115話 突入!地下通路のこと

突入!地下通路のこと








「お、始まったか」




遠くの方から、重なり合った銃声が聞こえてくる。


小規模な爆発音も。




「手筈通り・・・ですね、我々も行きましょう」




「了解」




いつもより若干硬い雰囲気の神崎さんに促され、視線を前に向ける。




そこには、20人ほどの集団がいた。


警察、自衛隊、駐留軍。


所属はバラバラだが、その誰もが一般隊員ではないことが見ればわかる。


身にまとう雰囲気というか、所作というか。


ま、どちらにせよただものじゃない。




なにせ、今から敵の本拠地にカチコミかけるんだからなあ。






あの日から早いもので時間はあっという間に過ぎ、本日は『みらいの家』本体襲撃の決行日である。


早朝に御神楽に集合し、いつもの装甲車によって俺たちはここに運ばれて来た。


龍宮市中心部に。




前に聞いたように、今陽動の部隊がわざと正面から攻撃を仕掛けている。


俺たちがいる場所は、そこからかなり離れた場所だ。


目の前には、何の変哲もない倉庫的な建物がある。


あの内部に、地下への出入り口があるのだという。




目的地は、ここからでも見える一際高いあの建物。


『龍宮コミュニティセンター』だ。


以前に見た時と変わらないように見えて、唯一決定的に違う箇所がある。




「悪趣味なモン、ヒラヒラさせやがって・・・」




そのてっぺんには、『ふれあいセンター』で見たあの・・・悪趣味な曼荼羅模様の旗が翻っている。




「教主をぶち殺した後に、へし折って燃やしちゃるわ」




俺の横に立つ七塚原先輩が、その声に殺意を漲らせている。




「・・・ん、盛大にやろ」




そのまた横の後藤倫先輩は、戦意を発露させるかのように指をボキボキと鳴らした。


・・・あんまそれやると関節太くなりますよ、先輩。


あと2人ともかなり顔が怖い。


スコシオサエテ・・・




「田中野さん、顔が怖いですよ」




・・・まあ、俺もそうなんだがな。




「はは、武者震い・・・じゃなくて武者顔とでも言いましょうかね」




「ふふ、なんですかそれ」




そう言って笑う神崎さんだけはいつも通りであった。




今日で、ケリをつける。


あの胸糞悪い『みらいの家』を、この地上から全員もれなく成仏させてやる。


否・・・地獄に叩き落としてやる。




「巴らぁは大丈夫じゃろうけぇな。思う存分暴れるで」




先輩が言うように、高柳運送は応援の部隊で守られている。


俺たち南雲流+神崎さんがここにいられるのも、彼らのお陰だ。




なお、内訳は秋月・・・花田さんが送ってくれた精鋭部隊。


そこにはチェイスくんと陸郷さんの姿もあった。


それになにより・・・




「・・・おっちゃんもいるしなあ」




中村のおっちゃん一家である。


美玖ちゃんたちやレオンくんも全員、どこからか調達してきたマイクロバスで一緒にだ。


昨日の晩にいきなり来たからびっくりしたよもう。


なんでも、宮田さんから聞いたらしい。




んで、『水臭せえじゃねえかよ、俺も行く』って言うもんだからさ、総出で止めたもん。


別に戦力的に不足とかそう言うんじゃないぞ。


おっちゃんには守る側にいて欲しいからな、遠近のバランス的な意味で。




由紀子ちゃんたちは、ウチの子・・・猫も犬も子供もひっくるめて可愛い可愛い連呼してたしな。


・・・帰らないって言うんじゃなかろうな?


美玖ちゃんも璃子ちゃんとすぐに仲良くなってたし、うちの子たちもレオンくんに夢中だった。


・・・マジで帰らないって言いそうだな?


ま、それは後で考えよう、うん。




あ、そうそう。


なんか気が付いたら森山くんと鷹目さんもいた。


喧々諤々の議論の結果、彼らはペアで動く遊撃部隊的なものに落ち着いたそうだ。


お互いに、絶対に離れない!って強硬に主張した結果らしい。


相も変わらず周囲の空間に砂糖を撒き散らすがごときいちゃつき様であった。


・・・ま、屋上に陣取るなり真剣な表情でライフルを構えていたから・・・オンオフはキッチリ分けられるんだろうけど。




極めつけに、こちら側の爆弾魔こと大木くんもいる。


うわ・・・高柳運送の防御力、高すぎ。


というわけで、俺たちは安心してここにいられる。






「作戦を再確認する」






おっと、考え事をしていたら聞き逃しそうになった。


慌てて視線を前に向ける。




そこには、隊員たちの前で装甲車の天井に立った古保利さんがいる。


その腕には、相変わらず痛々しいギプスが巻かれたままだ。




「正面の陽動隊に合わせ、これより地下へ侵入。コミュニティセンターの地下三階まで進行する」




いつもとは違って真面目な表情に口調。


こうして見ると、流石に指揮官って感じだな。


いつもの眠そうな感じとは大違いだ。




「地上1階まで進軍。そこで2隊に分散。各階段を用いて上へ上へと侵攻する」




コミュニティセンターには、地上1階から最上階まで続く階段が2か所存在する。


北と南にそれぞれ1つずつだ。


もう一つ、外壁に沿って非常階段が存在するが・・・偵察によって歩哨が多数確認されているのでパスすることとなった。




「最終目標は、最上階にいると考えられる『みらいの家』教主、『龍印天蓋りゅういんてんがい』・・・本名『山下和夫やましたかずお』の殺害だ」




・・・仰々しい名前だが、本名はそこら辺のおっさんだな。


ま、そりゃそうか。




「頭を潰さない限り、ああいう組織は何度でも蘇る」




その目に鋭い光を宿らせ、古保利さんは続ける。


・・・凄い迫力だ。




「そして、今日の作戦で・・・我々はその構成員をも根絶やしにする。撃つべき相手は敵対するもの、全てだ」




誰かが、ごくりと唾を飲み込むのが聞こえた。




「敵を撃て。安寧を乱す敵を撃て。絶望と暴力を無作為に撒き散らす敵を撃て」




怪我をしていない方の手を強く握り、古保利さんは続ける。




「構うことはない、あそこにはもう・・・我々が守るべき民間人は、いない」




入念な偵察によって明らかになったことだ。


奴らの根拠地・・・っていうかいくつかの野営地にはいたらしい。


だが、あの場所は純粋な・・・それも筋金入りの信者しかいないのだという。


その他は、『餌』になってしまった人間と・・・そして奴らが作り出したゾンビの群れ。




「引き金を引くことをためらうな。何も考えずに撃てばいい・・・もっとも、ここにいる連中でそこに頓着するものはいないだろうが」




精鋭部隊だもんな。


・・・俺たち?


そんなもん、言われるまでもない。


撃つんじゃなくて斬るか殴るか叩き潰すかだけど。




「・・・とまあ」




突如として、古保利さんはいつもの顔に戻った。




「色々言ったけどね・・・ま、責任は全部僕たちが取るからさ」




にこり、と彼は微笑み・・・そしてまた険しい顔に戻る。






「各員、その持てる力を最大限に発揮せよ―――状況、開始」






その声に対して一斉に、隊員たちがそれぞれのやり方で敬礼をする。


一言も、漏らすことなく。




「なるべく、死ぬな」




一瞬、苦しそうな顔で古保利さんがそう呟いた。








先頭の自衛隊員が、倉庫の床にある馬鹿みたいにデカいマンホールに何かしている。


・・・何あの張り付けている粘土みたいなもん?


色々線とか突き刺さってるけど。


なんか映画で見たことあるなあ。




「プラスティック爆弾です。通常は開閉装置を使用しますが、現在は通電していないのでアレで無理やりロックを解除します」




「おお、神崎ペディア」




「なんですかそれは」




俺の疑問顔に気付いたのだろう、神崎さんが補足してくれた。


顔に出るの、なんとかならんかなあ。


無理だろうなあ。




ボム、という音。


すぐに、マンホールから煙が上がる。




すぐさま隊員たちが何人か群がり、筋肉という原始的なパワーでマンホールを持ち上げていく。


やがて、マンホールは重々しい音と共に開いた。




「やあ、特にキミは重武装だねえ。まるで『千手三郎衛門』だ」




いつの間に後ろにいたのか、古保利さんがおかしそうに言う。


・・・かなり気を張ってるつもりなのに、全く気配に気付かなかった。


さすがは月影流・・・隠密の能力は後藤倫先輩よりも上だと本人が言うだけはある。




「三郎衛門を気取るなら、あと槍の4本も持っとくべきでしょうね」




「いるかい?銃剣だけど」




「動けなくなるのでいりません」




千手三郎衛門・・・戦国時代の豪傑だな。


あの『青龍廓の撤退戦』において、身に着けた武器の数々で殿を務めあげ、最後には門を背に討ち死にした。




・・・なお、嘘か誠か知らんが我が南雲流の遠い遠い兄弟子にあたる、らしい。


剣術と槍術の免許皆伝だったらしい。


師匠の言うことだから、話半分に聞いてたけど。




つまり、そう言われるほどに俺は重武装だということだ。




腰には兜割に、おっちゃんが研いでくれた『松』ランク。


脇差はいつもどおり後ろ腰に。


これ以上は、さすがに重くなり過ぎちゃうからな。


加えて拳銃と、全身に各種手裏剣。


最後に大木ボムがいくつか。


そして・・・




「例の刀かい、それ。でっかいねえ」




背中には、斜めの状態で固定された長尺刀。


そう、榊の使っていた刀だ。




「ええ、教主サマをコイツで唐竹割にしてやろうと思いましてね」




「はっは、やっちゃえやっちゃえ」




古保利さんはいつものように自然体で笑っている。


・・・底が知れないな、この人も。


俺の周りはバケモンばっかだよ、まったく。




「千手・・・だ、駄目ですよ!田中野さん!」




おや、よくご存じで。


そのエピソードから何を勘違いしたのか、神崎さんが青い顔で俺の袖を引っ張る。




「いやいや、これ侵攻戦でしょ。シチュが違うし・・・俺には神崎さんたちという心強すぎる味方がいますからね」




「そっ!そうです!そうです!!」




そう言うと、何故か神崎さんは少し顔を赤くして嬉しそうに頷いた。




大先輩には悪いが、そこだけは間違いなく俺が勝ってると思う。


確実に。




「よい心がけ、甘味の献上を許す」




なんでだよ、後藤倫先輩。




「ははは、こんな状況だってのにいつも通りだねえ。百人力だなあ」




「・・・というか古保利さん、なんで指揮官が最前線にいるんですか」




しかも結構な怪我人だというのに。




「治ってないんでしょ、怪我」




「そりゃあねえ、僕は南雲流じゃないから」




あのねえ、人の流派を人外の巣窟みたいに・・・




「そりゃあね、僕も八尺鏡野警視もオブライエン少佐も・・・部下に任せてふんぞり返ってるタイプじゃあないから」




「指揮官勢ぞろいしすぎでしょ。全滅したらどうすんですか」




「御神楽に残してきたそれぞれの腹心が引き継ぐさ、ははは」




俺とは別の意味で、この人も異質だなあ。




「もっとも、死ぬ気なんてサラサラないけどね」




そう言うと、古保利さんはマンホールへと歩いて行った。


おいおい、先頭で突入する気だぞあの指揮官。


八尺鏡野さんたちも、あっちの陽動部隊でそうしてるんだろうなあ・・・ライアンさんも大丈夫かなあ。


古の軍師が見たらキレ過ぎて憤死しそうな状況だぜ。




そうこうしていると、先頭がマンホールに消えていく。


さてさて、俺らは殿だな。




『近距離要員はまだ控えててね』




という釘を刺されてるからな。




地下通路は、真っ直ぐの見通しがいい通路になっているらしい。


もし・・・っていうか間違いなく歩哨が置かれているだろう。


撃たれまくる状況では、我々は無力である。




・・・あれ?じゃあなんで神崎さんは俺の横にいるんだろうか。


声に出して聞こうとして、やめる。


・・・なんかむっちゃ怒られそうな気配を感じたからだ。


俺だって成長してるんだ。


わざわざ虎の尾を踏むことはあるまい。


なにより、相棒だからな、相棒。






「たな、田中田中・・・し、ししし、しっかり引っ張って」




「はいはい」




「返事が雑!喉、喉抉るぞ!」




「オマカセクダサイ!」




マンホールを開けた先は、地下に向かってぐるぐると回りながら下りていく長い螺旋階段だった。


通常ならエレベーターがあるのだが、やはり電気は来ていないようだ。


というわけで点検・非常用のこれを下りているのだが・・・




「先輩って高いとこ苦手でしたっけ?」




いつだったかビルから飛び降りてなかったっけか?




「違う!足元が・・・す、スケスケなのが嫌い!」




・・・なるほど。




まさかの後藤倫先輩がポンコツになってしまった。


先輩は、俺のベストを後ろからきつく握っている。


振り返って見れば、小刻みに震えながら薄目を開けていた。


・・・なんとも、意外な弱点だな。




「・・・わしがおぶっちゃろうか?」




「た、高いしともちんに殺されるから嫌!」




見かねた七塚原先輩が声をかけるも、断固として拒否されている。


ともちん・・・ああ、巴さんのことか。




「あの、私が引きましょうか?」




「いい!神田川は周囲を警戒して!」




「神崎ですっ!」




まるで小鹿のように足をプルプルさせる先輩を先導しながら、俺は苦笑した。




「い、今馬鹿にしたろう田中・・・ゆるさんぞ・・・覚えておくといい・・・」




「ヒエッ」




まるで地の底から響くような声に寒気を覚えながら、長い長い階段を下りる。


流石政治家の避難通路だな、これだけの人間が移動してもびくともしない。


しかしまあ・・・高いなあ。






若干のアクシデントを乗り越え、俺たちは地下通路に降り立った。




「帰りは絶対にここ通らない・・・正面から帰る・・・」




ようやく正気に戻った先輩が呟いている。




「さてと・・・こっからが本番だなあ」




兜割を引き抜き、肩に担ぐ。


目の前には、トンネルが黒々とした口をぽっかりと開けている。


先頭の隊員たちは、暗視装置を装着して音もなく進んでいった。


むろん、古保利さんを先頭にして。




俺たちも自衛隊から貸与された暗視装置を装着し、それに続く。


電気がないって不便なんだなあ・・・




緑色に染まった視界には、先を行く隊員たちの他には何も見えない。




道も、真っ直ぐな一本道だ。


緊急時のことを考えてか、道幅はかなり広い。


こんな通路があるなんて知らなかったな・・・いや、一般に知られるようじゃマズいか。




突如、前方からパスパスと音がした。




これは・・・神崎さんが使ってたサイレンサー的なものか?


どうやら、先頭が敵を発見したらしい。


俺の出番はないな。




撃ち返されるようなことはなく、何事もなかったように列は進む。


しばらく歩くと、見慣れた黒ローブの死体がいくつも目に飛び込んできた。




「(さすがは三等陸佐の部隊ですね、正確に頭部を撃ち抜いています)」




声を落とした神崎さんの言葉通り、その死体たちは眉間を撃ち抜かれて即死している。


呆気にとられたように開かれた目から、こちらを発見もできていないことがよくわかる。


・・・楽に死ねてよかったな、お前ら。




相変わらずパスパスと聞こえる銃声を耳にしながら、ひたすら歩く。




手持無沙汰だがまあ、どうせ後で嫌でも動くことになるんだ。


今は体力を温存しようか。






役に立たない歩哨を排除しながら歩き続け、大きな扉の前に着いた。


ようやく、コミュニティセンターの真下に来たようだな。




扉に張り付いた隊員が何かしている。


前のように粘土・・・爆弾を設置しているようだ。




「きつく施錠されてるから吹っ飛ばすんだけど・・・その先にたぶんゾンビがいるね」




またもやいつの間にかいた古保利さんが言う。


・・・もう驚かんぞ。


後藤倫先輩で慣れとるからな。




「え?じゃあさっきの歩哨は?」




戻れないじゃん。




「さてね・・・決死隊か、それとも言わずにゾンビを放したのかわからんねえ」




「だとしたら役に立たない決死隊ですなあ」




「はっは、身内びいきをするわけじゃないが・・・ウチの部下たちに比べりゃ月とスッポンさ」




・・・そういえばそうだった。


最精鋭部隊だったな。




「奇襲にしたかったけど、気付かれてるみたいだなあ・・・楽がしたかったけどね」




まあ、ゾンビを放たれているならそうだろうな。


なんかのアクシデントで逃げ出したとかもあり得るが。




「なあに、出会うやつを皆殺せば奇襲と同じですよ」




「・・・なんかキミ、田宮先生にどんどん似てきてない?」




「冗談ですってば、冗談」




あんなのと一緒にしないでいただきたいでござる。




「おっと、扉が開くみたいだ。これからは忙しくなるぞ~」




片手で・・・なんかサブマシンガンみたいなのを構えた古保利さんが、スルスルと先頭へ戻って行く。




「爆破後、一斉射!1マガジン後にシールドと交代!」




古保利さんの指示の後、前のマンホールと同じような音。


一拍遅れて扉が弾け飛び・・・




「ガアアアアアアアアアアアアアアア!!!」「グルウウウウウウウウウウウウウウ!!!」「ゴオオオオオオオオオオオオオ!!!!」




静まり返った地下に、聞き馴れた声が響く。




「撃て!!」




その声と同時に、暗闇が無数のマズルフラッシュで明るくなる。


うおっ!眩し!!


慌てて暗視装置を外す。




扉の向こう側・・・コミュニティセンターの地下3階にはミチミチに詰まったゾンビの姿。


向こうには非常用の電源でもあるのか、薄明るい非常灯が照らしている。




隊員の一斉射によって撃ち倒されているのは、ノーマルゾンビだ。


声だけは威勢がいいが、急所を的確に撃ち抜かれてバタバタと倒れている。




「シールド、前へ!」




斉射によって開いた空間に、いつぞやのライアンさんを思い出させる重武装重装甲部隊が進み出る。


・・・いや、流石にあそこまで重装甲じゃないな。


若干動き易そうだ。




「電撃用意・・・ってぇ!!」




ばじん、みたいな音が聞こえた途端。


シールド部隊に襲い掛かろうとした後続のゾンビ集団が痙攣して倒れていく。


一体何が・・・あ。


よく見ると、重装甲の方々の持つシールド・・・その裏側にごちゃごちゃとした配線が見えた。




「なるほど・・・あの盾自体がスタンガン的なものなのか」




軍隊の科学力、すげえ。




「前進!」




短い指示の後、前列がゆっくりと前に進み始める。


ゾンビは後から後から突撃してくるが、シールドによって無力化されて次々と床に転がっていく。


・・・おお、頭までゾンビの悲しさよ。




わずかに呻くゾンビは、後続の隊員たちが的確にトドメを刺していく。


完全な流れ作業だ。




「これは楽ができそう・・・だ?」




ふと、違和感。


いや、これは・・・




「気付いたな田中、えらいぞ」




「来るのう」




先輩方が、戦闘態勢を取っている。


・・・ああ、やっぱり。


人生、そう楽にはいかんもんだなあ。


地下3階でこれかよ、先が思いやられるぜ。




「古保利さん!何か―――」






「前列総員、対ショック姿勢!!特異個体が来るぞ!!!」






・・・あっちにもわかってたか。




奥・・・階段のあるだろう方角が騒がしくなってきた。


こちらに向かうゾンビたちが、突如として弾かれるように宙へ飛ぶ。


まるで、暴走する車に撥ね飛ばされるように。




「おいでなすったか・・・って、なんじゃありゃ!?」




地響きを立て、何かがこちらに猛スピードで迫る。




それは・・・鉄板を無理やり着込んだような物体だった。


全長は2メートルを優に超えている。




「前列!受け止めつつ電撃!!後列!取り巻きを排除!あの特異個体には銃撃は通らん!!」






「ゴオオオオオガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」






重装甲の、恐らく白黒ゾンビが吠えながら猛烈な勢いで突っ込んでくる。


まるで1人スーパーボウルだ。


足元のアスファルトが、地響きとともにヒビ割れている。


ヤツはあっという間に距離を詰め・・・盾持ちの隊員にあっという間に肉薄する。






まるで、トラックどうしの衝突事故めいた轟音が響いた。






「うっぐ!」「がああ!!」「電撃ぃ!!」




ざりざりと地面を後退しながら、盾から火花が散るのが見える。




「ガアアア!?ッゴ!?!?ガガガガガガガッガガ!!!!」




その度に、白黒は驚愕めいた声を上げる。


しばらくすると、目に見えて動作が緩慢になってきた。




「よし、これで―――!」




「油断するな!!!」




誰かが安堵の声を上げた途端、前列から1人が吹き飛ばされる。


蹴りつけられたらしい盾は、真ん中から大きく歪んでいる。




「ゴオオオオオッ!!!ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」




「っが!?」「っぐわあ!!」




開いた隙間から白黒が腕を突っ込み、横の2人を殴りつけて押しのけた。


いかん!入り込まれ・・・






「っじゃああああああああああああああああっ!!!!!!」




「ェグ!?!?!?」






疾風を纏って突撃した七塚原先輩の八尺棒が、今まさに突撃しようとしていた白黒の脳天目掛けて着弾。


火花を散らしながら、頭部の装甲板を圧壊させて飛び散らせる。




「ぬんっ!!!!!!!!!!!!」




間髪入れずに振り戻された二撃目は、頬の辺りに直撃。


頭部を覆う装甲板が空中に散らばる。




「おおう・・・・りゃあっ!!!!!!!!!!」




旋回しながら引き戻した八尺棒が、力を纏って突き出された。




「ゲグ!?!?!?!?」




電撃によって緩慢になっていた白黒は、その一撃で後ろに倒れる。




「おおおおおおおおっ!!!!」




そのまま、先輩は白黒の胸に飛び乗り・・・何度も八尺棒を頭部へ向けて振り下ろした。


何度目かの殴打で、白黒の体は弛緩して伸びた。




「・・・よし」




それを確認すると、先輩は白黒の胸から下りた。


・・・あっという間の出来事だった。




俺も、周りの隊員たちもある意味呆気に取られている。




「むぅ、出遅れた」




悔しそうに言う後藤倫先輩の声だけが、ゾンビの声に混じって響いていた。

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