89話 ヘビー級スパーリングのこと

ヘビー級スパーリングのこと








「わーい!」「おっきいなー!」「ライアンおじさん!ぼくもぼくもー!」




「ジュンバン!ジュンバンデス!!」




子供たちが、ライアンさんの大きい体に纏わりついている。




「イキマスヨ~・・・フンッ!!」




「きゃーっ!」




ちょうど葵ちゃんが、高い高いで空中に打ち出されたところだ。


子供とはいえ、よく飛ぶなあ・・・




しばし滞空した後、葵ちゃんは再びキャッチされた。




「ふふふう!たのしい!!」




「HAHAHA!!グッガール!!」




珍しく満面の笑みを浮かべ、そのままライアンさんに抱き着く葵ちゃん。


心から嬉しそうなライアンさんを見ながら、俺は煙を吸い込んだ。








何故ここにライアンさんがいるのかと言うと、朝一番で俺の様子を見に来てくれたからだ。


朝の柔軟をしていると、聞き馴れぬエンジンの音に気付き・・・確認するとライアンさんがいた。


バイクとはちょっと違う音だなと思ったらその通り、彼の乗っていたのは4輪のバギーだった。




「センセイ!オゲンキデスカ!!」




カッコよくてゴツいバギーに跨り、背中にライフルをマウントしたライアンさんはいつも通りの笑顔でそう言った。




なんでも、オブライエンさんの指示で俺の様子を見に来てくれたそうだ。


それに加えて、現状とこの先の動きを伝えるために。


通信でもいいのに・・・悪いなあ。




目下、御神楽の方は古保利さんが戦線離脱したのに加えて多数の怪我人が出たので、部隊の再編や襲撃計画の練り直しでてんやわんやらしい。


『みらいの家』の本拠地の方は、特別に選抜された偵察部隊が24時間体制で監視をしているとのこと。


何かあれば即座に連絡が来るだろう・・・とのことだ。


特別に選抜か・・・すっごいエリートなんだろうな。




まあ、そんなこんなで話し込んでいると子供たちが敷地に出てきた。


初めは見慣れないデカい外人さんに若干怯えていたが・・・遊び始めるとホレ、あの通りである。


あの子たちは辛い思いをした分、愛情に飢えている。


子供好きを感じ取ることに、人一倍長けているのだ。


・・・そう考えると不憫だなあ。




「あ、いつかの外人さんだ」




「よう、来てたのか」




いつの間にか来ていた大木くんが、俺の横にいる。




「暇なもんで・・・今日こそは詩谷に行こうと思いましてね。たぶんそろそろだと思うんで、田中野さんの野菜」




なにっ!


俺の植えた・・・植えた、なんだったっけ。




「サニーレタスです。もう食べごろですよ・・・隣の家の敷地でも実ってます」




ああ、そういえばそうだった。


隣の家も畑にしたのすっかり忘れてた。


しかしもうそんなに育ったのか・・・




「ジャガイモはまだ少しかかりますね、たぶん。あと何故か隣の庭の片隅にネギとオオバが大量に生えてるんですけど・・・」




「マジ?・・・あ、たぶん元々の持ち主が育ててたやつだ」




「あー、なるほど・・・それも収穫してきますね」




やったぜ!


久しぶりにまともな野菜が食えるぞ!!


隣の婆ちゃん、ありがとう!


帰ってきたらその百倍恩返しするからな!




「この周辺にも適当に種ばら撒いてるんで、秋までには結構充実しそうですよ」




・・・そんなことまで!




「あと、近くの山とか探しました?山芋とかもあると思いますけど」




・・・盲点!!




「・・・キノコとかもあるかな?」




「うーん・・・キノコは素人ではちょいと難しいですね。あ。前に言ってた中村さんって人に聞けばいいんじゃないですか?こうなる前から半分自給自足生活なんでしょ?」




・・・それも盲点!!


今度詩谷に行ったときに聞こう。


おっちゃんなら何でも知ってそうだ。


敦さんも山歩きが趣味らしいし・・・なぜ今の今まで忘れていたんだ、俺は。




「きゅぅん」




己の至らなさに体育座りをしていると、サクラが心配そうに鼻を押し付けてきた。




「ああ、なんでもないぞ・・・お父ちゃんはちょっと自己嫌悪の真っ最中なだけだからな・・・」




「わふ」




慰めているつもりなのか、俺の膝に手を置くサクラにそう答えた。






意気揚々と出発した大木くんを見送った後、ライアンさんも交えて朝食にした。


遠慮していたが、すっかり仲良くなった子供たちの後押しもあってそうなったのだ。


同郷だという斑鳩さんと楽しそうに母国語で会話するライアンさんは、とても元気そうであった。


・・・よかった。


ふれあいセンターからこっち、ちょくちょく暗い表情だったから心配していたんだ。


子供好きの彼には辛すぎる展開が多かったし・・・少しでもリフレッシュしてもらおう。






「んんん・・・八割五分ってとこか」




軽く木刀を振ると、肩に痛みが走る。


うーん・・・無理すりゃ大丈夫だが、今はまだその時ではない。


治るまでは引き続き養生しておこう。




「無理は駄目ですよ」




・・・神崎さんにも見つかってしまったことだし。




「いやあ、朝食後の運動ですよ、運動・・・」




洗濯籠を抱えた神崎さんが、俺をジト目で見ている。




「あのあの、よかったら干すの手伝い・・・」




「駄目です、養生なさってください」




ああん・・・厳しい。


気を遣わせてるなあ。




「神崎さんはいつも優しいなあ・・・」




「にゃんですか!?そ、そそそ、そんにゃことないです!!」




顔を真っ赤にした神崎さんは、凄い勢いで社屋へ駆けこんで消えた。


ううむ、真面目である。




「いちろーおじちゃん!サッカーしよー!」




黄昏ていると、子供たちから声をかけられた。


ライアンさんも参加するようで、上着を脱いでゴールの前に立っている。


・・・すげえ筋肉だ。


あのふくらはぎ・・・ラグビーかなにかやってたのかもしれんなあ。


サッカーなら手を使わないし、参加してもいいだろう。




「よっしゃ!俺の華麗な足さばきを見せてやろう!!」




詩谷北小学校のドリブル重戦車と呼ばれた俺を見よ!!








「ココハ、イイ場所デス」




サッカーを終え、思い思いの場所で休憩する子供たちを見ているとライアンさんが話しかけてきた。


しかし、すげえ鉄壁GKだったな・・・もうどこに蹴っても入る気がしなかった。


子供相手にはうまく手を抜いていたようだが。




「そうですか?御神楽の方が安全だと思いますけどね」




ここは立地に恵まれてはいるが、防衛力では二段も三段も劣るだろう。


最近越してきたご近所の爆弾ボーイによって地味に強力にはなったが。


大木くん、ことあるごとに地雷の配備を勧めてくるんだよな・・・


間違って俺が吹き飛びそうで嫌なんだけど。




「ノウノウ、子供タチ・・・ミンナイイ顔、シテマスカラ」




・・・まあ確かに。


御神楽みたいに大所帯じゃない分、一人一人に目を配れるからな。


ケアもしやすいし。




「それにサクラもいるし・・・なあ?」




「わふ!」




俺の足の間から顔を出したサクラが、元気よく吠える。


・・・マジで俺の言葉、通じてるんじゃないのか?




「俺は別に神様でも何でもないんですけど・・・手の届く範囲の子供くらいは、守ってやりたいじゃないですか」




俺もこの年になるまで、周囲のいろんな人の助けででっかくなってきた。


師匠であり、先輩方であり、親であり。


一部を除けば、かなり恵まれていたように思う。


だからその幸運を、少しばかりおすそ分けしてやりたいのだ。




「エエ・・・ワタシモ、ソウデス」




ライアンさんは顔を上げて、遠くを見る。


その焦点は、遠い遠い故国に向けられていることだろう。




「大丈夫ですって、前にも言いましたけど・・・あっちにもイカしたガンマンがいますよ。〇-ストウッド並のがね」




正直何の慰めにもなっていないかもしれないが、それでも言わずにはいられなかった。


その巨体に似合わず、まるでライアンさんが消えてしまいそうなほど寂しそうだったからだ。




今現在のこの世界は不条理だ。


何も悪くない人間が、理不尽に消えていく。


でも、それでも・・・


それでも・・・故郷から遠く離れた地で頑張るこの立派な父親には、善果を願わずにはいられなかった。






その後、ライアンさんは子供たちに懇願されて昼食も一緒に食べることになった。


本人はたいそう恐縮していたが・・・高柳運送の食料事情は全く問題ない。


四方八方から集めに集めた食料や、自衛隊からの物資。


それに大木くんの差し入れ。


ハッキリ言って楽勝で今年は乗り切れる量だ。


合わせて肉は中村家、魚は海と・・・潤沢に補充できる環境にある。


野菜や卵もそろそろ軌道に乗りそうだしな。


・・・外にバレたら、面倒くさい連中が目の色変えて襲ってきそうではある。




というわけで、それを説明してライアンさんと食卓を共にした。


子供たちもゲストがいるのが新鮮なのか、みんな楽しそうにしていたしな。




ちなみにメニューはそろそろ賞味期限が来そうな素麺であった。


正直あまり好きな麺類ではないが・・・そこは斑鳩さんマジック。


むっちゃくちゃ美味かった。


沸騰させたら投入してすぐに火を止める・・・そんな作り方があったなんてな。


コシもなくならんし、時間が経っても美味い・・・脱帽である。


今度機会があったら俺も真似しよう。




しかしライアンさん・・・箸使うの上手だったなあ。


斑鳩さんもだけど。






「・・・で、だ」




昼食後の休憩を挟み、現在はまた社屋前の駐車場にいる。




「俺が昼寝してる間に何があったんだろうな」




子供たちが目をキラキラさせて座っているのが見える。


その中心には・・・




「サクラ、知ってる?」




「もふ・・・きゅん!」




「だよなあ・・・俺と一緒に昼寝してたもんなぁ」




距離を離して素手で向かい合った、七塚原先輩とライアンさんの姿があった。


お互いに、その顔には闘志がみなぎっている。




屋上で寝てて、急に下が騒がしくなったと思ったらこれである。


一体全体何がどうなっているんだ?




「腕相撲で決着がつかなかったから」




うおビックリした。


急に出てこないでくださいよ後藤倫パイセン。




「・・・腕相撲?」




「ん。子供たちに頼まれてやって、台にしてた箱が破裂して壊れて引き分け」




「ほーん・・・え、ちょっと待ってください。ライアンさん、先輩と互角だったんですか!?」




あの先輩の腕力と張り合うなんて・・・なんちゅう馬鹿力だ!


確かにライアンさんは先輩とほぼ同じくらいのサイズだが・・・




「それで組手で勝負をつけることにしたみたい。ちなみに私も参加しようとしたら止められた」




「なんで普通に混ざろうとしてんですか・・・肋骨まだ治ってないでしょ」




「今日は天気もいいし、いけるかなって」




「なんでさ」




突発的にハイキングに行こうと決めたオッサンみたいな理論やめてくんない?


いけるわけないだろ怪我してんだし。


ほんっと、心底この人が分からんよ俺は。




「田中も後で混ざればいいと思う」




「肩が長引くどころか再起不能になりそうだから嫌です」




「先生が聞いたらぶん殴ってくると思う」




あんな化け物と一緒にせんでいただきたいものだ。


師匠は・・・師匠だけは怪我が気合で治ると言われても信じるが。




「―――確認します!」




ライアンさんと先輩の真ん中にいる神崎さんが、声を張り上げた。


・・・なにしてるんですか、あなたも。




「禁止事項は急所攻撃と武器・・・『まいった』か気絶した時点で試合終了とみなします!いいですか!!」




神崎さんの言葉に、2人が揃って頷く。




・・・審判じゃん。


生き生きしてんなあ。




「なお!継続が難しいと考えた場合は、私の判断によって即試合終了とします!!」




そう言い終わると、神崎さんは手を振り上げながら2人の間合いから下がる。




「―――はじめっ!!!!」




手が振り下ろされると同時に、空気がピンと張りつめた。




先輩は左手をゆるく前に、右拳を腰だめにした自然体の構え。


対するライアンさんは・・・両手を顔の前に構えて、リズムを刻むように体を小刻みに揺すっている。


・・・ボクシング、いや、マーシャルアーツってやつかな。




「むーおじちゃん、がんばれー!」「らいあんおじちゃんもー!」「むーさん頑張ってー!!」




子供たちの声援・・・若干の大人も混じっていたが・・・を聞きつつ、2人は動かない。


お互い、タイミングを計っているようだ。




その時、何の鳥かは知らないが・・・高く鳴いた。




「ぬっ!」




「フ!!」




瞬間、2つの巨体が同時に前に出た。




ライアンさんが牽制の左ジャブを放ち。


先輩も踏み込みつつの右正拳。




お互いの拳打を弾き合い、瞬時に次の動作へ。


一打必倒の間合いで、空気を切り裂いて拳が飛び交う。




俺が木刀を振るときのような風切り音がする。


なんちゅう速度だ。


しかも重さもある。


一般人ならそれだけで無力化されそうな威力の応酬が続く。




「っじゃあ!!」




「ッシ!!」




細かいパンチの応酬から同時に下がりつつ、これまた同時に蹴り。




「っぐ!」




「ウウ!!」




先輩の蹴りはライアンさんの軸足に。


ライアンさんの蹴りは先輩の腰に。


それぞれどずんという鈍い音と共に撃ち込まれた。




「があっ!!」




「オオッ!!」




そしてお互いにひるむことなく、軸足をスイッチさせて蹴り。


再びの鈍い音を響かせながら、お互いが跳び下がる。




先輩の構えが、変わった。


両手をだらりと下ろし、重心をさらに低く。


乱打の構え・・・撃ちまくるつもりだな。




ライアンさんはそれを見て、体を揺らす速度を上げた。


あっちも、そうか。




お互いが示し合わせたように、再び踏み込む。




「オオオッ!!!」




「フンッ!!!」




そこからはもう、足を止めての壮絶な殴り合いだ。


・・・両方、防御の概念をそこらにポイしたんですかね???




ライアンさんの拳が先輩の頬を撃ち抜き。


先輩の拳がライアンさんの鳩尾にめりこむ。




「うわー・・・組手だからって正面からかよ。2人とも好きだなあ・・・タフガイだ」




まるで吊るしの生肉をぶん殴っているような音がする。


2人ともこれでいくつもりのようだ。


一切の搦め手を使用していない。


ただただ、正面から殴る蹴るだけ。




「・・・映画みたい、すごい」




流石の後藤倫先輩も、目を丸くしている


古のヴァイキングの喧嘩かなにかですか、これは。




子供たちは応援も忘れて見入っている。


フィクションよりも迫力のある殴り合いだかな。




あ!神崎さんが審判の役割すらもポイした!!


目を輝かせながら見入っている。


ああもう・・・いざとなったら俺が止めるしかないのか、これ。




技もなにもない、純粋な暴力の応酬。


だが、不思議と陰惨さはない。




「はっはあ!!」




「フウウ・・・ハハハ!!!」




2人が心から楽しそうだからだろうか。


普通の子供ならドン引きしそうな所ではあるが・・・


ここの子供たちは普段から俺たちの稽古を見慣れているので、そんなこともないようだ。


むしろこの中から、将来のグラップラーが産まれそうですらある。




しかし・・・これいつまで続くんだろうか。




両方ともスタミナ体力お化けだし。


有効打も・・・ぶっちゃけ入っているように見えるのだが、たぶん効いていない。


両者とも筋肉メイルが強靭すぎるのだ。


後藤倫先輩のような内側に響く打ち方なら別として、あの殴り方はまさに喧嘩のそれだ。




そう、これは殺し合いではない。


喧嘩なのだ。


しかも極めてクリーンな。




その証拠に、先程から先輩も南雲流の技を一切使用していない。


先輩もある程度は使えるはずなのに、である。




「おっきい子供がふたーり・・・ななっち、楽しそう」




「ですねえ」




先輩と小細工抜きで正面から殴り合える相手なんて・・・白黒ゾンビ以外じゃライアンさんが初めてじゃなかろうか。


オブライエンさんもその気配がするが。




・・・俺?


絶対嫌だ。


もし同じ立場になったらバンバン技を使う。




先輩の拳を正面から受け止めるなんて・・・考えただけで鳥肌が立つ。


1日中寝たきりになる自信があるぞ。


・・・1日で済むかな?


見入っているサクラを抱っこする。




「強いなあ、2人とも」




「・・・ぉん」




一丁前に気圧されている。


ま、子犬にはいささか刺激が強いかもしれんな。




さて・・・試合に目を戻そうか。




凄まじい密度の攻撃の応酬で、お互いにダメージが現れ始めている。


打たれた箇所が赤くなり、頬や口の端から出血がある。


うわあ・・・こりゃ明日はどっちも青あざが大量に出そうだな。




「ぬうん!!!」




「ッ~~~~~~!!!!!」




引き絞られた先輩の右拳が、飛翔する燕のような軌道を描いてライアンさんの鳩尾に突き刺さった。


ライアンさんの巨体が一瞬浮かぶほどの衝撃・・・これは勝負あったか!?




「ガアアアッ!!!!!」




「っご!?!?」




ぐらり、と傾いたライアンさんが・・・倒れ込むと見せかけて右腕を振り抜く。


唸りを上げる右フックが、先輩の鳩尾に突き刺さった。




2人は同時に動きを止め、悶えている。


・・・なんで気絶していないのかな???


オリハルコン製の肉体かなにか?




「ぐう・・・ふう・・・ふふ、ぐ、はははぁ!!!」




「フウ・・・ッハ、ハッハ、ハハハハハ!!!」




怖ぁ・・・


今度は笑い出したぞ。




「がああああああああああああああああっ!!!!!」




「ウゥウウオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」




再びの、足を止めての殴り合いの応酬。


唸る拳がお互いの体に炸裂し、衝撃が体を突き抜け空気を震わせる。


空中に、汗と何かの液体が飛び散る。




「古代ローマだっけここ」




「たぶんそう」




適当な突っ込みせんでくださいよ後藤倫先輩。




だがまあ・・・そんな感想が飛び出る程度にはすごい光景だった。


あの先輩と真正面からここまで殴り合える人間・・・人間?がいるとは。


世界って広いなあ。






「・・・も、もう、もういっちょう・・・」




「か、カモン・・・ワンモア・・・」




どれくらいの時間が経ったのか。




2人は疲労困憊ながら、まだ戦意を宿している。


以前のキレや速度は全くないが・・・それでも手を止めない。


見た所ダメージは五分五分ってとこかな。




審判役を思い出した神崎さんが、止めようかどうしようかとオロオロしていてちょっとかわいい。




子供たちは・・・子供たちの方が疲れた顔をしてるな。


あれだけの密度の戦いを目の前で展開されたんだ、無理もない。


年末にやってる総合格闘技の試合なんざ目じゃねえぞ、コレ。




だがまあ・・・これはそろそろ止めようかな。


キリがない。




純粋なパワーバトルでは、両者の戦闘力は同じくらいか。


これ以上は重篤な怪我につながりかねない。




「あ」




そう思ったその時。


後藤倫先輩が呟いた。




「お」




俺もまた、同じような種類の言葉を漏らした。




構えたまま、両者が同時に前のめりに倒れ込んだのだ。


地響きを立て、両者は地に沈む。


・・・終わり方までエンターテインメントしてんなあ。








「・・・というわけでして、今日はうちに泊まってもらいます」




『・・・申シ訳ございモハン』




通信機越しに、オブライエンさんの誠にすまなそうな声が返ってくる。




「いえいえ、いいんですよこれくらい。子供たちも喜んでいますし」




『ソレデハ・・・よろしくお願いシモス。このお礼は改めテ』




通信は切れた。


気にしなくてもいいのにぃ。




あの後2人はそのまま豪快に寝始め・・・夜まで起きなかった。


すわ脳にダメージが!?と慌てたが・・・普通に疲れて寝ただけのようだ。


出鱈目な体である。




「なかなかやりんさるのう!ま、飲みんさい飲みんさいや!!」




「イエイエ!ソチラモ悪ヨノウ!!ガハハハハ!!!」




「いえ~い!飲め飲め~~~い!!!」




・・・あの酔っ払いどもめ。




視線の先では、肩を組んで恐ろしい勢いで酒を飲みまくる2人。


そして何故か混じって一升瓶をぐびぐびやっている大木くんの姿が。


・・・ホいつの間に!?




「・・・凄まじい体力ですね」




横にいる神崎さんが、呆れたように呟く。




「体力オバケって実在したんだあ・・・子供の教育には悪いですが」




ま、子供たちはもう寝たからいいか。




「田中野ォ!!飲めやぁ!!」




「センセイ!センセーイ!!」




「僕のおしゃけが飲めにゃいんれすかぁあ~!?じゃあ僕がじぇんぶ飲みマッスル!!!」




「嫌ですよ絶対に嫌ですからね!!」




ウザ絡みをする2人と、斬新なアルハラをかます大木くんに怒鳴り返す。


まったくもう・・・




「そうですよ田中野さんにお酒は駄目です!!!」




何故か俺以上に怒る神崎さんの声を聞きながら、俺は煙草に火を点けた。

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