32話 馬鹿は懲りないから馬鹿だということ
馬鹿は懲りないから馬鹿だということ
「すまないねえ、一朗太ちゃん」
「いいんですよお、こっちこそ毎日お世話になってるんで。ゆっくり座っててください」
「コケッ!コココ!」
「おっとと、すまんすまん・・・ホレ、ご飯だぞ~」
青草を餌箱に入れると、我先にと突進して首を突っ込む白い影。
立派なトサカがあるやつと、ないやつ。
そう、ニワトリちゃんだ。
朝の陽射しを浴びながら、俺はニワトリちゃんのお世話に勤しんでいる。
大きな鳥小屋の中にいる俺に、先程申し訳なさそうに声をかけてくれたのは・・・ここの家主である『加賀ミチヨ』さん。
鳥小屋からそう遠くない場所にある縁側に腰かけ、俺の作業を見ている。
「朝起きたら腰をやっちゃうなんて・・・アタシも歳だねえ」
座ったまま痛そうに腰をさすっている。
「ばーちゃん!洗濯物はあーしがやっとくからずっと座ってていいかんね!なんなら寝ててもね!」
「あらあら、ごめんなさいねえ」
「いーのいーの!困った時はオタガイサマだし!」
家の中から山盛りの洗濯物を抱えて朝霞が庭に出てきた。
あの量・・・随分溜まってたんだなあ。
老人の一人暮らし、何かと大変そうだ。
その上ニワトリちゃんの世話まで・・・
うーん、ウチの死んだじいさんばあさんもそうだったけど・・・この年代の人って働き者だよなあ。
気にしなくてもいいのに始終申し訳なさそうなミチヨさんを見ながら、俺は汗を拭った。
さて、なぜ我々がこうしてこの家の手伝いをしているのか。
事の起こりは今朝である。
先日チヌ並びにフグ祭りを開催し、結果として大量の釣果があった。
超美味い刺身を堪能することができたが、いかんせん1家族が食うには多すぎる。
というわけで、いつもいつも卵をおすそ分けしてくれるお隣の家にも持っていくことにしたのだ。
そのお隣の家こそ、ミチヨさんのお宅である。
旦那さんを3年前に亡くし、一人暮らしのミチヨさんは毎日ニワトリちゃんの世話をして畑まで耕している。
そんな働き者のおばあさんにおすそ分けを・・・と、朝から朝霞とたずねてみれば・・・ミチヨさんが縁側に横たわっていたのだ。
俺達は大慌てで介抱したのだが、どうやら起き抜けに足をツルっとやって腰を痛めてしまったらしい。
そんな体でも日課の仕事をしようとするので、2人で必死に止めて・・・というわけだ。
老人は労わらねばならぬ。
いい老人は。
「恥ずかしいねえ・・・洗濯ものも溜まっちゃってて・・・」
「気にしないの!あーし、洗濯大得意だから!」
手際よく庭に物干し台を展開しながら、朝霞が笑う。
・・・マジであの妙な性癖以外は完璧なんだよな、こいつ。
炊事洗濯なんでもござれで、その上体も丈夫で性格もいい。
おかしい、完璧な女性じゃないか・・・ジャンル上は。
いつもの態度がアレすぎて忘れかけているけど。
「朝霞はどこに出しても恥ずかしくない美少女だったのか・・・ええ・・・嘘だろ」
「ちょっとォ!聞こえたかんね!なんでフフクそーなのっ!!」
怒られてしまった。
だってお前普段の態度見てたら・・・なあ?
「コケ」
「おう、これで綺麗になったぞ~。お邪魔しました」
「コッコ」
餌やりと鳥小屋の掃除、終了!
高柳運送のものと違って、年季が入っていてデカい。
掃除のしがいがあったぜ。
「ありがとうねえ、今お茶を・・・」
「あああ!いいですって!無理しないで!」
立ち上がろうとするミチヨさんを制しながら庭に出る。
本末転倒じゃないか・・・
庭の蛇口で手を洗い、手拭いで綺麗にする。
これでさっぱりだ。
「朝霞ぁ、手伝うぞ」
「こっちは気にしないでいいし!にいちゃんも休憩してて~」
見れば、かなりの速さで洗濯物を干している。
うーん、手際がいい。
ねえちゃんの教育のたまものか。
縁側まで行き、ミチヨさんの横に腰かけた。
「お疲れ様、一朗太ちゃん」
「いやいや、別にあれくらい・・・」
むずむずする呼び方だ。
子供のころに、ばあちゃんにそう呼ばれていたのを思い出す。
「話は千恵子ちゃんから聞いてたけど、本当に働き者ねえ。若いのに立派だわあ・・・」
「いやいや・・・そ、そんな・・・」
やめてくれ!そんなに褒めないでくれ!!
背中が痒くなる・・・
っていうか、働き者ってジャンルに入ってるの?俺。
ねえちゃんはどんな感じで俺を紹介していたのやら。
「で、でも元気なニワトリちゃんたちですね。おかげで毎日美味しく卵をいただいてますよ」
「あら嬉しい。手塩にかけてるからねえ・・・自慢の子たちよ」
とにかく元気だったしな。
餌もよく食うし。
愛情が秘訣なのだろうか。
「あなたを初めて見かけた時は、傷がいっぱいで怖そうだったけれど・・・ふふ、朝霞ちゃんがあんなに懐いているんだもの、いい子よねえ?」
「ど、どうでしょう・・・?」
いい子・・・いい子ってなんだ。
大分殴り殺してるし斬り殺してるんだが・・・閻魔様基準では問答無用で地獄に叩き落とされそうではある。
「そういえばキュウリが食べごろなのよ、帰りにいっぱい持って帰りなさいね?私一人じゃとても食べきれないから」
おおう・・・重ね重ね申し訳ないなあ。
この家の反対側にあるデッカイ畑だろうか。
「それはありがたくいただきますけど・・・水やりと草抜きも一緒にやっときますからね」
この島は井戸水が豊富だから、畑の水やりも楽勝だ。
「義理堅いのねえ・・・それじゃ、甘えちゃおうかしら」
「どうぞどうぞ・・・無料の小間使いだと思ってなんなりとお申し付けください」
「あらあら、孫が増えた気分よ」
おどけて頭を下げると、ミチヨさんはふわりと微笑んだ。
・・・死んだばあちゃんを思い出すなあ、ほんと。
こういう人のためならいっくらでもお手伝いすんのにな。
残念ながらこの騒動が起こってから、ほとんど出会ったことがないけど。
「ばーちゃん!干し終わったよ~!取り込むときにまた来てあげるかんね!今日は一日ゆっくりしてないと駄目だし!」
ミチヨさんと世間話をしていると、仕事の済んだ朝霞が俺の横に帰って来た。
「朝霞ちゃんも、ありがとうねえ。台所にお煎餅とお茶があるから、一朗太ちゃんとおあがりなさい」
「わーい!あーし、ばーちゃんとこのお煎餅だいすき!」
言うや否や、朝霞は靴を脱いで台所へ走って行った。
今の言い方、既製品ってことじゃないよな?
「ひょっとしてミチヨさん、お煎餅って手作りなんですか?」
「ふふ、そうよお。古くなったお米で毎年作るの」
・・・ひょえ~、すげえなあ。
モンドのおっちゃんとこもそうだけど、なんでも自分で作れるのって憧れる。
現代っ子な俺たちも見習っていかんとなあ・・・
「お爺さんが亡くなって、私一人だからお米も余ってねえ・・・とっても食べきれないわ」
この家周辺に田んぼはないから、米はどこからか買ってるんだろうな。
それか、親戚が作ってるとか。
「・・・ねえ一朗太ちゃん、少し、聞きたいことがあるんだけどねえ」
台所から聞こえてくる朝霞の鼻歌に気を取られていると、ミチヨさんがおずおずと尋ねてきた。
「はい、なんでしょう?」
「一朗太ちゃん、前まで龍宮にいたんでしょう?あの、孫のことなんだけれどね・・・」
・・・おっと、そうきたか。
そうか、ミチヨさんの家族は向こうにいるのか・・・
「お孫さんですか?」
「そうなの、息子夫婦は県外で働いてるんだけど・・・孫は一人暮らしをしてるのよ。中学生なんだけどね」
ふむ、中学生か。
その年歳で一人暮らし?珍しいな。
・・・壊滅してないといいなあ、学校。
「そうですか、それで・・・どこに通ってらしたんですか?」
「御神楽高校なんだけれど・・・」
ハイ知ってた!すごく知ってた!!
「御神楽ですか!そこならよーく知ってますよ」
「あら本当!?」
ミチヨさんは目を輝かせた。
「さすがに全校生徒の顔や名前までは知りませんけどね。今そこはでっかい避難所になってるんですよ、元からいた生徒はみんな無事だと思いますけど・・・」
璃子ちゃんの同級生とかな。
あそこは全寮制だから、むしろ璃子ちゃんの方がレアケースなはずだ。
「そうなの・・・そうなの、ああ、よかったあ・・・」
ミチヨさんは胸に手を置いて深く溜息をついた。
庭を見つめる目に、少し涙が浮かんでいる。
「っていうか、富士見さんのお宅に間借りしてる人たちがそこから来た自衛官なんですよ。頼めば俺経由で探してもらえると思うんですけど・・・」
「まあ・・・まあ!驚いたのと嬉しいので心臓が止まっちゃいそう!」
やめてくれませんか悪い冗談は!
冗談に聞こえないんだけどォ!!
「あ、あはは・・・それで、お孫さんの名前と年齢を教えてもらいたいんですけど」
ポッケからメモ帳を取り出す。
すぐに書き留めて、家に戻ったら早速通信で聞いてみよう。
毎日の卵の礼だ、これくらい軽い軽い。
「あらやだ、年甲斐もなく取り乱しちゃってごめんなさいね・・・名前は『加賀紀伊子かが・きいこ』で、歳は13歳よ」
かが、きいこ・・・と。
ふうん、聞かない名前だな。
13歳ってことは、璃子ちゃんと同い年か。
璃子ちゃん・・・と。
・・・うーん?
あれ、紀伊子・・・きいこ・・・きい。
まさか・・・?
いやいや待て、早とちりは不味い。
「・・・あのですね、ミチヨさん。お孫さんの顔がわかるものってあったりします?」
「写真なら・・・ああそうだわ!居間の茶箪笥の中に写真があるから、それを見てくれない?」
靴を脱ぎ、居間へ入る。
茶箪笥・・・あ、これか。
両開きのガラス窓の中に、写真がいくつも飾ってある。
これは・・・ちょっと小さすぎる、幼稚園くらいの時か。
これは小学校・・・ランドセルをしょってるな。
あった、これかな?
『準優勝』と書かれた賞状を嬉しそうに持つ、水着姿の少女の写真。
俺の記憶よりも少し若いが、これは間違いない・・・!
璃子ちゃんと仲がいい3人娘の1人だ!!
よっちゃん、えなちゃん、きいちゃんの・・・きいちゃん!!!
「・・・きいちゃんじゃねえか!!」
「ふわっ!?どしたのにいちゃん!?」
お盆を持った朝霞がビックリしているが、それどころじゃない!
「っみ!ミチヨさあん!俺知ってる!この子知ってますよォ!!」
俺は写真を片手に、縁側まで走った。
『おばーちゃん!よがっだ・・・げんぎでよがっだよおおおお・・・!!!』
「あらあら泣かないの、紀伊子。もう中学生なんだから・・・でも、そっちも無事でよかった・・・」
ミチヨさんの持つ通信機から、きいちゃんの泣き声が聞こえてくる。
言葉ではたしなめているが、ミチヨさんも涙を流している。
あれから俺は家までダッシュで帰り、通信機と神崎さんを連れて戻って来た。
いや、受信ならともかく複数の送信先から御神楽を選択するのは覚えていないし。
あと、俺がいきなり御神楽を呼び出しても、スムーズに取り次いでもらえるかわかんないじゃん。
ともかく、戻りながら神崎さんに事情を説明。
神崎さんの取次によって、向こうの職員室経由できいちゃんを呼び出してもらった。
そして、今に至る。
・・・世間って意外と狭いなあ。
「うぐう・・・よがっだねえ、にいじゃあん・・・うぐぐ」
「朝霞、それはタオルじゃなくて俺の服の袖なんだが」
「ひぃん・・・ばーちゃんげんぎぞうでよがっだああ・・・」
「あっ駄目だこれ聞いてねえ」
朝霞は袖に涙となんかの汁を供給している。
・・・後で洗濯だな。
「あの子の祖母でしたか・・・世間は狭いですね、田中野さん」
「今俺もそう思ってた所ですよ。いやあ、めでたい」
神崎さんも嬉しそうだ。
俺も嬉しい。
こんなカスみたいな世界で、いい人が幸せになってくれて。
ここに流れ着いて本当によかった。
大怪我したけど。
「しばらくあのまま話をさせてあげましょう。充電は十分ですし」
「そうですね・・・ホラ朝霞こっちだぞ」
「ひぎゅん・・・はきゅん・・・」
何の鳴き声だよそれは。
神崎さんの提案に従って、俺達は居間でお茶とお煎餅を静かにいただくことになった。
ミチヨさんお手製の煎餅は、懐かしくってどこか優しい味がした。
「神崎さん、ありがとうねえ・・・」
しばらくすると、通話が終わったらしいミチヨさんが通信機を持って居間に来た。
腰・・・大丈夫なんだろうか。
「いえ、お気になさらず。あの・・・積もる話もあるでしょうし、まだお話されていても大丈夫だったのですが」
「ううん、お互い生きてるってわかっただけでも幸せよお・・・一朗太ちゃんに聞いた所だと、向こうの避難所はかなり安全なんでしょう?それなら何の心配もしないでいいから」
ミチヨさんはそう言うが、これからも定期的にこうして話す時間を作ってあげてもいいかな。
いや、作ってあげるべきだ。
卵貰ってるし。
・・・なに?贔屓?
知るか!御神楽も了承してるからいいの!!
・・・でも、俺の名前が表に出ないようには注意しておこう。
友愛の二の舞になりかねないからな・・・どこにでもアホはいるもんだし。
『おじさん!田中野のおじさん!』
「うおっ!?」
びっくりした!まだ通話繋がってたのか!?
・・・ミチヨさんは切り方とか知らないもんな、当然か。
「や、やあ。きいちゃん、お久しぶり」
『お久しぶりです!!あのっ・・・本当に!本当にありがとうございます!!』
通信機越しでも鼻声なのが分かる。
嬉しかったんだろうなあ。
「いやいやいや・・・俺はホラ、ここにたまたま流れ着い・・・たどり着いただけだしね。むしろMVPは神崎お姉さんというか・・・」
あいだ!?
なんで背中を抓るんですか神崎さん!!
俺の背中はそんな車のスタートみたいに捻って大丈夫なパーツではないんですよ!!
『それでも!それでもありがとうございますっ!!・・・あの、無理なお願いだってわかってるんですけど・・・その、これからもお祖母ちゃんを・・・』
「OKOK皆まで言うな。お世話になってるご近所さんだしね!それくらいならおじさんに任せておきなさいよ!」
様子をみたり気にかけて欲しいってことだろうな。
そんなもん、ゾンビやチンピラをボコボコにするより何倍も楽だ。
何よりいい人だしね、問題ない問題ない。
『・・・っ!あり、ありがとう・・・ありがどうございまずぅううううう・・・』
あらら、また泣いちゃった。
まあ、今流してるのは嬉し涙だからいくらでも流せばいいさ。
「きいちゃんたちにはサクラもお世話になったしなあ、気にしないで。おじさん、しばらくは牙島にいるからさあ」
『はいっ・・・!はいぃ・・・!!』
・・・いっそのこと、脱出する時に同行してもらうことも考えるか。
『レッドキャップ』のこともあるし・・・ま、とりあえずミサイルをなんとかしてからの話になるがな。
もちろん、御神楽に空きがあればのことだけど。
俺に感謝し続けるきいちゃんをなだめつつ、再会を約束して通話を切った。
これからも定期的に通信機持ってきてあげよう。
「一朗太ちゃん!本当に、本当にありがとうねえ・・・」
ミチヨさんが、俺の手を握って何度も何度も頭を下げてくれる。
「いや・・・卵のお礼、ですよ。ええ」
その姿が死んだ婆ちゃんにダブって見えて、思わず胸が詰まってしまった。
俺はじいちゃんばあちゃん世代に弱いんだよなあ・・・
でもまあ、よかった。
神崎さんが、とても優しい目で俺を見ていた。
朝霞は相変わらず俺の袖を無茶苦茶にした。
それから、腰の痛みが吹き飛びでもしたかのように元気になったミチヨさん。
彼女は煎餅だけでなく、色々なお茶うけで俺たちをもてなしてくれた。
ちょっとした昼飯くらいの量だった・・・すげえなお米、いろんなモンが作れるんだなあ・・・甘いのから辛いのまで。
その後、神崎さんを加えた俺達は畑仕事の手伝いをこなして新鮮なキュウリとレタスをどっさり貰って帰ることとなった。
うひょお・・・新鮮な野菜・・・新鮮な野菜だ!
ドレッシングなんかなくてもバリバリ食えそうだぞ!
「みんな、ありがとうねえ。いつでも来てねえ」
「あったりまえっしょばーちゃん!明日も来るかんね!」
玄関先で俺たちを見送ってくれるミチヨさんに手を振り、家に帰ることにした。
朝霞もいい子だなあ・・・
「ちょわっ!?なんで撫でるの!?」
「そこに頭があったので」
軽口を叩き、帰路を急ぐ。
ちなみに今俺たちが歩いているのは海岸線を通る道とも言えないものだ。
何でかって?
たまーにパトロール(笑)してる『防衛隊』がいるからな。
朝霞はともかく、神崎さんを見られるとややっこしいことになるかもしれん。
美人だし。
そろそろ昼飯時だな。
ねえちゃんも待ってるだろう。
あとアニーさんとなーちゃんも。
歩きつつ、段ボールに入ったキュウリを見る。
うーん、つやつやしてて・・・うまそう!!
塩ふって・・・いや味噌付けて・・・いやいや冷やして生で齧るのもよさそうだ。
夢が広がるなあ・・・あ?
「・・・神崎さん、これ持って帰ってください。朝霞、神崎さんと一緒に帰ってくれ」
段ボールを神崎さんに渡し、今来た道をUターンする。
「田中野さん・・・?」「どしたのにいちゃん、顔怖いよ?」
怪訝そうにする2人に、振り返らずに告げる。
「今チラッと、表の道に『防衛隊』が見えました。ミチヨさんの家に向かってる・・・神崎さん、申し訳ありませんが古保利さんに連絡を」
そのまま、返事を聞かずに俺は走り出した。
「人数が多いし、武器まで持ってました!嫌な予感がしたので!!行ってきまーす!!!」
いつものパトロールなら2、3人のところ、さっき見えたのは10人ほどだった。
それに、手に手に武器を持っていた。
杞憂ならいいが・・・まあいいや!間違ってたら俺が恥ずかしい思いをするだけだからな!!
腰から兜割を引き抜いて、俺は一層走る速度を上げた。
「わかりました!お気を付けて!!」
神崎さんの声が、背中に響いた。
「あなたたち、やめてちょうだい!何をするの!!」
「うるせえなあ、いいだろう2、3匹くらいよお!!」
・・・戻ってよかった。
ミチヨさんの家まで帰ると、中から大きな声が聞こえてきた。
急いで庭まで入ると、鳥小屋の前にミチヨさんが立っているのが見える。
反対側には・・・『防衛隊』の若い連中と、例の松本の姿があった。
あの片玉オヤジ・・・またかよ!
「卵は渡しているでしょう!?親鳥を持っていかれたら大変なのよ!」
「だから全部じゃねえって言ってんだろォ!?年くってそうなのを寄越せって言ってんだよバアサン!」
鉄パイプを持った威勢のいい男が、ミチヨさんに詰め寄っている。
後ろの連中は全員ニヤついており、背後の松本はいつも通りの脂ぎった笑顔だ・・・キッショ。
「加賀サン、若い連中に力を付けてもらわんといかんのだ。あんたはワシらに守ってもらう立場なんだから、ちょっとはわきまえてもらわんとねえ・・・」
「卵に野菜、今度はニワトリまで!あなたたちはいよいよとなったら根こそぎ持っていく気でしょう!?」
松本の野郎、相変わらず腹の立つ喋り方だな。
ニチャニチャしてんじゃねえよ、ちゃんと歯を磨けってんだ!
なにが若い連中・・・だ!てめえが食いたいだけだろう!?
「ババア!怪我したくねえならおとなしく―――」
先頭の男が、鉄パイプを振りかざす。
この野郎、老人相手になんてことしやがる!
「―――誰に武器向けてんだ糞餓鬼がぁ!!」
瞬時に体が動き、腰のホルスターから棒手裏剣を取り出しつつ放つ。
「っぎ!?」
真っ直ぐ飛んだ手裏剣は、男の手の甲に当たり・・・鉄パイプを落とした。
『返し』は付いていない方だから、まだましだろう。
そのまま男どもの横を走り抜け、ミチヨさんの前に。
「お、お前っ!!」
松本が俺の顔を見て血相を変えた。
他の連中は俺を知らないのか、仲間をやられて怒りの表情を向けてくる。
「い、一朗太ちゃん・・・」
「下がってて、ミチヨさん。・・・てめえら、真昼間っから老人相手にカツアゲかよ?『防衛隊』が聞いて呆れるなあ」
手を押さえて喚く男が足を滑らせて地面に倒れ込むと、連中は一斉に武器を構えた。
・・・へえ、やる気か?
「さて・・・とっとと帰るなら好きにしろ。だがかかってくるってんなら・・・」
兜割を肩に乗せ、重心を前に。
「―――片っ端から、死ぬことになる」
俺は、歯を剥いて笑ってやった。
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