26話 嗚呼懐かしき実家のこと

嗚呼懐かしき実家のこと








「ここがイチローのハウス!だな!!」




「何でそんなにテンション高いんですか」




「『うーん、門が好戦的ね!』」




半ば強引に自分を納得させ、膝で爆睡するキャシディさんや景色を眺めること数十分。


アニーさんの運転によって、愛車は実家までたどり着いた。




今は大木くんも龍宮に来ているし、ひょっとして誰かに荒らされてるかなー・・・なんて考えていたが、それは杞憂だった。


ここを離れたのがまるで昨日のように、実家は相変わらずの姿で俺を出迎えてくれた。


・・・やはり俺の真のホームはここだな、と認識できる。


いやまあ、なんだかんだで高柳運送も住み心地は悪くないんだがな。




「エスコートを頼むぞイチロー!」




「へいへい」




テンションがストップ高なアニーさんを通り過ぎ、門の鍵を開ける。


軽トラは・・・このまま道に放置でいいか、なんかあったらすぐに脱出できるように。


前のよりデカくなったから車庫に入るかどうかわからんしな。


車種としても大きいし、さらに大木くんの改造によって膨らんでるし。




「では・・・『どうぞ、お嬢様方』」




門を開き、いつだったかテレビで見た執事を真似て・・・2人に向って一礼した。


格好のいいスーツでも着てたらまだよかったんだが、いつもの釣り人浪人スタイルだからちょっとな。




「ふふん、最近素晴らしいぞイチロー!」




「『ちょっと照れた顔がカワイイわね!食べちゃいたい!!』」




・・・まあ、2人には何故か好評みたいだからいいけども。




2人が通過したので、門を閉めてしっかり施錠する。


軽トラの荷台に積まれていた好戦的な品の数々は、先に庭に運んでおいた。


例のクソデカライフルとか、各種弾薬とかな。


・・・そういえばアニーさんのライフルはどこから調達してきたんだろう。


高柳運送でも見たことないぞ、あんなの。




「・・・おお!今晩のサラダには困らなさそうだ!」




花壇には俺の植えた・・・といっても世話はほぼ大木くんだが・・・サニーレタスが青々と茂っている。


その横には、いつの間にかジャガイモらしき芽がだいぶ大きく育っている。




ちなみに、俺が適当にこさえた全自動水やり機は大木くんによってかなり大掛かりなものに改良されていた。


仕組み自体は変わらないようだが、タンクが超デカいモノに置き換えられている。


うーむ、大木くんにはマジで足を向けて眠れないなあ。


今も定期的に来てくれているようで、雑草も伸びていない。




「・・・おっと」




その片隅に、こんもりとした土饅頭。


ささやかな墓石の横に、かわいらしく花が咲いていた。


雑草じゃないな・・・ひょっとして大木くんが植えてくれたのだろうか。




「ちょっと、すいません」




2人に断ってそこまで歩く。


・・・ここにサクラのおかあちゃんを埋めたのが、遠い昔のようだ。


『サクラのおかあちゃん』と、我ながらヘタクソな字で書かれたその前にしゃがみ込む。




「―――ただいま、おかあちゃん。娘は毎日毎日・・・超、元気にしてるぞ」




手を合わせる。


名前を知らないのが難点だなあ、夢で会えた時に聞いとけば・・・ワンワンしか言ってなかったな。


さすがに夢でも犬語は無理か。




「友達もいっぱいできてなあ・・・今なんか馬もいるんだぜ、馬。かわいそうな子供たちもいるんだけどな、サクラのお陰ですっかり元気になったよ」




俺が見た時は既に死んでいたが、それでもあの状態を見ればどれほど大変だったかわかる。




「それは全部、おかあちゃんのお陰だよ・・・立派な母親だなあ」




俺も、できるだろうか。


ああまで立派に、誰かを守ることが。


自分の、命すら捨てて。




「・・・ま、サクラはあと20年は元気で生きるだろうからな!可哀そうだが親子の再会はそれまで待っててくれよ!」




そう言い、もう一度しっかりと手を合わせた。


・・・アレが本当の光景だったんなら、そっちにゃ他の子供たちもいただろう?


家族みんなで、ゆっくり待っててくれよな。


こっちではうんと俺たちが幸せにするからさ。




短い黙祷を終えて振り返ると、アニーさんたちがそれぞれ手を握り合わせて瞑目していた。


おや、俺に合わせてくれたのかな。




「・・・これが、イチローの言っていたサクラの母の墓か」




そういえば前にそんなことを言ったような気がするな。




「ええ、命懸けで娘を守り抜いた・・・最高の母親が眠ってます」




「ふふ、私もいつかそんな母になりたいものだなあ?」




・・・何故俺を見つめるのですか、何故。




「『サクラちゃんも幸運よね。最高の母親に守られて、最高の父親に引き取られたんだから・・・』ンフ、イチロー、イイパパ」




「よせやい、前半はまるでわかんないけど後半は照れるぜ」




ちょいとしめっぽい雰囲気になっちゃったな。




いつまでもこうしてても始まらない、家に入ろう。


キャシディさんは怪我人だ、早く休んでもらわなきゃ。




「じゃあ家に入りましょっか」




「私もキャシディのように抱えてもらおうかな?」




「サーカスの曲芸みたいになるんでNGです、最悪死にます。ベランダから入るんですから」




墓に軽く手を振り、隠してある脚立の方へ向かった。


ええと、確か倉庫の裏だったよな。




―――どこからか、遠吠えが聞こえた気がした。






・・☆・・






「とりあえず風呂沸かしますかね~、適当に寛いでてください」




ベランダ経由で家に入り、1階の居間に下りた。


一般ゾンビ対策で窓という窓を塞いでいるので真っ暗だ。


庭の発電機はしっかり起動させておいたので、すぐにランプを点けた。




「ワオ!映画イッパイ!ステキ!!」




キャシディさんは、居間の本棚に詰め込まれたDVDを見て目を輝かせている。




「・・・どれもまあ、随分と好戦的なモノばかりだな。もっとこう、しっとりとしたラブロマンスとかはないのか」




「ないでーす」




俺に何を期待しているのか。


高柳運送に置いてるのもアクションばっかりでしょ。


でも洋画は最後がキスで終わるのも多いから実質ラブロマンスでは・・・?


あ、これ璃子ちゃんに否定されたんだった。




「たぶん置いてあるプレーヤーは全部動くんで、よかったら暇つぶしに好きなの見てくださいね~」




それだけを言って、風呂場に向かう。


・・・そういえば床に埃がないな、大木くんが掃除してくれたんかな。


たぶん寝泊まりもしてると思うけど、全然そんな気配もない。


ホント、できた男だよ。


俺も見習わないとなあ。




さて、風呂風呂。


確か予備の湯沸かし棒があったハズだよな~・・・






「戻りました~、大体2時間くらい・・・で・・・」




風呂の準備をして戻ってきたら、居間のソファーで2人が寝息を立てていた。


アニーさんもキャシディさんも、あどけない顔で眠っている。




・・・そうだよなあ、今日は大変だったもんなあ。


ゆっくり寝かせてあげよう。


キャシディさんなんか大怪我したんだし。


アニーさんも、友愛と水産センターを高速で往復したんだもんなあ。


・・・半分は森山くんだが。




俺は、2階からデラックスな布団を持って降りることにした。


最後に使ってからしっかり干したので臭くはないハズだ。


少しでもリラックスしてもらわんとな、現状実家にある中でアレが一番高級だし。






・・☆・・






ピピピ、と電子音がする。




「むう・・・う?」




時計のアラーム・・・?


ああ、そうだそうだ、風呂の沸く時間だ。




アニーさんたちに布団をかけてあげた後、寝顔を見るのもアレなので2階に戻って漫画を読んでいた。


そしたら俺も眠くなったので、昼寝をすることにしたんだった。




「ふあぁあ・・・実家は偉大だな、超よく寝・・・た・・・?」




あれ、なんで1階の天井が見えるの?


俺は確かに2階のベッドで寝たはずだ。


それに、この布団・・・2人にかけてあげたやつじゃないか。




「・・・うん、なんでかな」




体が動かない。


何故なら、俺はアニーさんたちに挟まれて寝ているからだ。


居間の床にマットレスを敷いて、天井を見上げる形で。




「んふ・・・」「ンゥ・・・」




どうしよう、両隣から超いい匂いがする。


そして両腕をがっちり掴まれている。




・・・俺が斬新な夢遊病を発病したのでなければ、たぶんアニーさんが眠った俺を下まで運んだんだろう。


何故???


俺にはこの人が本当に何一つわからない。




だが・・・こうしてずっと寝かせておいてあげたいが、このままだと風呂が地獄の窯みたいになってしまう。


ここは心を鬼にして手を引き剥がそう。


まずはアニーさんの方からだ。


んぐぐ、寝ているのになんて力だ。




「おい、引き抜くんじゃない、むしろ突っ込め。楽園は意外と近所にあるんだぞ」




「起きてるじゃないですかーやだー!」




目を開けたアニーさんは嬉しそうに笑うと、やっと俺の手を解放してくれた。


次はキャシディさんだ・・・腕怪我してんのに元気だなあオイ。




「んぐぐぐぐ・・・」




「『なあにぃ?もう、甘えんぼさんねぇ・・・ンフフ』」




「ウワーッ!違う!『挨拶』は求めてない!求めてないッ!!」




寝ぼけまなこで頬にキスの雨を降らされつつ、なんとか腕を引き抜いた。


・・・しかしこれだけ騒いでも起きないな、キャシディさん。




「腕の再縫合に少しだけ強い鎮痛剤を投与したからな、気が抜けた分効きもいいんだろう・・・そのまま寝かせておいてやろうか」




「あー、なるほど」




俺達の見ている前で、キャシディさんは布団を左右に巻き込んで伊達巻のような形状にした後再び眠り続けた。


なんだかかわいらしい。




「あー・・・フフ、寝袋生活が長いとこうなるんだ。私も、チエコさんの家に来たばかりの頃はずっとこうして寝ていたな」




はー、そういうもんか。


あ、じゃあ後藤倫パイセンがたまにこの状態で寝てるのもそういうことか!


あの人、世界がこうなる前からキャンプ好きだもんな。


雪山に泊まって、冬眠してないヒグマと殴り合ったこともあるって言ってたし。


さすがに嘘だと思うけども。




「じゃあ、まずはアニーさんが風呂に入ってくださいよ。もういい時間なんで、俺は飯の準備しときますから」




「おやおや・・・キミは本当によくできた男だな。私の好感度はもうウォール街の大人気銘柄並だがね?これ以上好かせていったい何を企んでいるのやら・・・フフフ」




アニーさんは何か恐ろしいことを呟いている。


うーむ・・・好かれる原因isどこ?




「あ、これよかったらどうぞ。妹の服ですけど適当に選んでください」




ともかく、着替えがなくては始まらない。


布団をかける時に探しておいた、妹の服を詰めたカゴを差し出す。


妹よ・・・スマンが借りるぞ、生きて帰ってきたら土下座するから許してくれ。




「ほう、妹がいたとは知らなかった・・・どれどれ・・・フムン」




アニーさんはしゃがみ込み、服の山を掘り返している。




「・・・イチロー、すまないが無理だ」




「あれ?なんか気に入りませんでしたか」




そう聞くと、アニーさんは笑いながらシャツを体に当てた。


どう見てもサイズが合っていない。


その、胸が。




「妹さんはスレンダーで羨ましいよ」




「・・・お古ですけど、オレのシャツでよければ」




・・・そういえば妹は背は高いけど胸は・・・だった。


じゃあ他の家族の服を・・・ううむ。


親父は小柄だからなあ。


オフクロも似たようなモンだし、俺の服しかもう残ってない。


嫌かもしれんが我慢してもらおう。




「なんだあるじゃないかいいモノが!さあ!早く持ってきたまえ!」




・・・超嬉しそう。


まあいいけどさ。




「はーい」




2階に行ってくるかあ。


できるだけ綺麗なのを選んで来よう。


〇ニクロと〇―クマンばっかりだけども。


・・・オシャレじゃないけど、まあ頑丈だからいいだろう。






・・☆・・






「・・・変わりは、ない・・・か?」




塀の影で独り言。


見える風景には、ゾンビや人間の姿はない。




あれからアニーさんに服を渡し、飯の準備を・・・と思ったところで備蓄食料がないのに気が付いた。


龍宮に行くときに、保存食は全部運んだのをすっかり忘れていたんだ。




というわけで、食糧倉庫(自称)の公民館へと足を伸ばした。


ここいらは前から人気が全然なかったが、それにしたって今は生存者が住んでいる土手が近所にあるのになあ。


住宅地よりも繁華街や店に探索に行っているんだろうか・・・ま、用心はしておこう。




兜割を片手に持ち、足元に気を付けて歩く。




公民館は・・・うん、窓や入り口に変わった様子はない。


保存食の備蓄場所としてこういう所はメジャーだと思うが、灯台下暗しなのかな。




「・・・!」




公民館の裏口へ回ろうとして、気配に気付いた。


・・・いるな、何か。




壁に沿ってゆっくり進み、手鏡で確認。


思った通り、ボロボロのスーツを着たサラリーマンっぽい人影がいる。


・・・うお、背中が抉れてるし両腕がない。


間違いないな、ゾンビだ。




見た所コイツしかいないが、声を上げられると援軍が来る可能性もある。


一気にカタを付けるか。




「っふ!」




壁から跳び出し、ゾンビの方向へ地面を蹴る。


さすがに気付いたのか、ゾンビがこちらを振り向く動作。


狙いは・・・首ィ!!




「―――ァッ」




突進の勢いを乗せた兜割が、横薙ぎの軌道でゾンビの首にめり込んだ。




「うぉおッ!?」




だが、俺は忘れていた。


詩谷のゾンビはよわよわゾンビだということを。


黒ゾンビやそれ以上をぶん殴っていたから、完全に力加減を間違えた!




兜割はゾンビの首の骨をアッサリ砕き・・・その首を根元から捥ぎ取った。


取れた首が、公民館の壁にぶつかってべしゃりと砕けた。




ゾンビの胴体が倒れ込む。


残心しつつ周囲を確認するが、おかわりはないようだ。




「ありゃりゃ、いかんいかん・・・いや、なんか変だな?」




いくら黒ゾンビを殺せるくらいの力で殴ったといっても、さすがに首が捥げるのはおかしい。


ゾンビの死体?を少し調べてみる。




「・・・あー、なるほど『先客』か」




ゾンビの体に、いくつか真新しい傷がある。


胴体の分は死んで?から付けられたらしいな、シャツだけ破れて血は出ていない。


両腕の付け根も・・・うん、切り口が鋭利過ぎる。


食いちぎられたんじゃなくて、鉈か何かで斬られたっぽい。


そして首だが・・・




「頭の方は鈍器・・・か?んで首元は鉈かな?」




つまるところ、俺が出くわすまでにこのゾンビは誰かにボコボコにされていたらしい。


首なんか骨で繋がってるような状態だったんだな。




とすると、おかしい。




この傷はゾンビを倒そうとして付いたような感じじゃない。


無力化するなら頭を潰すか首を切ればいい。


なのに、無意味な胴体部への痕がかなり多い。


心臓狙いならわかるが・・・腹部に集中している。




これはどちらかと言うと・・・




「スポーツハンティングって感じか」




面白半分に武器を振るって、遊んでいたような印象を受ける。


傷の種類からしても、2~3人で囲ってやったような感じだ。


ナイフと、鉈と、それから鈍器だな。




―――さっき手を合わせた、サクラのおかあちゃんを思い出した。




彼女がそうされたように、ゾンビを遊び感覚でボコす連中が出てきたってことか。


別にゾンビに対して博愛精神に目覚めたわけじゃないので、それについては思う所はない。


思う所はないが・・・




「・・・ゾンビじゃ満足できなくって、ターゲットが人間に移らないといいんだけどな」




それだけが気がかりだ。


できれば、自分よりも明らかに強い連中に喧嘩を売って殺されて欲しい所だが、ああいう手合いは絶対に弱い相手しか狙わんもんなあ・・・




「詩谷も物騒になったもんだな・・・」




少しだけ故郷の行く末を憂いつつ、気を取り直して公民館へと侵入することにした。




うどんの乾麺がまだ大量にあったはずだから、ざるうどんにでも・・・あ、いや。


ここは一つ『アレ』にしようか。


久しぶりに食べたいし。






・・☆・・






目当ての乾燥うどんを持ち帰った俺は、早速調理にかかることにした。


アニーさんはまだお風呂だろう、楽しそうな鼻歌が聞こえる。




まずは乾麺を大鍋で茹でる。


5人前くらいでいいかな?今日は昼食ってないし・・・運動(意味深)もしたからな。




ちょいと固めにゆで上がったうどんをザルに開ける。


それをシンクに置いておき、フライパンを簡易コンロに乗せる。




オリーブオイルを入れて熱し、乾燥ニンニクを親の仇の如く投入。


パチパチと音がしたところで、うどんと一緒に鍋にぶち込んで柔らかくしたビーフジャーキーを細かくちぎってそこへ入れる。


あ~、この匂いたまんねえ・・・




「うーむ、いい匂いだ。何から何まですまんな、イチロー」




おっと、アニーさんが脱衣所から出てきた。


・・・俺のシャツでも胸がパツパツだあ・・・大陸サイズってすごいや。




「いえいえ、俺も食うんでこれくらい気にしないで」




オイルに味が沁み込んだところで、茹でておいたうどんをそこへぶち込み・・・強火で和えながら炒める!


パスタだとわからんが、俺はここでちょっと焦がすくらいが好きなんだ。




「イーニオイ!」




どうやらキャシディさんも起きたようだ。


元気そうで何より・・・っと。




うどんが軽く炒まったら大皿に移し、形を適当に整えて胡椒を振る。


そして、庭から取れたサニーレタスを千切ってオリーブオイルに浸したモノを目いっぱい振りかける。




「完成!なんちゃってぺペロンうどん田中野式!!」




金がない大学時代によく食ったもんだ。


パスタの方も好きだが、なんかこうすると焼うどんアトモスフィアがしておいしい・・・気がする!!




「ほう・・・パスタじゃないな、こんなウドンもあるのか」




「簡単な男の料理ですが、サニーレタスくんがいるので見た目はオシャレです」




アニーさんと話しながら居間へ戻ると、キャシディさんが布団を綺麗に畳んでテーブルの前で待っていた。


・・・正座してる!そんなに腹減ってたのか。




「ソレ!イチローノ、オテセー?」




お手製、かな?




「イエスイエス、ベリーベリープアーフード、ソーリー」




「トンデモナイ!!!!」




キャシディさんはバンザイをしている。


そうすると一気にかわいくなるな、由紀子ちゃんの同級生か?




外人さんだと箸よりフォークかな・・・と思ったが、両方用意しておこう。


アニーさんは箸むっちゃ上手に使うし。




大皿と取り皿を置き、皆で座る。




「ま、とにかく食いましょうや。今日は本当にお疲れ様でした、特にキャシディさん」




「ナンノナンノ!」




何となくそんな気分だったので、フォークでうどんを食う。


・・・うん!ニンニクがよく効いていて美味い!!


正直こっちの方がパスタよりも好きだ、モチモチだし!




「ン、美味い。少し精が付きすぎるが・・・な?」




な?じゃないよ。


無視します。




「オイシ!」




その食いっぷりを見るに、キャシディさんは大丈夫そうだ。


頬っぺたハムスターみたいになってるけど大丈夫ですか?




そんなわけで、久方ぶりに適当な男メシを楽しんだ。


たまには悪くない。


毎日だと超面倒臭いけど。


・・・斑鳩さんには頭が下がるなあ。






「ああそうそう、さっき出かけた時のことなんですが―――」




腹いっぱい飯を食い、コーヒーを飲んでまったりしている時に話を切り出した。


例のボコボコゾンビについてだ。


この近辺に、もしかしたら変なのがうろついてるかもしれんからな。




「フムン、どうせならキッチリ無力化しておいて欲しいモノだな・・・とりあえず明日、ユーアイで報告しておこうか」




「『趣味が悪いわねぇ、ゾンビに思う所はないけど・・・ま、少なくとも仲良くなりたいタイプの人種じゃないわ』」




かなりの修羅場を潜った2人だけに、たいして気にしてもいない様子だ。


まあ、脅威にはなりえないわな。




「あ~、しかし、そう言った手合いは屈折していることが多いからなあ・・・我々のような見目麗しい女性陣は狙われてしまうかもしれんなあ~?」




見目麗しいとか自分で言うんだ・・・間違ってはいないけれども。




「頼りにしているぞ、イチロー・・・む、キスの1つでもしてやろうと思ったが今はやめておこうか」




「マジか・・・それじゃあ毎日ニンニク食おうかな・・・」




脇腹に的確なチョップがめり込んできた。


うどんが!うどんが家出しちゃう!!




「シナバモロトモ!シナバモロトモ!」




「ウワーッ!?ヤメローッ!!」




そんなふうにどんちゃん騒ぎしながら、久々の実家の夜は更けていくのだった。


今日は平和だった・・・毎日こうだといいんだけどなあ。




「さあ、歯を磨いて映画鑑賞、そして皆で一緒に寝ようかイチロー!」




平和じゃなかった!!


誰か!誰か助けて!!!ゾンビより手強い!!!!


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