第153話 星暦553年 橙の月15日 これも後始末?
「軍部がこれ程のお得意様になるとは思わなかったね~」
工房のソファに座ってお茶を飲みながらシャルロがにこやかに口にした。
そう。
先月のフォラスタ文明の遺跡から発掘(?)した熱と光を充填できる魔具を魔術院に登録し、シェフィート商会から幾つかの得意先や取引先に売り込んだところ・・・軍部が大量購入に踏み切ってくれたのだ。
とは言え。
現存の暖房用の燃料や照明用の魔石を買い取る契約があるので、それらの契約が切れるのに伴って段階的に俺たちの魔具で入れ替えていくという計画らしいが。
天候にも左右されるので、段階的導入を待っている間に日照時間とかの記録を取って効率的に使える場所に設置していく予定らしい。
意外なことに、中堅ぐらいの商会からも引き合いがあった。
街から街へと移動している馬車の天井に日光を受ける魔具を設置しておけば、魔石を各街で補充する必要が無いというのが気に入ったらしい。
大きな街全てに支店があるような大手の商会では各支店で魔石をストックしておけるので特に問題は無いのだが、支店が少ない商会にとっては行き先の街で魔石を補充出来ないと死活問題になりかねない。
なので値上がりしていても買い取れるように資金を多めに準備しておくか、魔石を余分に持っておくかしておかなければならないため、そこら辺の補充の悩みを解決してくれるかもしれないと言うことで俺たちの魔具を購入したところがいくつかあった。
これからの売上のためにも、上手くいってくれることを期待したいね~。
魔術院に出すための資料やテストが終わり、取引に関してもアレクとシェフィート商会が大体やってくれたので、俺たちは久しぶりに暇になっていた。
「さて。
次はどうする?
何かアイディアはあるかい?」
アレクがパディン夫人のクッキーを缶から取り出しながら聞いてきた。
ううむ。
特には無いんだよねぇ。
最近の暇な時間はシェイラに会いに行くのに費やしていたから、あまり新しい魔具の開発の事なんて考えてなかったし。
「あ、ちょっとケレナの実家とかに行くから暫く僕は来月の頭ぐらいまで留守~。
どうも、王太子殿下の婚約者が決まりそうなんだよねぇ。
婚約期間もあまり長くするつもりは無いって話だから、僕たちの結婚についても具体的に相談しに来いって言われたの」
「うへぇ~。
シャルロが結婚??
そうしたら、俺たちのビジネスも終わりになるのか?」
思わず、『おめでとう』と言う前に自分に関係する部分の本音が溢れてしまった。
「あ、失礼。
結婚予定、おめでとう」
アレクが笑いながらシャルロにクッキーの缶を差し出した。
「おめでとう。
以前、結婚しても私達とのビジネスを続けると言っていたが、それに変更はないのかい?」
おや?
そんな話をしていたのか?
俺は聞いてないと思うが。
「勿論。今更兄上や父上やケレナの親族のために働くつもりは無いよ。
幾ら侯爵家の息子とは言ったって、爵位を引き継ぐ予定もない3男には今の仕事は悪くないと思ってるし、ケレナも面白そうって賛成してくれてるしね。
流石にここに皆と同居し続ける訳にはいかないから、この村の他の屋敷を借りるか買うか、土地を入手して建てることになるとは思うけど」
缶ごとクッキーを受け取りながら、シャルロが笑って答えた。
そうか。
これからも俺たちの関係が続くんなら、良かった。
やっぱりシャルロの思いがけない着想って開発には重要だと思うんだよねぇ。
それに仕事で繋がっていなければ、三男とは言え侯爵家の人間とそうそう気楽に会えないし。
「それなら私達は、」
『カラン、カラン、カラン』
通信機の着信の音がアレクの言葉を遮った。
そう言えば、パディン夫人が出かけているから直接こちらに掛るようにしてあったんだっけ。
一番通信機の傍に居た俺が立ち上がって通信を受けに行った。
『ウィル。ちょっと時間ができ次第、魔術学院の方に会いに来てくれないかね?』
通信機から学院長の声が聞こえてきた。
おやぁ?
お珍しい。
魔術学院の温泉に問題が起きたというので無ければ、何かもっと深刻な問題が起きた可能性が高そうだな。
しかも、急ぎの。
急がないならどうせ2日に1回は魔術学院の温泉に入りに行っているのだからその際に声を掛ければ良いだけなのに、今すぐ来いっていうのは幸先が悪い。
「あ~。
何か、頼まれごとをされそうな気がするなぁ。
開発に手を出せなくなる可能性が高そうだから、この際来月まで、アレクも何か個人的な事を暫くやってると言うことでどうだ?」
アレクが頷いた。
「そうだな。
実家の方の手伝いなり、こちらの資料の整理なり、適当にやっているよ」
はぁぁ。
王太子の結婚の噂を聞いた途端に学院長からの呼び出しかぁ。
何か、嫌な予感がするんだが、気のせいだと期待したい・・・。
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