第164話 星暦553年 橙の月25日 これも後始末?(12)(第三者視点)
>>>サイド ダリューン
「アジャール!
どうしたんだ?」
結界の向きを弄って足止めする拘束用結界として機能するように改造した魔具を密かに起動させる準備をしながら、何やら『護衛』の一人と言い争っているアジャールの傍に近づく。
「どうも、スラムに置いてあった発火装置が見つかっていたようなんだ。
火が上がらない」
振り返ったアジャールが髪をかき上げながら訴えてきた。
「そんなはずがあるか!
ちゃんとやれ!!」
『護衛』がアジャールに怒鳴りつける。
おいおい。
お前は『護衛』だろ?
何を偉そうに王宮魔術師を怒鳴りつけているんだよ?
まあ、実際には『見張り』であり、俺たちが裏切るそぶりを見せたら『後始末』をする要員でもあるのだが。
「俺の担当していた地域の魔具も撤去されていた。
こっちのは・・・魔具そのものはまだあるみたいだが、爆破装置そのものが解体されているんじゃないか?」
『護衛』が剣を抜いてアジャールに突きつけた。
「そんな訳があるか!ちゃんと俺たちが準備したんだ!!
さっさと起動しろ!」
ため息をついたアジャールが、順次魔具を起動していったら、やっと4つ目の魔具で火が上がった。
「ほら見ろ!」
『護衛』が勝ち誇ったように声を上げた。
いや、単にアファル王国側がスラムまで探す手が足りなくて、まだ解体最中なんじゃないか?
そんなことを考えている間に、アジャールが残りの2つの魔具も起動した。
次々と爆発音が響き、炎があがるが・・・。
炎が広がらない?
不自然に風が吹いて炎が広がるのを止めているような感じがする。
思わず眉をひそめてそれを見ていたら、炎を満足げに見ていた『護衛』がこちらを向いた。
「おや、ダリューン師。
中央広場へ集合のはずだったが。
それに、担当の護衛達はどこへ?」
今更気が付いたのかよ。
どさくさ紛れにアジャールと中央広場に行く振りをしてはぐれられたらそれが一番良かったのだが、そうも行かないようだな。
準備した魔具を起動して、ズボンの足元から地面へ落ろしながら肩を竦めて見せる。
「俺の担当部分の魔具が撤去されていたせいで、火事があっという間に消火されてしまってね。
俺の護衛達は放火犯として捕まりそうになって逃走中だ。
俺は取り敢えずアジャールの方がどうなっているのかを確認して、必要があったら手伝おうと思ってきたんだよ。
周辺地域での陽動作戦がうまく行かないことには、中央広場の攻撃もすぐに取り押さえられてしまうだろう?
アジャール、火が付いたんだ、さっさと行こう!」
アジャールの腕を引っ張って走り出す。
後を追おうとした『護衛』たちは拘束用結界に引っかかって足を止めた。
元々、『最初の数撃だけを防げれば良い』という保護用結界の出力の向きを変えて拘束用にしたものだ。
そう長くは持たない。
願わくは、火事を見てやってくる軍人なり住民なりがこいつらを見つけるまで効力が続いてくれると期待しよう。
「何をやったんだ?!」
走りながらアジャールが尋ねてきた。
「この国で暫く前に売り出された可動式の結界用魔具の回路を弄ってね。
内向きに作動するようにして拘束用に使わせて貰ったのさ」
今となっては神官どもに良いようにこき使われている俺たちだが、『王宮魔術師』という肩書きには外の人間に対してはそれなりに権威がある。それを利用してアファル王国とも商売をしている商会から最近出ている新しい魔具を色々入手していたのだが、それが役に立った。
特許登録されている回路を勝手に弄ったのがばれたら魔術院のお偉方にまた睨まれるだろうが。
「ところで、どこに向かっているんだ?」
暫く走っていたものの息切れして足を止めたアジャールが尋ねてきた。
今更聞くか?遅いぞ。
「ああ、そう言えばお前に聞くのを忘れていたな。
今回の攻撃は予想していたとおり、失敗した。
俺の担当した範囲の魔具は全て撤去されていたし、アジャールの担当部分だって過半数が無効化されていた訳だろう?
当然、公爵や中央広場への攻撃だって失敗するだろうさ。
そうなった場合・・・これだけ費用と人員をかけた破壊工作の失敗の責任をデズバが大人しく認めると思うか?」
アジャールが顔をしかめた。
「責任というか・・・これだけ準備をしたのに失敗したと言うことは、アファル王国が一枚上だったということだろう?
どうしようもないだろうが」
おいおい。
『相手の方が一枚上手でした』で済むわけがないだろう?
アファル王国内での手配はテリウス教徒を使って神殿側がやった。
だから情報漏洩の責任はあちらにあるはずだが、そんなことを認める訳が無い。
「一体どれだけのタレスの涙を使ったと思っているんだ?
幾ら神殿があれの製造法を知っているから原価で入手できるとは言っても、それでも莫大な費用を掛けているんだぜ?
誰かの責任にしてそいつを反逆罪でつるし上げるに決まっているだろうが」
アジャールが深くため息をついた。
「その場合、私達が身代わりにさせられると?」
どうやら護衛たちは追いかけて来れないようなので走るのは止めて、街の外部へ向けて歩きながら頷く。
「当然だろう?
だから、テリウス教の為に責を負って死にたいと言うので無い限り、アジャールの選択肢はアファル王国に亡命してガルカ王国の実態を知る限り全て話すか、別の国に行って流れの魔術師として生きていくかだな。
お前の師匠が行ったバラーンなんかも良いかもな。
ガルカ王国との間に山脈があるから、あまり切実に国の情報を聞かれたり、スパイだと疑われる可能性も低いだろう」
国を出る前に商会に馬の手配を頼んでいた貸し馬屋が見えてきた。
回りに怪しげな人間はいないようだ。
祭りの最中に貸し馬を手配するなんて怪しいと、色々相手に商会の男にも疑われたようだったが・・・少なくとも高額な金を取っただけあって、俺がやろうとしていることの情報は売らないでくれたらしい。
「ダリューンはどうするんだ?」
貸し馬屋に入っていく俺の後を続きながら、アジャールが尋ねた。
「俺は亡命する。
その方が、知らない国で再出発する際の色々な面倒なことに手助けして貰えそうだろ?
ただ、この街はそれなりに殺気立っているからな。
王都まで行って、あそこの魔術院に出頭するつもりだ」
さて、アジャールはどうするかな?
俺はもうとっくのとうにガルカ王国に愛想を尽かしたから、自分の再出発の為にいくらでも情報を提供するつもりだ。
だが、アジャールは真面目で良心的だからなぁ。
「私は・・・王宮魔術師とは、国のためにその力を使う魔術師だと師匠に教わってきた。
確かにガルカ王国に戻っても国の為ではなく、テリウス教の神官の為に殺されることになるだろうから戻れないが・・・流石に国の情報を売るのは嫌だな。
師匠の元へ訪れてみるよ」
まあ、そう言うかもとは思っていたよ。
残念だ。
アジャールみたいな真面目でお人好し、かつ有能な人間なんてそうそう居ないんだよねぇ。
幸いアジャールの師匠はまだピンシャン元気にしているという話だから、魔術院への紹介ぐらいはしてくれるだろう。
「分かった。
じゃあ、馬に関しては貸しにしておいてやるよ。
いつか落ち着いたら、アファル王国の魔術院経由で返してくれ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます