第23話

 あおいが起きると雨が降っていた。

 あおいは今日は店ではなく、図書館に向かうことにした。


「さてと、何か新しいレシピはあるかな?」

 あおいは図書館に着くと早速、錬金術の本を手に取った。

「あ、これは面白いかも!? 早速作ってみよう!!」

 あおいは手帳にメモを取り、家に戻った。


「材料は、このまえの冒険の時に手に入れた素材で足りそうね」

 あおいは冷蔵庫や、棚から必要な薬草や薬を取り出した。

「姿を消せる薬なんて、ちょっとワクワクしちゃう」

 あおいは素材を魔法の釜に入れて、ゆっくりとかき混ぜた。


 しばらくすると、鍋の底の方が光る。

「よし! 出来た! どれどれ……」

 鍋の底に出来ていたのは、ミルクキャラメルだった。

「うん……分かってたよ」

 あおいは一口分のミルクキャラメルを、鍋の底からスプーンで取り出した。


「頂きます」

 あおいがキャラメルをパクリと食べると、手足がすうっと消えていった。あおいは鏡の前に移動した。鏡の中にはあおいの姿は映っていなかった。

「おお! 凄い!」

 あおいが面白がっていると、誰かが玄関のドアをノックした。


「こんにちは、アレックスです。あおい、いますか?」

 あおいはドアを開けた。しかし、アレックスには姿が見えない。

「こんにちは……おや? 誰も居ないのですか? また、あおいは不用心ですね」

 アレックスは家に入ると、差し入れのお礼に持ってきたケーキを台所に置いた。


 アレックスはメモを書いている。あおいはアレックスの顔をまじまじと見た。

「やっぱり綺麗な顔してるなあ……」

「あおい? 居るんですか? 声がしたようですが?」

 アレックスが周囲を見渡した。


 その時、あおいの口の中のキャラメルが溶けきり、あおいの姿が現れた。

「あおい!? いつからそこに居たんですか!?」

 アレックスは驚いて、一歩後ろによろめいた。

「えへへ。実は姿が消えるキャラメルを錬成したんです!」

「そうでしたか。驚きました」


 アレックスはメモを胸にしまった。

「まったく、あおいは悪戯が好きですね」

「アレックス様には言われたく有りません」

 あおいはそう言ってから、姿の消せるミルクキャラメルをアレックスに渡した。


「アレックス様も食べてみますか?」

「そうですね。城を抜け出すときに頂きましょう」

 アレックスはあおいからミルクキャラメルを受け取ると、ポケットにしまった。


「今日は、街のクレープ屋は休みですか?」

「はい。でも、アレックス様が食べたいなら今から作りますよ」

 あおいの言葉にアレックスは首を振った。


「私が持ってきたケーキがありますよ。あおい」

「あ、そうでしたね。美味しそうなチョコレートケーキ」

 あおいは台所に置かれたホールケーキを見つめた。


「それじゃ、コーヒーと紅茶、どちらが良いですか?」

「紅茶を頂けますか?」

「はい。ちょっと待って下さいね」

 あおいは紅茶を入れながらケーキを切り分けた。


「はい、どうぞ」

 ダイニングのテーブルの上に、それぞれのケーキと紅茶を置いた。

「いただきます」

「いただきます」


 二人はチョコレートケーキを食べながら、話をした。

「先ほどの姿が消せるお菓子は、お店には並べない方が良いと思いますよ」

「どうしてですか? アレックス様?」

 あおいの無邪気な質問に、アレックスは困って微笑みながら言った。


「悪用される可能性が高いからです」

「あ、そうですね。泥棒とか、のぞきとか、使えちゃいますね」

 あおいはしょんぼりとした。

「まあ、私は城を抜け出すのに丁度良いものが出来たので、ありがたいと思っています」


 アレックスは、あおいのあたまをポンポンと撫でた。

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