眼窩に植えられた珊瑚の硬質な表面が使い古しの歯ブラシのように手になじんでうれしかった。ひとりではない。ここでは。たくさんの生き物が死んだ顔でわらっている。
阿瀬みち
死んだ蛾の翅のこぼれる
死んだ蛾のどこか軽い脚のつけ根 脚のつけ根
白っぽく輝く鱗粉がみだらにこぼれている
目のような模様が何かを映すことがないように
僕の目もなにかの代わりになることができないように
蛍光灯の白い灯りが死んだ蛾の周りを照らしている
もう飛ばなくていいよと僕は手で光を遮る
紫外線が僕の細胞を灼くだろう
老いへと近づけていくだろう
翅がちぎれていく
翅がちぎれていく
僕は光を遮ったまま
二度と蛾を飛び立たせない
欠けた翅を揉むと粉が舞い上がって
きらきらと目障りな鮮やかさで広がる
僕はそのことすら許せず蛍光灯の灯りを消す
なにも見えない空間で僕は確かに視られている
死んだ蛾の不確かな視線が僕を捉えて離さない
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます