ!? 痛ッ!」


ベッドから落ちた経験は一度だけあるが、こんなに高くなかったように思った。 だが高いところから落ちたというのに思った程痛くない。 尻餅をつき腰を擦りながらベッドを見る。


―――ベッドから落ちるとか小学生の時以来なんですけど・・・!

―――どうしてベッドがこんなに大きくなっているのよ・・・。


ゆっくりと立ち上がり、目の前に広がる光景に唖然とする。


―――・・・あれ?

―――私の部屋ってこんなに広かったっけ?


そう疑問を持ちながら振り返ってベッドの向こうのカーテンに手を伸ばす。 全くといっていい程届く気配がなかった。 というか、そもそもベッドの端に手が当たる程度にしか手が伸びていないのだ。 

どう考えてもおかしかった。


―――というか私の背低くない?

―――やっぱり縮んだ?

―――・・・いや、違う。

―――私の身に何かが起きている!?


心配になり慌てて鏡に駆け寄った。


―――いつもなら三歩くらいで届く距離なのに、今日はいつも以上に遠い・・・!


やっとの思いで到着し鏡を見てみると、そこに映っていたのは明らかに自分の知る自分ではなかった。


―――え、何これ!?


そもそも人ではないのだ。 茶色、白色、黒色の三種類の体毛で包まれた三毛猫が鏡には映っている。 しかも自身の感覚が示す通り、二本足でしっかりと立っていた。


―――いやいやいや、流石に意味が分かんないです!

―――一体どうしてこんな姿に・・・。


くるりと回転してみると、後ろ足で器用に二足歩行している自分が少し気味が悪く思えた。 


―――平気で二本足で立つとちょっと不気味だな。

―――というか、本物の三毛猫だぁ!

―――毛並みもふっさふさ。

―――背丈的にぬいぐるみでも着ぐるみでもないし、まるで本物・・・。


悠長にそのようなことを考えている場合ではなかった。 いや、寧ろ現実逃避こそが最良の選択だったのかもしれない。 だが加恋は今後どうするのかを考え始める。 

何故なら猫を飼った経験がなかったためだ。


―――とりあえず猫のご飯は何かを調べなきゃ。

―――あとは何をして生きているのか・・・。

―――って、違う!

―――大事なのは他に似たような症状の人がいないか、ネットで検索してみることだ!

―――何でもネットで解決、便利な世の中だなぁ。


頭の中が混乱していた。 やはりどう考えても人が猫になった話なんて、空想の世界でしか聞いたことがない。


―――と、とりあえずまずは空智に連絡連絡・・・!


緊急事態に慌てて彼氏の空智(アキトモ)に助けを求めようとする。 ローテーブルによじ登り、そこで困ったことに気付く。


―――スマホがまず掴めない・・・。


何とか試行錯誤し両手で押さえ付け電源を入れることはできた。 だが爪が邪魔で操作が上手くできない。


―――あぁ、もう!

―――画面が傷だらけになっちゃう!


それでも必死に連絡しようとした。 爪でタッチしてもタッチパネルは反応しない。


―――肉球で上手く操作ができないの?

―――にしても爪が長過ぎるって・・・! 

―――ガラケーだったら簡単に操作できたのに。

―――ハイテク時代の馬鹿ぁ・・・。


しばらく粘ったがあまりにも画面が傷付いてしまい連絡を取ることを諦めた。 傷付いたスマートフォンを見て気分が沈む。


―――あーあ。

―――人間に戻った時、修理へ行かなくちゃいけないのが大変・・・。

―――もう、どうしてこうなったの・・・?


辺りを見回しながら昨日のことを思い出した。


―――私、何かした?

―――何か変なものでも食べた・・・?


そして昨日の出来事を思い出していると心当たりが一つあった。


―――ッ、もしかして・・・!


加恋は昨日のことを思い出し顔を青ざめさせた。



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