第91話 星暦553年 青の月3日〜5日 お祭り騒ぎ(2)
「そうとたら・・・俺たちの学年の半分ぐらいが手伝ってくれると想定して9人、後は去年と一昨昨年の卒業生の寮長だった人間にも一応声を掛けてみるか。
思ったよりも沢山の人間が参加したいと言ってきたらやることを増やしても良いし。
じゃあ、俺はジェスラン氏に軍部との話し合いを頼んだ後に、他の連中にも声を掛けてくるわ。
その間にお前さんたちは出し物に使う術を確認しておいてくれ」
クッキーを食べ尽くしたアンディが立ち上がった。
「ありがとうな、アンディ。
シャルロとアレクも。
これは言うなれば俺の我が儘みたいなものだったのに、いつの間にか話が大きくなって皆に手伝って貰うことになってすまない」
にやりと笑いながらアンディが手を横に振った。
「シャルロとアレクは知らんが、俺にとっては楽しいお祭り騒ぎで俺の存在感をアピール出来るんだから、こちらがお前に礼を言いたいぐらいだ。気にするな」
「存在感のアピールって、アンディそんなに目立ちたがりだったっけ?」
シャルロが首をかしげながら尋ねた。
「言われたことしかしない、いつまでも受け身な新人なんて使えない人間としていつまで経っても下っ端扱いなのさ。
とは言っても勝手に相談も報告もせずに暴走する新人なんざ、弊害が大きすぎてそのうちクビにしろと言われるのがオチだから、そこんところは気をつけてバランスを取る必要があるけどな。
だから、魔術院の方針に沿って存在感を自分からアピール出来るイベントって言うのは、俺の有能さを上に知らしめる良い機会な訳。
別に、絶対にいつの日か魔術院の幹部になってやる!とか思っている訳では無いけど、そうなりたいとある日思い立ってもそれが不可能では無い様に『出来る男』としての自分を売り出しておくのは重要だぜ?」
ほぇぇぇ。
ただのお祭り好き男では無かったんだな、アンディ。
「ふふふ。
私達も協力するから、上手く皆を使ってお祭りを成功させてくれ。
魔術院の上層部にコネがあったらいつの日か役に立つかも知れないしね」
アレクが笑いながらコメントする。
「そうだね~。
ウィルも、別に僕たちに迷惑掛けたなんて思わなくて良いんだよ?
色々僕もアレクも助けて貰ってるけど、特に貸し借りなんて考えてないじゃない。
常に一方的に借りが生じるような関係は良くないけど、そうじゃなければあまり気にしないで楽しくやっていけば良いんだよ」
シャルロが俺に向かって言った。
そっか。
助けられると気になるが、助ける分には特に気にならなかったから忘れていたが、確かに俺が一方的にいつも迷惑を掛けている訳じゃあ無いもんな。
よし、気にしないでいこう。
◆◆◆◆
何かの形を複製する術というのは魔術院で習った基本的な術の1つだ。
教わったのは主に魔道具の元になるベースの複製や、ちょっとした実験用の人形を作る為の用途としてだったが、素材も大きさも指定できるので霧を素材として作ることは難しくないはず。
と言うことで庭で実験をしてみたのだが・・・。
「薄いねぇ・・・」
出来上がった雲モドキな俺のコピーを見て、シャルロがつぶやいた。
雲というのは遠くからだとはっきりと白い物体のように見えるが、近くからだと霧の様に見えるらしい。
そして霧というのは濃淡があるのは見えるとしても、人の顔が分かるほどにははっきりとはしていない。
「濃度を上げてみるか」
術の詳細を変えて、もう一度やってみる。
ふんだんにこれでもかと濃度をあげた霧の像は・・・水になって崩れてしまった。
「おっと。
そうか、霧ってあまり濃度を上げると水の塊になっちゃうのか」
「冷やしてはどうだ?」
アレクが提案しながら、術をもう一度唱える。
ぶふっ。
雪像が現れたのに、俺とシャルロが吹き出した。
「う~ん、雪像でも良いけど、邪魔だよねぇ。
しかもこれから暖かくなるから直ぐに溶けちゃって、周りを水浸しにしちゃいそうだし」
ううむ。
どうすっかなぁ・・・。
◆◆◆
「ある程度は工夫してみたんだけど、どうしても近くで見るとぼんやりした印象になるんだよね。
だからもう作ったら直ぐに上空に上げて、客引き用の風船みたいなものにしようと思うんだけど、どうかな?」
シャルロが雲で出来た俺モドキを上空へ浮かせながら、見に来たアンディと協力してくれることになった元同期で今日時間があった数人に聞いた。
雲に関しては、術で条件付けとして『水にならない』を『高濃度』と付け合わせ、更に表面の光反射を高める術を別に掛けることで近くでも少しははっきり目に見えやすいようになった。
軽く浮力を付与して
また、下手にそのまま術を解くと高濃度な水蒸気なだけに下にべしゃっと水が落ちてくることもあるので(君の尊い犠牲は忘れないよ、アレク・・・)、20ミルしたら雨にならない濃度で空気中に拡散するようにも条件付けもした。
後はこの術にどのくらい人気が出るかにもよるが、それなりの数の雲像を造った場合は当日の上空に空気中の水分を取り去る術でも掛けないと雲が出てくるかにわか雨になる可能性があるかも知れないので要観察ということになっている。
「うわぁ、ウィルの雲が空を飛んでるってちょっと不気味な感じ・・・」
カルスが空を見上げながらつぶやいた。
おい。
久しぶりに会ったというのに、不気味とはなんじゃい。
「不気味???
え、お祭りの見世物には向いてない??」
シャルロが慌ててアンディや他に集まった人間に問いかける。
ぶふっとタニーシャが吹き出した。
「違う違う、あの雲が不気味なんじゃなくって、雲みたいなほわほわである意味夢のある存在がウィルの顔をしているのがちょっと印象として合わないってだけよ。
大丈夫、お祭りに来るような子供にはきっと大人気になると思うわ。
確かに近くではちょっと見づらいけど、上空にあるのは何とはなしにウィルっぽく見えるから、子供にとっては楽しさ満載でしょう」
「あれが風に乗って20ミルほど適当に漂うのか?下手にそれを追いかけて子供が迷子にならないように、親には注意しておいた方が良いな」
アンディがメモを取りながらつぶやいた。
確かにね。
ついでに、あまりお祭りの場所からも離れないようにした方がいいかな・・・。
でも、20ミルだったらそんなに遠くまでは行かないかな?
少しそれに関しても何度か実験して確認しておいた方がいいな。
「まあ、それはともかく。
後で術の詳細は他にも手伝ってくれる皆に伝えるけど、それとは別に何か地上で子供を楽しませる物を提供した方が良いかも知れない」
アレクが声を上げた。
そう、雲を作ったらそれはそれで楽しいかも知れないが、それは上空だけの話。
他にも魔術剣士の剣舞モドキやジェスラン氏の考えている何らかの見世物があるのだから、俺たちの時間に子供が地上で楽しむ物も提供しておかないと帰ってしまうかも知れない。
「もうすぐ暑くなるし、折角暇な魔術師が集まるんだから、氷菓子でも作って売るとか?
じゃなきゃ、小さな噴水機でも作って虹が出来ますよ~って売り出すのも面白いかも?」
カルスがしゅわっと水蒸気を空に向けて吹き出し、虹を作って見せながら提案した。
「噴水機は魔具だろうが、魔術ではなく。
でも、魔術師が大きな虹をあちこちに作っている側で、噴水機を売り出して自分で小さな虹を作れるよ~って売り出すのも悪くないかもな」
アンディがつぶやいた。
「氷菓子もついでに出そうよ。
量を少な目にして、果物とでも一緒に出せばお腹を壊さないでしょう」
シャルロが目を輝かせて提案した。
流石、甘い物には詳しいね~。
確か去年の夏だっけ、自分で作るんだから良いじゃないと氷菓子を大量に食べてお腹を壊していたもんね。
まあ、お祭りと言えば食べ物もあった方が良いよな。
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