第42話

 朝、あおいが目を覚まして食事をとっていると、ドアがノックされた。

「はーい、どなた?」

「……アレックスです。おはようございます、あおい」

「!!」


 あおいは勢いよくドアを開けると、アレックスに言った。

「今日は可愛い婚約者様は一緒じゃないんですか?」

 アレックスはため息をついて、くたびれた様子で微笑んだ。


「今日は、クレイグがメアリーの相手をしてくれています」

「メアリー様って、失礼にもほどがありませんか? わたしのことを、その……」

「ああ、年増と言いましたね。何回か注意しておきました」

 アレックスはそう言うと、あおいの顔を見つめて首をかしげた。


 あおいは目をそらして、両手をもじもじと絡ませながら呟くように言った。

「まあ、私はアレックス様よりもメアリー様よりも年上ですから……」

「あおいはしっかりと自立した素敵な女性ですよ」

 アレックスはあおいの手を取ってにっこりと笑った。


「ところでアレックス様、ご用事はなんですか?」

「久しぶりにあおいとゆっくりお話をしたかったので」

 よくみると、アレックスの目の下にはくまができていた。

 メアリーの相手と、誕生日パーティーの後始末でつかれているのだろう。


「ちょっと中に入りませんか? お茶と薬草クレープを出しますから」

「薬草クレープですか、いいですね。最近疲れがたまっていて……」

 アレックスはあおいの家に入ると、ダイニングの椅子に座った。

「ちょっとまっててくださいね」

 あおいはそう言うと、慌ててお茶とクレープの準備をした。


「……」

 アレックスは机に頬杖をついて、うたた寝をしている。

「あら、アレックス様……疲れていたのね」

 あおいは出来たてのクレープと、熱い紅茶をテーブルの隅に置いた。

 そして、アレックスには毛布を掛けた。


 あおいはアレックスの向かいの席に座ると、アレックスの寝顔を見ていた。

「なんだか私も眠くなっちゃった……」

 あおいはアレックスをみつめているうちにいつの間にか眠ってしまった。


「あおい、風邪を引きますよ」

「あれ? あ、アレックス様、起きたんですか」

「はい。紅茶とクレープをいただきました。あいかわらずおいしかったです」

「え? 時間は……もうお昼!? ずいぶん寝ちゃってたんですね! ごめんなさい!!」

 アレックスは笑いながら、あおいの頭を撫でた。


「ひさしぶりにゆっくりした時間を過ごせました。ありがとう、あおい」

「私、なにもしてませんよ?」

 あおいはそう言って、アレックスを見つめた。


「ところで、今度はメアリーもあおいの家に来たいと言っているのですが、いいですか?」「うーん。……まあ、いいですよ」

 あおいは渋々頷いた。


「よかった。メアリーはこの前のマシュマロが気に入ったらしく、あおいの家に行きたいと言っているんですよ」

「そうなんですか? やっぱり子どもですね」

 あおいはそう言って微笑んだ。


「やっと笑いましたね、あおい」

「え?」

 アレックスは少し真面目な顔で言った。


「あおいはメアリーが来てから、不機嫌な顔が多かったですから」

 あおいは頬を膨らませて抗議した。

「それは……年増って言われたら、返す言葉はないからです!」


「まあ、メアリーがいるのもバカンスの一ヶ月だけですから、もう少し仲良くなっていただけると私は嬉しいのですが」

 アレックスはそう言うと、時計を見て言った。


「それでは、城にもどります。きょうは寝てしまって申し訳ありませんでした」

「いいえ、私こそおもてなしもろくにせず申し訳ありません」

 アレックスはあおいの頬にキスをして言った。


「少しはメアリーに焼き餅を焼いてくれていたのですか? あおい」

「もう! そんなわけないでしょう!?」

 あおいは台所に入って、かごを持ってきた。


「お土産のマシュマロとチョコクレープです」

 アレックスは笑顔でそれを受け取った。

「メアリー様とクレイグ様と一緒におやつにどうぞ」

「ありがとう、あおい」


 アレックスは城に帰っていった。


「アレックス様、疲れてたのにわざわざ来てくれたんだな」

 あおいは頬を撫でて、アレックスの歩いて行った方向を見送っていた。

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