第161話 星暦553年 橙の月25日 これも後始末?(9)

ボロい建物が密集している地域を網羅できる一番早いルートを裏ギルドの男に案内してもらいながら歩く。


心眼サイトに集中するために、あまり嬉しくないが青に腕をつかんで誘導して貰っている。


爆破装置に使われている魔具の魔石が小さいので、目を閉じて集中した方が探しやすいんだよね。

・・・と言うか、目を閉じないと見逃しかねない。


スラムと下町の境目ぐらいにも木炭の粉から出来た爆破装置で吹き飛ぶような荒ら屋が建っている地域があるというので、そちらも探索の範囲に入れて案内して貰っている。


何時に騒動を起こすつもりなのか分からないが、出来ればパレードが始まる前までに探索を終わらせたい。

全部見つかる前に装置を起動されたら、下手をしたら俺たちが火に巻かれかねないからな。


まあ、清早がいるから死なないとは思うけど。

それでも、周りを焔に包まれたら空気がなくなる可能性もあり、危険だ。


「あった。こっちだ」

まず1つ、見つけた。


魔石の光を頼りに途中にあった家の中を通りぬけて爆破装置が設置してある荒ら屋へたどり着く。


扉を蹴り破って障害物が壁のように積み上げられているのを見て、裏ギルドの男が後ろから付いてきていた男達に声を掛けた。

「おら、一気に片付けるぞ!」


今回は障害物撤去リレーには参加せず、心眼サイトの範囲を広げて次に向かう予定の方向を探し始める。


物理的に自分が近づく方が楽なんだが、心眼サイトの範囲を広げることだって可能ではある。

集中するあまり頭が軽く痛くなってきたが。

こめかみを揉み解しながら心眼サイトを使っていたら、青が腕を引いた。


「もうここに居る必要は無い。

次に向かおう」

確かに、あれだけ単純な構造だったら、解体そのものに魔術師が立ち会う必要は無い。

脅威なのはタレスの焔が発生してからだ。

それまでは単に幾つかの小さな樽が積んであるだけであり、それを分ければ問題は無い。


「こちらだ!」

裏ギルドの男が道案内を再開してくれたようだ。

取り敢えず、青がしっかり俺を引きずって行ってくれると信頼して、目を閉じたまま心眼サイトで探索を続ける。



そんなこんなでパレードが始まる10刻の鐘が鳴った時点で、5つの爆破装置を発見していた。


「もうすぐパレードが始まるが、あとどの位の範囲が残っているんだ?」

10刻の鐘の音を聞いて、青が裏ギルドの男に尋ねる。


「あと少しだ」

半ば走りながら男が答える。

流石に完全に走ると心眼サイトに集中しきれないので早歩きにして貰っているのだが、先程から歩みが段々速くなっている。


まあ、焦る気持ちも分かるけどさ。

だから文句言わずに何とか足を動かしているのだが・・・これだったら、青におんぶでもして貰って動く方が速いか?なんて思いながら必死の思いで心眼サイトを集中していたら、向かっている方向で魔石がその魔力を解放するのが視えた。


「爆発する!!」

タレスの焔の直撃を受けたらしゃれにならないので、慌てて横道に入る。


『清早!消せないのは分かるが、結界か何かを張ってタレスの焔が他の建物に触れるのを防げるか??』

燃え広がったら水で消せないにしても、広がるのを防げれば砂で何とか消火できるかも知れない。


『おう!

風のにも応援を頼んでおいたから、広がらないように止めておくね。

何カ所もあったらどうしようかと思ったけど、ここだけだったら何とかなる!』

清早の力強い返事に、ふうっと一瞬安堵の息が抜けた。


「結界で周りにタレスの焔が広がらないようにとどめるから、力が尽きる前に砂を持ってきて消火してくれ」

裏ギルドの男に声を掛ける。


「お前ら!砂だ、砂で消火しろ!」

周りの男達が爆破装置があった荒ら屋の周りの家を取り壊し、スラムの住人達が消火用の砂を持ってきている間に、まだ探索できていなかった残りの範囲を心眼サイトで調べる。


一個一個魔具を起動しているのだったらまだ他にも装置があるかもしれない。

最初の爆破の際にタレスの焔が飛び散るのを防ぎ、周りの家を取り壊せればこの爆破装置の火事だって普通の火事と大して差は無い。


だからここはもう俺がいなくても何とかなる。

他の場所でも爆破があるならそっちを何とかしないと、


ドガ~ン!!


そんなことを考えていたら、調べた地域から微妙に下町寄りに外れた場所で爆音と共に焔が空に立ち登るのが見えた。


ちっ!!

まだあったか!

一体どんだけ予算を注ぎ込んだんだよ、ガルカ王国!!


◆◆◆


「こちらの火はもう何とかなる!

あっちの手伝いをしてくれ!!」

消火の指示を出していた男が俺の方を振り向いて新しく上がった炎の方へ腕を振った。


「分かった。

誰か案内してくれ!」

ここからでも炎と煙は見えているが、最短ルートは地元の人間に聞いた方が早い。

屋根の上を走って行くという選択肢もあるものの、下見もしていないのに屋根の上を全力で走るのは難しいし、滑って怪我なぞしたら笑えない。


「こっちだ!」

裏ギルドの男が走り出したのを追う。


ズガーン!!

更に別の場所で爆発の音がした。


げげ。

一体、幾つ仕掛けたんだよ??


パレード沿いとか上水道沿いにもそれなりの数の魔具が仕掛けてあったのを解除したってのに。


『清早、今聞こえた爆発の所も、焔が広がないように何とか出来るか?』

走りながら清早に尋ねる。


『大丈夫!

元々、今回はウィルが頑張っていたから、知り合いに集まって貰っていたんだ!』

おお~。

凄いじゃん、清早!

お前がそんなに顔が広いとは知らなかった。


・・・というか、加護を与えた精霊ではないフリーな精霊が、前もって待機しているなんてことをするなんて想像もしてなかったし。


取り敢えず、これ以上の爆発が無いことを期待しよう。

ガルカ王国だって、無尽蔵に金がある訳じゃあ無いはずだし。



◆◆◆◆



最初に聞こえた下町の爆発現場の消火に協力し、清早が『知り合い』に頼んで抑えて貰っていた下町の2つめの火事現場に行ったら、既にそちらには軍の魔法騎士が来て消火していた。


「おや、ファルータに何か用があったのか?

偶然だな、ウィル」

慌てて駆け込んできた俺に、ダレンが声を掛けてきた。


げ。

面倒な。

それなりに大きなファルータの街に来ているあれだけの軍属の中で、ダレンに鉢合わせになるとは。

ついてない。


「タレスの焔を使っている可能性が高いのですが・・・大丈夫でしたか?」

ダレンが周りを見回してから、にやりと笑った。


「そうか、道理で妙に都合良く風が焔が広がるのを抑えてくれていたと思ったら、お前は確か精霊から加護を貰っていたな。

・・・と言うことは、裏ギルドからでも依頼を請けたのか?」


ちっ。

これだから頭が切れる人間は嫌いなんだよ。


それでも裏ギルドからの依頼だと思われた方が、学院長からの依頼と思われるよりはマシか。

「ええ、まあね。

裏ギルドが噂を聞いて危ないと思った、人が集中する場所に仕掛けられた魔具とかを探すのに協力していたのですが・・・。

スラムとかこういった下町まで標的にはなると思っていなかったので裏をかかれました」


ダレンが肩を竦めた。

「それを言うのなら、軍部だってかなりの人員を投入していたんだ。

この規模の街を、祭りなんていう状況で完全に守るのなんて所詮無理なのさ。

だが、幸いにも実際に起きた爆破3件と、街中での魔術師による攻撃は特に大きな被害も無く抑えられた。

今回は大成功と言って良いだろう」


おや。

街中で魔術師による攻撃もあったんだ?


これだけタレスの焔に予算を掛けたんだから、人的損害はゼロにするために魔術師による攻撃は無いもんだと思っていたよ。

「魔術師による攻撃なんて、あったんですか?」


「ああ。こちらの爆発があって俺達が向かい始めた直後ぐらいに、数カ所から一斉に公爵と奥方を狙ったらしい。

保護結界が守っている間に無事敵の魔術師達は取り押さえられたそうだ」

腰に付けている通信機を指しながらダレンが答えた。


成る程。

街中で爆発や火事を起こして対応に軍部が回った所を狙ったのか。


とは言っても、例え街中が火に包まれたって軍部が公爵を完全に放置して消火には回るとは思えないが。


まあ、これだけ大多数の人員を投入するというのはガルカ王国も想定していなかったんだろうな。

・・・と言うか、ガルカ王国としては自分達の企みが漏れているとは思っていなかっただろうし。


「まあ、ちょっとした火事なんて珍しくも無いし、派手な魔術を使ってくれたお陰で見物客は攻撃も祭りの見世物の1つだと思った人間が多かったようだからな。

良い感じに祭りが続いているらしいから、そのまま祭りを楽しんできたらどうだ?」

笑いながらダレンが提案してきた。


いや、流石にこの状況で『終わり~!』と言って遊びに行くのは無理だよ。

今更シェイラを迎えに行っても、発掘現場で楽しんでいるだろうシェイラを引き剥がして連れてくる頃にはお祭りも終わっているだろうし。


あ~あ。

次の王都での魔術院関連の祭りがある時に、祭りの手伝いに駆り出されていなかったらシェイラを誘おうかな?


もうそろそろのはずだが。

何も聞いていないと言うことは、俺は魔術院側の人員として参加はしなくて良い可能性が高い。


帰ったらアレクにでも確認してみよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る