11話 瀧聞会、完全消滅のこと 後編
瀧聞会、完全消滅のこと 後編
「田中野さん・・・七塚原さんは」
神崎さんが、不安そうに俺を見る。
その注意は、先を行く七塚原先輩に向けられている。
瀧聞会の残りの組員9人がいるのは、この先にある社屋だ。
2階建てで、高柳運送より少し大きい。
さっき尋問した男の話では、ソエジマを始め残った幹部連中は2階の社長室を根城にしているとのことだ。
「神崎さん、心配しないでください。ただマジギレしてるだけですから、先輩」
『みらいの家』と最初にかち合った時の俺もああだったんだろうなあ。
あの時と同じように俺もはらわたが煮えくり返っているが、先輩の怒りが先に限界を突破したので若干冷静になっている。
「あの、それでは我を忘れているのでは・・・」
なるほど、神崎さんの心配はそこか。
普段は温厚な先輩がああまでキレ倒してるの、あんまり見たことがないからってのもあるだろうけど。
「大丈夫ですって。突撃と蹂躙は先輩に任せて、俺達は援護に回ればいいんですから」
抜いた『魂喰』の峰を肩に乗せ、そう言う。
「普通のキレた人間とは違うんですよ、七塚原先輩は」
「そ、そうですか・・・?」
いつぞやの夜を思い出す。
義理の父親に虐待されていた子供を、先輩が助けた夜を。
あの時、俺は後ろで見ているだけだったなあ。
とんでもなかった、マジで。
「ほんと凄いですよ、先輩は。神崎さんも大満足の大殺戮を見れると思いますゆあだだだだ」
「わた、私にそんな趣味はありませんっ!!」
やめて!俺の頬はそんなに伸縮自在じゃないからぁ!?
ゆっくり歩く先輩の背を追うことしばし。
いくらアホでも、部外者が接近してくるのが社屋の中から見えたんだろう。
1階の玄関が開き、散弾銃をらしきものを持った若い男が2人走って出てきた。
「んな、なんだテメエ!どこのモンだ!?」
「それ以上こっちに来んじゃねえっ!!撃たれてぇか!!」
銃を持っているのに、その顔は焦っている。
そりゃそうだ。
身長2メーターオーバーの筋骨隆々の大男が、八尺棒持って歩いてくるんだぞ。
しかも全身をさっきの男の返り血で真っ赤に染めている。
こっちからは見えないけど、たぶん顔も憤怒の形相だろうし。
控えめに言って、とんでもない迫力だ。
「・・・」
そして、先輩は何も返さず。
歩みも緩めない。
「止まれって言ってんのが聞こえね―――」
男が散弾銃を持ち上げる。
それを目にして、神崎さんが素早くライフルで狙う。
その2つの動きよりも、先輩の片手が翻るのが早かった。
一瞬、銀光が閃いた。
「―――え、え、えぇ、あ」
男は散弾銃を気持ち持ち上げたまま、不思議そうに言葉を漏らした。
その胸には、肋骨の隙間を縫うように鉄板が突き刺さっている。
先輩お手製の四方手裏剣だ。
十字手裏剣より分厚く重く、威力が高い。
心臓を、まっすぐ貫いている。
「よ、ヨウタぁ・・・?」
無事な方の男が問いかけるが、胸に手裏剣が埋まった男はもう何も答えず前のめりに転がった。
即死だろう。
「お、おま、お前なにしt」
一瞬倒れる男に視線を落とし、先輩に顔を向けた男。
その目前には、もう先輩が肉薄している。
「ぬううッ!!!!!!!!!!!」
どん、という踏み込みと。
めぎ、という衝突音。
それが同時に聞こえた。
「ぁッ?」
胸の中心に八尺棒の突きが炸裂した男は、目を見開いて後方に吹き飛ぶ。
さっき自分たちが出てきた扉に、背中から衝突して。
「―――残りは、7匹」
先輩が小さくそう呟いた。
男が叩きつけられた分厚いガラスに一瞬でヒビが入り、割れる。
やつは重力を無視したように水平にカッ飛び、置かれているオフィス用品や机を轟音と共になぎ倒してやっと止まった。
すっかり見晴らしの良くなったオフィス内で、地面に足を投げ出して動かない。
その胸は、Tシャツ越しに見てもよくわかるように内側に向けて抉れていた。
隕石が落っこちたクレーターみたいに。
南雲流棒術、奥伝ノ一『
・・・前に見た時よりも格段にキレが上がっている。
打突もブレていない。
いや、前でも十分すぎるくらいの精度だったんだけど。
「・・・」
神崎さんが、信じられないものを見たように目を丸くしている。
口もぽかんと開いている。
正直カワイイ。
「ねっ、大丈夫でしょ」
その肩をポンと叩き、先輩を追う。
「っは、はいぃ・・・!」
後ろから神崎さんの声。
我に返ったらしい。
慌てて走ってくる。
あの状態の先輩は、無敵だ。
キレたことで肉体のリミッターは外れているが、頭の芯はキッチリ冷えて冷静なのだ。
師匠曰く、
『殺意で技を冴えさせ、憤怒でそれを振るう。怒りながらも頭の芯は冷え、冷静ながらも荒れ狂う大嵐と化す』
という、正直よくわからん状態だ。
俺?
無理無理、とてもとても・・・まだ人生経験が足りないのかね。
「なっなんだぁっ!?」「カチコミかあ!?」
流石にこれだけの轟音が響けばアホでも気付く。
荒れたオフィスブロックの奥から声が響き、何人かの足音が聞こえてくる。
どうやらこの社屋、正面入り口から一番奥に階段があるようだ。
急いで駆け下りるような音も聞こえてくる。
「―――突っ込む。わしの後ろに抜けた連中を殺せ」
言うなり、先輩の足に力が籠った。
次の瞬間、そのまま一足で無事な机に跳ぶ。
着地した瞬間、机の天板が歪にへし曲がった。
体重だけじゃない、踏み切りの力が強すぎるんだ。
先輩の巨体は天井近くまで飛び上がった。
「っひ!?」
その先には衝立があり、今まさに刀を握った男が飛び出してきた。
そいつはあまりの状況に思わず動きを止め、跳躍する先輩を見つめる。
「じゃッッ!!!!!」
そしてそのまま、額に八尺棒が直撃。
首を折られながら、後ろに倒れていく。
衝立を巻き込んで。
「っは!?」「えっ!?」
倒れた衝立の向こうで、2人の男が目を丸くしている。
「おおおおっ!!!!!」
先輩は地面に着地するまでの僅かの時間に八尺棒を引き戻し、地に足が着いた瞬間には手元で回転させていた。
その遠心力を乗せ、低く低く地表を薙ぐ。
「っぎ!?」「ぎゃっあ!?」
加速した八尺棒の先端が、右左とほぼ同時にそいつらの足首を砕きながら薙いだ。
あまりの衝撃に皮膚がたわみ、折れた骨先が足を突き破るのが見えた。
男達の顔が絶望と苦痛に歪む中、地表を薙いだ八尺棒がまた先輩の手元に戻る。
そのまま先輩の体が立ち上がりながら横回転。
「っしいいいいあっ!!!!!!!」
空中に浮く形になった男2人。
左側の男に、体ごと回転した勢いでさらに加速した八尺棒が着弾。
肋骨を粉砕しながら、八尺棒が胸のにめり込む。
「ぇぱっ!?」
左側の男が空中で血を吐いた時には、先輩が回転運動を強引に止めた。
そして、すぐさま足を蹴って逆回転の体勢。
「おおおおおおおおおああああっ!!!!!!!!!!!」
轟、と空気が震える。
0から一気に最高速へと加速した八尺棒は、さっきの逆再生めいて翻る。
「っひ、ひぎゅぁ!?」
そして、翻った八尺棒は右側の男に直撃。
同じように肋骨を破壊して胸にめり込んだ。
「ふうぅう・・・!」
血を吐きながら地面に倒れ込み、痙攣する2人の男。
その中央で、体勢を立て直した先輩が八尺棒を構えて残心。
右手を上に、左手を下に。
棒先を正面に向け、次なる敵に備えている。
さっきあれ程の大技を放ったというのに、微塵も隙がない。
南雲流棒術、奥伝ノ四『
タイミングを外した無数の連撃を叩き込む技の、さらに先。
速度と威力を倍加させた連撃を放つっていう馬鹿みたいな難易度の技だ。
・・・凄いとしか言いようがない。
「な、なんという・・・なんという・・・」
神崎さんが感動している。
俺もしてるけど。
とんでもなさすぎる。
なんだあの人。
どこまで強くなるんだよ・・・
っていうか後ろに抜けてくるヤツ、いなくね?
そこらへんの人類には躱せなくね?
と、先輩の技の冴えにたまげている俺だったが。
気付いた。
気配が―――上っ!!
「じゃらぁあっ!!」
だみ声の気迫とともに、俺に向けて振り下ろされた攻撃を後方に跳んで回避。
肩から離れた『魂喰』を跳びながら両手で握り、着地しながら正眼へ。
「神崎さん離れて!先輩の援護を!!」
「はいっ!ご武運を!!」
同じように反応した神崎さんは、オフィスへと飛び込んだ。
俺と先輩のちょうど中間地点で、敵に備えている。
「っち、かわしやがったか」
ジャージ姿の40代くらいの男がぼやく。
俺の頭を斬ろうと、2階から飛び降りてきた奴だ。
着地の瞬間に衝撃を殺している・・・かなり『使う』な。
手に持っているのは、いわゆる長ドスってやつだ。
鍔ナシの刀身は、反りがあまりない。
長さは・・・2尺5寸ってとこか。
柄が刀身に対して異様に長い、何かありそうだ。
「へえ・・・いい女じゃねえかよ。楽しみが増えるねえ」
奴は俺に切っ先を向けながら、神崎さんに好色そうな視線を飛ばす。
「たまらねえケツしてやがる。こんな田舎にめっけもんだ・・・鍛えた女ってのは反応がいいからなァ、組み敷くのが楽しみだ」
「―――できもしねえ妄想でコいてろ、変態が。させると思うかよ、ゴミクズ」
少し踏み出し、切っ先を下段へ。
「っへ、吠えるじゃねえか。なんだい?おめえさんの女かい?」
「だったらどうしてくれるんだ、男付きなら勘弁してくれるってか?」
このスケベオヤジ・・・言動は滅茶苦茶だが、身に纏った殺気は本物だ。
軽口を叩きながらも、隙が少ない。
「違ぇよ、男の前で犯すと、ああいうねえちゃんは反応がよくなる―――」
「っしゃあァっ!!!」
妄言の途中で深く踏み込み、下段から突く。
唸る剣先を、男は素早く後方へ跳んで回避。
・・・反応がいい、油断ならんな。
「なんだよオイ、その年で童貞か?それともただお行儀がいいだけか?」
「少なくともてめえよりかはマシな性癖だと思うぜ、おっさん」
男は長ドスを手元に引き寄せ、峰が額に触れそうな変形の上段に構えた。
最短距離で振り下ろす構えか。
狙いは先の先か、それともブラフか。
こちらは刀を後方に逸らし、脇構え。
「こんなに殺しやがって、また兵隊集めんのが大変じゃねえか。貴重なんだぜ?馬鹿な若手ってのはよ」
「抜かせ。そのまま滅んじまえばいいんだ、てめえらなんか」
そう返すと、男の顔が歪む。
獰猛な笑みの形に。
「ほざくのはてめえだよ、餓鬼。下っ端を転がす腕くらいはあんだろうが・・・俺たち幹部はモノが違うぜ」
「どうだかなあ、組長やらなんやらをそこら辺の戦闘狂に殺された癖によ。看板に偽りアリ、だ。景品表示法違反で通報するぜ」
男の殺気が濃くなった。
どうやら図星突かれて怒ったらしい。
「・・・てめえ、あの連中の知り合いかよ」
「仇だ。いずれぶち殺すんでな、てめえらなんぞに手こずってる暇、ねえんだよ」
息を吸い、鋭く吐く。
わざと、奴に聞かせるように。
呼吸音で、斬り込むタイミングを勘違いさせるために。
「そうかよ・・・決めたぜ、てめえはあのねえちゃんの前でギリ生かしといてやる。最後は恋人に殺させてやるよ、こっちにゃあ色々といい『クスリ』もあんだ。どんなお高くとまった女だって、すーぐ尻尾を―――」
大地を踏み割るように、踏み込む。
「ひひひ!!!!」
それを待っていたように、男が耳障りな声と共にドスを振り下ろす。
俺を怒らせるのが目的の妄言だったとしても、我慢ならん。
コイツには、もう1秒たりとも喋らせたくない。
それに。
そんな手管に乗ったとしても。
今の俺は、コイツに負ける気が微塵もしない。
慢心ではない、確信だ。
長ドスが銀光を纏って、俺の額に迫る。
何が生かしておく、だ。
初手で殺す気じゃねえか。
「おおおっ!!」
脇構えから踏み込みに合わせ、刀を跳ね上げる。
体移動によって生じた力を、そのまま推進力に。
―――ひゅお
怜悧な風鳴りを纏い、『魂喰』が閃く。
さながら地表から飛び立つ、隼のように。
ドスと『魂喰』は、俺達のちょうど正面ですれ違う。
その刹那。
ほんの少しだけ、刀身が触れる。
『魂喰』の刀身は毛筋ほどもブレず。
長ドスは、僅かに軌道をズラした。
「―――っ!?」
ここへきて俺の真の狙いに気付いたのか、男が狼狽する。
するが、もう遅い。
勢いを乗せた刀は、容易に止まらないし―――もう、間に合わない。
「っか、は、あ・・・」
男の長ドスは俺の前髪を数本斬り飛ばし。
『魂喰』は、その首筋を斬り付けながら後方へ抜けた。
血が噴出し、笛のような甲高い音が鳴る。
南雲流剣術、奥伝ノ四『
上段と上段を合わせる本来のものと違い、撃ち下ろしの軌道を切り上げでズラす変形技。
箒とは、流星の古語である。
「んで・・・こ、な・・・くっ、そ、ぁ・・・」
男は何かを呟きながら、ドスを持ったまま前のめりに倒れ込み―――俺の足元を最後のあがきで薙いだ。
だが、俺の足は両方とも空中にある。
何かあると思って跳んでおいた。
見え見えなんだよ、間抜け。
「ちぎ、しょ・・・」
男は地面に倒れ、床に血の模様を描きながら弛緩した。
出血性ショック・・・もう動けないだろう。
「―――てめえなんぞに、神崎さんを触らせるもんかよ。溜まってんなら石とでもヤッてな、糞野郎」
さっきの発言があまりにアレだったので、思わず呟いてしまった。
それも含めて、神崎さんに聞こえてないといいんだが。
男の息の根が止まるのを確認して、残心を解いた。
オフィスに目をやると、俺に背中を向けてライフルを構える神崎さんが見えた。
よかった、聞こえてないみたいだな。
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「(はあああ・・・み、見れない!見たいけど田中野さんの方が見れない!!)」
「(い、今言ったこと、幻聴じゃないわよね・・・ないわよね!!)」
「(駄目よ、駄目よ凜!笑っては駄目!今は戦闘中なんだから・・・!嬉しくても笑っちゃ駄目なんだから・・・!!)」
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・
・
神崎さん、流石の臨戦態勢だな。
張りつめた空気を感じる。
邪魔しないように、話しかけないでおこう。
さて、残りはどうなった・・・?
先輩が5人やって、俺が1人だから・・・残りは4人か。
凄い緊張感を維持している神崎さんの横を通り、オフィスへ足を進める。
横を通った時にやたら驚いていたのは、俺がまた返り血まみれになっていて驚いたんだろうな。
大丈夫ですよ、怪我してないので。
先輩の方に目をやると、今まさに男を1人葬った所だ。
床に倒れた男の胸から、血まみれになった八尺棒を引き抜いている。
・・・貫通したの?八尺棒?
コワ~。
先輩は、2階へ続く階段の手前まで到達している。
転がってる死体はひいふう・・・あれ、全部で7つ!?
俺が長ドスと戦ってる間に2人も殺したのか!?
なんという、早業・・・!
俺が驚愕していると、先輩が一歩引いた。
2階から、誰かが降りてくる。
「なんてこった、困るねまったく」
中肉中背の男がゆっくりと姿を現した。
この暑さだというのに汗もかかず、スーツの上下を着込んでいる。
「まいったね、ウチの若い衆が何かやらかしたかな?相応の償いはさせてもらうから、ここらで手打ちとしないかね?」
50代にも、30代にも見えるようなその男は平坦な口調でそう言った。
「手打ち、か」
先輩がそれに応じる。
いまだにその声に乗った殺意は、微塵も揺るがない。
「おどれらの、命を寄越せ」「そうかい、死にな」
男は、階段の中腹から予備動作なしで跳びつつ腰の後ろに両手を回す。
八尺棒を持った先輩の腕に、縄のような血管が浮かび上がった。
金属音が、2つ。
轟音が、1つ。
「ぁ・・・っがぁ・・・あ」
男が口から血を吐いている。
階段横の壁に、酷く歪な姿勢でめり込んで。
男は空中で後ろ腰にマウントされた1対のナイフを抜き、先輩に投擲しようとした。
したが、ナイフが手を離れるより速く振られた八尺棒が通過しながらその2本を粉々にへし折り、遅れてきた反対側の先端で―――男の体を壁に撥ね飛ばしたのだ。
技も経験も無にする、常識はずれの破壊力。
それを持った先輩が、さらに技を振るうのだ。
生半可な腕自慢が相手になるはずがない。
あの男も悪くない腕だったが・・・俺でも負ける気がしない。
「―――退けい、雑魚が」
先輩はそう吐き捨てると、いまだに痙攣している男の頭を裏拳で殴りつけた。
その一撃に首が可動域を超えて反転し、男は死んだ。
それを一瞥もせず、先輩は階段を登り始めた。
「残り、1匹」
そう呟きながら。
静まり返った2階を歩き、『社長室』と書かれた扉の前で先輩は止まった。
そのまま、少しだけ動きを止め・・・やおら両開きの扉を蹴破った。
開いたその先には、社長用らしき大きな椅子に座った壮年の男。
あいつがソエジマだろう。
恐怖を顔に表したソエジマは、構えていたライフルらしきものを即座に先輩に向けたが―――
「っひ!?ぎゃああっ!?あがああああっ!!!!」
扉を蹴破ると同時に先輩が投擲した手裏剣が右手に命中し、指を切り落としながら腹部に喰らいつく。
ライフルは天井を撃ち、その反動で手から消えた。
「っま、まで!まっでぐれ!!だ、だのむ・・・だのむうぅううう・・・!!!」
鳩尾付近に突き刺さった手裏剣の痛みに脂汗を流し、ソエジマは無事な方の手を先輩に向けた。
「っぎゃあああああああああああああっ!?!?」
命乞いのフリをしながら向けられた拳銃。
そこに、今度は投げられた八尺棒が直撃した。
反動で拳銃は半壊しつつ吹き飛び、引き金を引こうとしていた指は関節を無視して折れ曲がった。
これで、コイツはなにもできない。
「て、てめええ・・・どこのモンだ、ウチに、何の恨みが・・・県外の連中、か?」
最後にそれだけは聞きたいのだろう。
ソエジマは先輩を見据え、しっかりと声を出した。
「恨み、のう」
先輩は部屋に入ると、ゆっくり近付いていく。
「そりゃあ・・・おどれらが、馬を殺したけぇよ。食うでもなく、ただ虫けらみとぉに殺したけぇよ、人ものう」
「う・・・ま・・・?」
ソエジマが、信じられないとばかりに目を見開いた。
そんな理由で部下が全員壊滅したと信じたくないのだろう。
「そ、そんな、そんなことで・・・っひ!?」
先輩が、机を蹴り上げた。
重くて頑丈そうな机は、斜め上に跳ね上がって床に転がる。
「げぅう!?」
そのまま先輩は、ソエジマの胸倉を掴んで持ち上げる。
「―――そんなことよ」
先輩の声は、氷より冷たい。
「っひ、ひひい・・・」
その殺気を正面から浴びたソエジマは、もう声も出ない。
引きつったような息が漏れるばかりだ。
「おどれらは、人よりも馬よりも・・・何よりも価値が、ない。生きとるだけで、迷惑もんじゃ」
先輩は、ソエジマを持ったまま手元に引き寄せ―――
「じゃけえ」
反動を付けて空中に放り投げ―――
「とっとと!!この世から!!いねぇや!!!!」
吠えながら、その腹を思い切り殴りつけた。
「カバチタレがぁああ!!!!!!!!!!!」
ソエジマは水平に吹き飛び、後ろにあった窓ガラスに激突。
それをばりばりと砕きながら空中に射出され、ゆるい放物線を描いて地面に衝突した。
そして一度大きく痙攣した後、二度と動くことはなかった。
「す、すごいです、ね・・・あの、叔父さんは本当に七塚原さんに勝ったんでしょうか・・・」
「でしょうねえ・・・俺の周り、強者ばっかりだぁ・・・」
俺は神崎さんと、その背中を眺めていた。
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