眼窩に植えられた珊瑚の硬質な表面が使い古しの歯ブラシのように手になじんでうれしかった。ひとりではない。ここでは。たくさんの生き物が死んだ顔でわらっている。

阿瀬みち

死んだ蛾の翅のこぼれる


死んだ蛾のどこか軽い脚のつけ根 脚のつけ根

白っぽく輝く鱗粉がみだらにこぼれている

目のような模様が何かを映すことがないように

僕の目もなにかの代わりになることができないように

蛍光灯の白い灯りが死んだ蛾の周りを照らしている

もう飛ばなくていいよと僕は手で光を遮る

紫外線が僕の細胞を灼くだろう

老いへと近づけていくだろう


翅がちぎれていく

翅がちぎれていく

僕は光を遮ったまま

二度と蛾を飛び立たせない

欠けた翅を揉むと粉が舞い上がって

きらきらと目障りな鮮やかさで広がる

僕はそのことすら許せず蛍光灯の灯りを消す

なにも見えない空間で僕は確かに視られている

死んだ蛾の不確かな視線が僕を捉えて離さない

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