106話 詩谷昔話と新武器のこと

詩谷昔話と新武器のこと








詩谷で遭遇した追剥的な車を撃退した後、何事もなくモンドのおっちゃん宅に帰ることができた。


しかしけっこう予定外なことが重なったので・・・まあ、例によって泊まって行けということになった。


久しぶりに我が家で寝れると思ったが・・・俺はどうにも、いい子のお願いには弱いらしい。


このまま龍宮に戻るのも、微妙な時間だしな。




そしてなにより、子供たちへのお土産を完全に忘れていた。


今日は泊まって、明日探索して帰ろう。




というわけで、高柳運送には先程連絡を入れておいた。




『お怪我は、お怪我はないんですね!?・・・それなら、いいです。ごゆっくりなさってください』




とは、神崎さんのありがたいお言葉である。


何か俺、毎度毎度怪我の心配されてるような気がするなあ。


・・・いや、仕方ないか。


この騒動が始まってから、俺の体・・・特に顔、傷増えまくってるもんな。


こればっかりは不可抗力だが・・・精々気を付けよう。




「くるぅるるる・・・」




「いやあ天下泰平、だな・・・それよりキミ、なんか前よりふわふわになってない?」




「きゃぁう!」




居間に胡坐をかいてのんびりしている。


俺の膝の上で何故か寛いでいるレオンくんは、例によって不思議な鳴き声をあげている。


リラックスはしているようだな・・・


縞々の尻尾がゆらゆら揺れて可愛い。




「ふふ、サクラちゃんほどではないですけれど・・・皆と一緒によくお風呂へ入ってますから」




お盆の上にお茶を乗せて運んできた小鳥遊さんが教えてくれた。




「へえ~・・・そうなんですか。レオンくんも風呂好きなんだなあ」




レッサーパンダってそうなのか・・・?


いや、この子だけだろう。


カピバラじゃあるまいし。




「どうぞ」




「や、すいませんどうも・・・うま~」




小鳥遊さんの淹れるお茶、マジで美味い。


今までに飲んだ中でもトップ3に入るぞ。




なお1位は死んだ母方のばあちゃんである。


もう二度と飲めないので、この位置が変わることはあるまい。


お茶農家だっただけあって、本当に美味かったな・・・ゾンビ騒動で忘れかけていたが、そろそろ命日だ。


忘れずに線香の1本でもあげておこう。




「どういたしまして・・・それにしても、レオンくんが本当によく懐いていますね。私達は中々膝に乗ってもらえないのに・・・妬けちゃいます」




「いやあ・・・なんででしょうね?マイナスイオンでも放出されてるんじゃないですか?」




ははは、なんて笑いあっていると・・・庭の方からブンブンブンブンと音が聞こえてきた。


・・・せっかくの情緒がぶち壊しだよ。






「ぬん!はっ!ちぇりぁああああああっ!!」






同時に聞き馴れた声も。


・・・ほんと、ウチの流派って稽古大好き人間しかおらんなあ。


ガラスがビリビリ震えてるぞ、どんな声量だよ。




「あの・・・七塚原さんって、とっても力持ちなんですね!桜井さんより大きい人、はじめて見ました!」




小鳥遊さんは心なしか興奮している。


身近なビックリ人間を見つけたからだろうか。


しかし、俺からいわせりゃ二人とも誤差の範囲内なんだけどな・・・


両方でかいし。


雰囲気はかなり違うが。




「どうじゃあ!田中野、一緒にやらんかぁ!?」




「ソレ持ってる先輩とは死んでもやりませぇん!!」




上気した顔で俺を稽古に誘う先輩を斬り捨てる。


絶対嫌だ・・・




たった今、先輩が笑顔で振り回しているもの・・・それは六尺棒だ。


だが、いつもの六尺棒ではない。




「おーおー、ずげえな。冗談のつもりだったのによ・・・本当に振り回してやがる」




台所から麦茶のボトルを持ってきたおっちゃんが苦笑いしながらこぼす。




「なんなんだよおっちゃん、あの六尺・・・いや、『八尺棒』」




先輩が握っているのは、以前のものより明らかに長い。


長い上に、その両端には以前のものよりはるかに禍々しい棘がずらりと並んでいる。


握り手の辺りは前のと同じくらいの太さだが、両端は明らかに太い。


その上総金属製である。


・・・一体何キロあるんだよオイ。


そして・・・何故先輩はそれを振り回せてるんだよ・・・


俺なら絶対腕抜けるぞ・・・




「正式名称は『八尺双金砕根』ってんだ。さる由緒ある方が所蔵してた逸品でな・・・なんでも南北朝時代に活躍した武僧の持ち物らしい」




「物騒な重要文化財だなあ・・・いいの?そんなのあげちゃってさ」




っていうかなんでそんなもんを所持してるんだ、おっちゃんは。




さっき、俺たちが帰ってきた時のことだ。


『どうせ誰も使わねえから、いるなら持ってけ』そう言っておっちゃんが先輩にポイと進呈したのだ。


それから先輩は嬉しそうに稽古を続けている。


まるで新しいバットを買ってもらった野球少年のようだ。


持っているものが物騒すぎるがな。


いや待て、バットも武器っちゃあ武器か・・・?




「いいんだよ、こんな状況だしな。それに・・・アレも博物館に収まってるより、無我と一緒に子供を守る方が喜ぶだろうぜ」




へへへ、と。


おっちゃんは少し嬉しそうだ。




「・・・なんか謂れがありそうだね」




「なあに、寺に攻め寄せた山賊から女子供を守ったって逸話があるくらいだ」




・・・なーんかどっかで読んだ覚えがあるな、その歴史。


近郊の昔話っていうか口伝っていうか・・・




「お前も知ってるだろ?アレの持ち主は『ふどうさま』らしいとさ」




「えっ・・・嘘だろ。あれって実在の人物だったのかよ?」




「さあてね・・・だが、アレの持ち主の家系はそう信じてたけどな」




完全に盛りに盛られた昔話だと思ってたぞ。


えっと・・・たしか・・・




「ふどうさまってなーに?おじさん」




隣の部屋で昼寝していた美玖ちゃんが、寝起きの顔でやってきた。


開いた襖の奥では、幸せそうに寝ている美沙姉が見える。


おいおい・・・日も高いうちからのんきだなあ、ホントに。


平和だねえ。




「きゅるぅ!」




「あは、いらっしゃーい」




俺の膝から飛び降りたレオンくんを抱っこしている美玖ちゃん。


こっちも仲がいいなあ。




美玖ちゃんとレオンくんはキラキラした目で、俺にお話をせがんでいる。


レオンくんは違うだろうが。




まあいいか、どうせ暇だし。


なんかしていないとあの先輩の稽古に無理やり参加させられかねない。


あんなもん兜割で受けたら死んじゃうぞ俺。




「わくわく」




「わくわく」




・・・そして後ろのJKたちはいつの間に来たんだよ。


わくわくって口に出す人初めて見たわ。


しかし、ここらではわりとメジャーな昔話だと思ってたんだがなあ・・・


比奈ちゃんはともかく、由紀子ちゃんも知らないとは。




「んーとね、どう話したもんかな・・・ええと、むかーし、むかし・・・」




そう言って、俺は語り出した。


うろ覚えだが、そこはおっちゃんが補足してくれるだろう。





昔々、この国の指導者が2人だったり3人だったりしていろいろ揉めていた頃。


とある山寺に、『ふどうさま』という一人のお坊さんがおりました。




ふどうさまは体が大層大きく、とても力持ちでしたが・・・虫も殺せないほど優しい性格でした。




日中は里へ下りて田畑の仕事を手伝ったり、子供たちに勉強を教えたりしておりました。


そのや優しいお人柄から、ふどうさまは里人に大変好かれておりました。


特に子供たちからは毎日毎日、ふどうさまの後ろをついて回るほどの慕われようだったようです。


この里は山間にあったおかげで、周囲の戦乱とは無縁の場所だったそうです。






ですが、そんな平和な里にある日山賊どもが押し寄せてまいりました。






勢力争いに負けて逃げたか、それとも新たな獲物を探し求めてか。


豊かな里に目をつけた山賊によって、里は瞬く間に火に包まれました。




眼下の騒乱を目にしたふどうさまは、寺の鐘を打ち鳴らしました。


ここに避難せよ、と里中に知らせたのです。


普段から大水や地震の時は、いつでもそうしていたように。


そして、必死で逃げてきた里人たちを寺に受け入れ、ふどうさまはたった一人で固く閉じた門の外にお立ちになりました。






その手に、大きな大きな・・・背丈より大きい金棒を握りしめて。






里の物資を略奪し尽くした山賊は、寺にも目をつけました。


その頑丈な門構えから、中にはさぞ立派な宝物があると思ったのでしょう。




『坊主、金目のものを全て差し出せ』




凄む山賊の首領に、ふどうさまは静かに答えました。




『お主らはもう里中のものを奪ったであろう。ここにはもう何もない。怯える里人がおるばかりだ』




そう返された首領は、笑ってこう答えました。




『そうら、おるではないか・・・女子供が』




それを聞くや否や、いつも柔和な笑みを浮かべていたふどうさまの表情がぐるりと変わりました。


そのお顔は、その名の如く・・・不動明王の憤怒の形相でございました。






『田畑を焼き、物を奪い、その上体まで奪っていこうと申すのか!許さぬぞ!』






ふどうさまは、山々に響き渡るような恐ろしい雄たけびをあげて・・・山賊の群れにたった一人で躍りかかっていきました。




寺の中で震える里人たちは、一晩中続く戦いの音に一層身を寄せ合って朝が来るのを待っておりました。




『許さぬぞお!!許さぬぞお!!!』




門の外からは、いつもの優しいお声とは違う・・・地の底から響くような声がいつまでもいつまでも聞こえておりました。


やがて外から聞こえる山賊どもの怒号はじきに悲鳴へと変わり、それも徐々に小さくなっていきました。




そして・・・一番鶏の声と共に、朝がやってきました。


しいんと静まり返った中、里人の1人が恐る恐る門を開けるとそこには・・・






散々に打ち据えられて死んだ山賊どもの死体の山と、まるで門を守るように地面に突き立った金棒だけが残されておりました。






ふどうさまだけは、どこにもいらっしゃいませんでした。


里人たちは声を上げて方々を探し回りましたが、里のどこにもいらっしゃいませんでした。




まるで、ふっとこの世から消えてしまったように。




大人も子供もおおいに悲しみましたが、誰ともなくこう言い始めたといいます。




『もしかするとふどうさまは、お不動様の化身でいらっしゃったのではあるまいか』




『わしらを助けた後、正体が知れたのでお隠れになってしまったのではないか』




それから里人たちは皆で協力して寺に不動明王の立派な像を作り、毎朝それを拝んで暮らすことにしました。


焼かれた田畑は、驚くことにすぐに芽吹いたといいます。




さらに不思議なことに、それからもこの国には幾たびの戦乱がやってきましたが・・・


この里だけは、いつも無事に済んだといいます。


里人たちは、それをふどうさまのご利益と信じてより一層感謝を捧げたそうな。




今でも、山深い寺跡にその像は残っておるそうな。


世にも恐ろしい形相だが、どこかに一抹の優しさを感じる・・・そんなお顔で、里のあった場所を静かに見下ろしておるという。





「・・・めでたし、めでたし」




たぶんこんな話だったと思う。


・・・子供向けの昔話は。




「えーっ!ふどうさまどこ行っちゃったの!?」




美玖ちゃんが縋り付いてくる。


やめなさい、レオンくんが挟まれておるぞ。




「さてねえ、本当に仏様だったのかもしれないなあ」




「みんなと一緒に暮らせばよかったのにー!」




「はは、そうだなあ」




その頭をぽんぽん叩き、なだめる。


結構スッキリしない終わり方だしなあ。




ちなみにレオンくんはきゅるきゅる鳴きながらどこかへ走って行った。


おばちゃんのとこかな?




「っていうかおにいさん、お話上手だね!〇本昔話みたい!」




「昔見たのを思い出します!」




Jk連中にも好評のようだ、よかったよかった。




「へへへ、食うに困ったら講談師でもやっちゃあどうだ、ボウズ」




結局おっちゃんは補足もせずにお茶を飲んでいるだけだった・・・いや!それ焼酎のお茶割りじゃないか!!


日も高いうちからいいご身分でござるな!!


別にいいけど!!


平和最高!!




「それで・・・あそこで先輩が振り回してるのが、その金棒だってさ」




いまだに庭先でブンブンしている先輩を指差す。




「むがおじさん、すっごーい!」




「そうだな、すごいな」




・・・マジであれ何キロあんの?


前の六尺棒よりも大分重そうなんですが。


あっちも大概馬鹿みたいに重いのに。




なお、先程の話だが・・・美玖ちゃんに配慮して子供用に差し替えておいた。


実際?の話では、結末が違う。




里人が恐る恐る門を開けるところと、後で不動明王像が建てられたところは同じだが・・・その間が違う。






ふどうさまは全身に矢傷や切り傷を受けて、金棒に寄りかかるようにして立っていたらしい。


里人たちの必死の手当ても空しく、その日のうちに亡くなったらしい。




『わしの遺骸を像に入れよ、お主らを子々孫々まで見守らせてほしい』




嘆き悲しむ里人を、いつものような優しい顔で見つめながら。


そう、笑って言い残して。






ちょっと刺激が強いので言わなくて正解だったな。


なにせ死体IN仏像なのだ。


急にオカルトじみた雰囲気になってしまう。




嘘か誠か、勝手に動いて悪人を殴り殺した・・・なんて話まであるし。


しかし、あの棒がここにあるってことは・・・ここらへんのどこかの山中にその不動明王像も実在するんだろうか。


・・・なんか背筋が冷たくなってきたな、悪人限定の殺戮仏像でも怖いものは怖い。




しかしまあ・・・先輩のアレを見るに、本当にあんなものを握っていたなら・・・『ふどうさま』はさぞ強かったんだろう。


八尺の金棒をブンブン振り回したら、鎧なんてあってないようなもんだしな。


これで先輩の攻撃力がさらにヤバいことになってしまった。


アレなら白黒とも以前より楽に戦えることだろう。




「引き取った六尺棒は、敦くんにでも使わせるか。振り回すだけで大概の馬鹿どもの度肝は抜けるだろうよ」




おっちゃんの言う通りだ。


敦さんに武道の経験はないが、あれなら持って振り回すだけでとんでもない破壊力になるし。




さすがに先輩と言えど六尺棒二刀流は無理なので、以前の方はこちらへ預けておくらしい。


この騒動が終わったら交換してもらうのだそうだ。




「おっと、酔いが回らねえうちにアレも持ってきとかねえとなあ・・・よっこいしょい」




おっちゃんはそう言うと、若干千鳥足で倉庫の方へ消えていった。




「きゅるぅ・・・るるる」




入れ違いにやってきたレオンくんを撫でながら、俺は今晩の夕食のことを考えていた。




「無我ちゃん!一朗太ちゃん!先にお風呂入っちゃいなさい!」




「はーい!おばちゃん!!」




飯の前に風呂か。


結構汗かいたから、有難いな。


美玖ちゃんが一緒に入るって言わないうちに入っちまおう。


また新たな傷が増えてるからな・・・心配させるといけない。








・・・狭い。


筋肉で風呂が狭い!!




「あの・・・田中野くん、その両肩の傷・・・まるでチェーンソーで怪我したみたいなんだけど・・・」




「いやあ・・・その通りですよ。チェーンソー二刀流のゾンビに襲われまして」




「ありゃあ強敵じゃったのう、田中野」




「ほ、本当なのか・・・龍宮はいったいどうなってるんだ・・・」




湯船につかり、心配そうな顔の敦さんに苦笑いで返す。




あの後、丁度良く山仕事から帰ってきた敦さんを先輩共々風呂へ連行した。


美玖ちゃんが一緒に入りたそうなオーラを出していたからだ。


ふふ、面積的に入れなくするとは冴えておるなあ一朗太・・・なんて思っていたが。


狭い・・・マジで狭い。


よく考えればわかりそうなものだった。




「小声で必死に頼むから何かと思ってみれば・・・確かに、その傷は美玖には見せられないねえ」




もう塞がっているが、見た目は大層痛そうだからな。


ざっくりとデカい傷跡が残っている。




はじめは美玖ちゃんと入れなくてかなり残念そうだった敦さんも、俺の思いをわかってくれたようだ。




「これは美玖には見せられないね・・・っていうか美沙にもあの子たちにもね」




たしかに。


おばちゃんに見られたらそれはもう怒られてしまいそうだ。


死ぬ気で隠そう。


風呂上がりの着替えも、いつもの長袖インナーを用意してるし。




「コイツが弱いっちゅうわけじゃなーんですが、剣術の仕様上・・・どがいしても至近距離に潜り込むことになりますけぇな」




先輩がフォローしてくれるが・・・やはりもっと強くならんとな。


師匠なら同じ条件でも傷一つなく生還しそうだし。


だが、この前の白黒ソロ討伐で何か掴んだ気がする。


今度は、遅れは取らない。


アイツらゾンビは所詮ゾンビ。


いくら武器を使おうが・・・頑丈だろうが、そこに『まだ』技はない。


それなら、負けてやるわけにはいかんなあ。




「あっそうだ敦さん、『二号溜池』の辺りってゾンビいますかね?」




「んー?ああ、あそこかい?『釣り堀溜池』ってあだ名の」




「そうですそうです・・・今度美玖ちゃんたちをみんなで釣りにでも連れていけたらなって。家の中ばっかじゃかわいそうですし・・・あそこなら安全じゃないですか?周囲にフェンスもあるし」




前にちょこっと考えていたことだ。


気分転換に釣りでもどうだろうかと。




「うーん・・・いないと思うな。どうもゾンビは人間のいる周辺にしかいないみたいだから。念のために今度確認しておくよ」




「アレだったら俺たちが行ってきましょうか?」




「いやいや、そこまで気を遣ってもらうわけにはいかないよ。お義父さんと一緒に行くさ、それなら大丈夫だろう?」




むしろ、俺たちが行くよりも安全そうだな。


そうであればお任せしよう。




「じゃ、俺は今度釣り道具を調達してきますよ」




ルアーとか釣竿とかな。


あそこは別名の通り、無法釣り人が放流したブラックバスが満載だからな。


楽しい釣りになりそうだ。




「悪いねえ・・・自然の中で遊ぶ美玖、か。SDカードの予備も持っていこう」




俄然やる気になった敦さんである。


・・・何百枚撮影する気なんだこの人は。


六法全書みたいなアルバムでも作る気なのかもしれん。




しかし筋肉にのぼせそうだ、そろそろ上がろうか。








「うーい、あったぞボウズぅ、ほーれ」




風呂から上がると、埃まみれのおっちゃんが細長い布袋を投げつけてきた痛い!!!!




「おおおお・・・うごごごごご・・・」




鼻が・・・鼻が折れ・・・折れてない!よかった!!




「だいじょぶ?おじさん・・・もー!おじーちゃん!」




「あんた!さっさと風呂入ってきなァ!!」




「へいへーい・・・」




作業するうちに酔いが回ったのか、おっちゃんは気持ちよさそうに風呂へ歩いて行った。


あのさあ、飲酒からの入浴はヤバいぞおっちゃん。




「待って!美玖も入るよー!」




おっと、流石美玖ちゃん・・・行動が早い。


知ってか知らずか、あの状態のおっちゃんを心配しているようだ。


着替えを持つとダッシュで追いかけていった。




「あいてて・・・しかも重いや、なにこれ」




俺の鼻を粉砕しかけた包みを持つ。


重さは・・・真剣より若干重い。


形は・・・あれ、これって・・・


慌てて紐をほどき、中身を引き出す。




「ふわー、おにいさんなにそれ?なんか強そう!」




「田中野さんが持ってる棒?と似てますねっ」




由紀子ちゃんたちが興味津々で覗き込んできた。


俺の手にあるのは、以前おっちゃんにもらって今も大活躍している兜割・・・の亜種だ。




まず長さが違う。


以前のものよりかなり長く、俺の愛刀・・・『竹』ランクと同じくらいだ。


鍔や握り手、そして刀を絡め捕る突起も変わりはないが・・・一番の違いは先端にある。


鋭く、尖っている。




「兜割ってよりは・・・『鎧通し』とのハイブリッドかな、これは」




武者甲冑は、西洋甲冑と比べれば防御力は劣る。


機動力を重視しているからだ。


だが、それでも胸の部分や急所は硬い。


刀ではなかなか攻撃を通すことが難しい。


師匠には『鋼断』というインチキ技があるが、普通は無理だ。




しかし、それを可能にするのが『鎧通し』である。


この先端を、鎧の隙間や薄い部分に差し込むのだ。


湾曲した刀身は力を効果的に使い、そのまま体内へ突き刺さるのだという。




加えてこの長さと重さ、頑丈さ。


兜割の効果も持っているんだろう。




いったいどっから見つけてきたんだ、こんなもん・・・おっちゃんの倉庫を見るのがコワイ。


師匠の武器庫くらいヤバいものが転がってそうだ。


以前火縄銃もあるって言ってたっけ・・・探せば大砲も出てくるかもしれない。




これを投げてきたってことは、使えということなんだろう。


脇差といい、研ぎといい・・・ほとほとおっちゃんには頭が上がらないなあ。


前の兜割と入れ替えて持っていこう。


流石に兜割二刀流はしんどすぎる。






「おうボウズ、気に入った・・・みてえだな」




湯上りのおっちゃんは、俺が庭で素振りをしているのを見てたいそう嬉しそうだ。


・・・俺も先輩とそう変わらんな。


根が子供だから仕方ない。




「はは、ありがとうおっちゃん。大事に使わせてもらうよ」




「おう、鍛治屋敷の脳天をそいつでカチ割ってやんな!」




できれば会いたくないけど・・・会うんだろうなあ。


嫌だけど今後の人生のため、叩き潰すしかない。


あっちから来るんだからな。


降りかかる火の粉は・・・叩いて潰す!!


そう思って、いつもより重い兜割を振り下ろした。






「あのよ、ボウズ・・・物は相談なんだがな。『狗神次郎衛門』の刀とか・・・使わねえか?」




「『龍鱗砦100人斬り』の妖刀じゃねえか!呪われそうだからやめて!!」




「いや、なんかおめえなら大丈夫そうだしよ」




「なわけねえだろ!」




本物なら国宝クラスだし!


なんでそんなもんが眠ってるんだよおっちゃんの倉庫は!

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