第3話

あおいは怒っていた。

「なによもう! 王宮から出てけとか、王宮に入れとか、勝手ばかり言って!」

誰も居ない部屋の中で叫ぶと、すっきりしたらしく、機嫌は直った。


「それにしても、クレープの種類が二つだけって言うのは少ないわね」

あおいは考えた。

「そうだ! 裏山にクレープの材料になりそうな物があるか探しに行こう!」

そうと決めると、あおいはかごを持って裏山に入っていった。


すこし歩くとせせらぎの音が聞こえる。

「水辺をちょっと歩いてみよう」

小さな川の両脇には草が生えていた。

よく見るとステータスが現れる。

「薬草か。美味しいかな?」


あおいは薬草を摘んでかごに入れた。

その後も歩いて行くと、崖っぷちに桑の実を沢山見つけた。

「やった! 桑の実のジャムが作れる!」

あおいは桑の実を沢山摘んで、やはりかごに入れた。

「豊作! 来て良かった」

そのとき、若い男性の声がした。


「お嬢さん! 気をつけて! スライムが居ますよ!」

「え!?」

振り向くと、そこにはスライムがフルフルと震えていた。

あおいは植物を刈るための鎌しか武器がなかった。


仕方なく、鎌を構えた瞬間、スライムが消えた。

「まったく、不用心ですよ。お嬢さん」

「たすけてくださってありがとうございます。貴方は?」

「私はキール王国の冒険者、ロイドと言います」

「私はあおいといいます。クレープ屋をやっています」

あおいの言葉に、ロイドは、ああ、と頷いた。


「市場で話題になっているようですね」

「そうですか」

あおいは改めて、ロイドの事を見つめた。

ロイドは優しい目をしていて、少しクセの付いた赤毛が印象的だった。

アレックスとは違うが、やはり彼も美形だった。

あおいは自分の顔が赤くなるのを感じた。


「私、もう家に帰ります」

「そうした方が良いですよ。今後は無理しないで下さいね」

「はい、分かりました。今度市場で会ったら、お礼にクレープをプレゼントしますね」

「ありがとう」

ロイドが笑った。

あおいはロイドと別れて、ぼろ屋に戻った。


「さてと。桑の実のジャムと、薬草のソテーを作ろうかな」

あおいは桑の実からジャムを錬成し、クレープにする。

ジャムの残りは冷蔵庫にしまった。

そして、薬草をみじん切りにしてペースト状のソテーを作り味見をした。

「うーん、薬草はほろ苦くて大人の味ね」

あおいは試作したクレープ二つを食べてみた。


「薬草のソテーのクレープ、ベーコンとチーズ入れた方が美味しいかな?」

あおいはそう言って、新しく焼いた薬草のクレープにベーコンとチーズを入れてみた。

「うん! 美味しくなった!」

あおいは新製品のクレープと、今まで通りのクレープ、合計4種類を持って市場に出かけた。

市場は賑わっていた。

「クレープいりませんか? 新製品がありますよー」

「お、あおいじゃないか? 早速出来たのか?」

「ロイドさん!? こんにちは。はい、お礼のクレープです」

ロイドは薬草と桑の実のクレープを受け取ると、一口ずつ食べた。


「美味しい!」

「でしょ!?」

あおいは得意げに微笑んだ。

ロイドはクレープを食べ終えると言った。

「外の世界に冒険に出るときは、冒険者をやとうと良い」

「そうですね」

あおいは素直に頷いた。


「俺は冒険者の館によくいるから、声をかけてくれ」

「ありがとう、ロイドさん」

あおいはクレープを完売させると、ひとりぼろ屋に戻っていった。

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