第65話 愛は世界を救うかもしれないこと

愛は世界を救うかもしれないこと








「いーい天気だな、サクラ」




「わん!」




ドアに手をかけて、外の風景をキラキラした目で見ているサクラに話しかけた。


彼女は振り返って、尻尾を振りながら答えた。




「大木くんも・・・うん、付いて来てるようだな」




バックミラーで確認すると、愛車のバイクにまたがりながらニコニコ顔の大木くんが見える。




天気は快晴・・・カラッとした空模様だ。


・・・おかしいなあ、梅雨になっててもおかしくない時期だというのに。


かと思えば、思い出したように土砂降りになることもある。


世界どころか、天気までおかしくなったのかねえ?




さて、俺は大木くんを伴って御神楽高校へと向かっている。


彼が鷹目さんから預かった、あの分厚い手紙を森山さんへ渡すためだ。


大木くんだけでは、いくら俺の知り合いだと言っても入れてくれないだろう。


というわけで、最近お出かけしていなかったサクラも連れて俺も同行することにしたのだ。




ちなみに神崎さんは、どうしても外せない通信があるとのことでお留守番である。


大変恨めしいお顔で見送っていただいた。


それでも一報は入れてくれていたが。


ありがたい・・・ぱっと見不審者2人組だからな、俺たち。




璃子ちゃんたちは、みんなで鶏小屋を作っている最中だ。


あまり長居する気はないが、それでも俺が帰る頃には出来上がっていることだろう。




「これが終われば、今度は詩谷にとんぼ返りだなあ」




「くぅん?」




「久しぶりに美玖ちゃんに会えるぞサクラ。今回は連れて行ってやるからな」




「わん!わぉん!!」




『美玖ちゃん』という単語に反応したのか、サクラのテンションが目に見えて高くなった。


仲良しだもんなあ、サクラと美玖ちゃん。


前回は連れていけなかったので、今回は連れて行ってやろう。




まずは大木くんの予定・・・詩谷大学行きを片付けて、帰りにニワトリをもらってこようかな。


高柳運送の防衛力も上がったし、面子も増えた。


少しぐらい空けていても大丈夫だろう。


久方ぶりの我が家で少しくつろぎたいなあ。


ついでに、子供たちが好きそうなものも持って帰りたいところだ。




・・・神崎さんはどうしようかなあ。


付いて来てもらおうかなあ。


でもなあ、高柳運送の守りや通信のこともあるし・・・待機してもらおうかなあ。


・・・いや、まずは相談だな。


俺の一存で決めることではない。


相棒だからな、しっかりと話し合わないと。




「わふ」




「ぬ、どしたサクラ・・・こら、股の間は駄目だぞ危ないから」




「きゅん・・・」




そんな顔してもだーめ。


・・・なんで犬って股間に顔を突っ込んだりするんだろうか。


サクラの場合は座りたがるけど。


いつもならいいけど、運転中は駄目だ。






「いつものこと・・・か」




「うわー・・・詩谷より切羽詰まってますね、ここの住人」




御神楽高校の手前で車を停めると、大木くんが横に並んできた。




「さあて・・・どうするかねえ」




「そのイカした強化バンパーでこう・・・ドゴっと」




「やだよ車汚れるじゃん」




「確かに」




目の前に見えるのは、いつもの光景。




「入れろって言ってんだ!」「ねえ!お願いだから!」「開けろ!!開けろっての!!」




中に入れろと騒ぐ避難民の姿だ。


内部の警官たちは、機械的に「ここは満杯だ」「帰れ」と繰り返している。


うーん、前よりも数が大分増えているな。


ここに執着するんじゃなくて、俺みたいに自宅に籠るか別の避難場所を見つけりゃいいのに・・・




「で、どうします田中野さん」




「轢くのは論外だか・・・話しても聞いてくれそうな感じじゃないし・・・」




仕方ない。


ここは俺が悪者になるとするかな。




何より人が多すぎて、中から俺が認識できないかもしれん。


散らさんとどうにもならんなあ。




「大木くん、軽トラの後ろから付いて来て」




「ういうい、了解でーす」




ゆっくりと発進し、避難民の近くで停まる。


ヘルメットを脱ぎ、多すぎる前髪を後ろに流してバンダナを巻く。


これでどこに出しても恥ずかしくない歴戦の宇宙海賊フェイスがオープンになった。


うへえ、我ながら迫力満点だ。




兜割と脇差を掴み、ドアを開ける。




降りる瞬間にクラクションを鳴らしたので、人だかりはこちらを向いた。




「おい、車が入れねえんだ。すまんけど道、開けてくれ」




兜割を見せつけるように持って肩を叩きつつ、話しかける。


殺気立った顔で振り返った避難民たちは、俺の顔と獲物を見て血相を変えた。




「ああ?なんだよお前ぇ!ここの住人か!?だったら俺たちをここに入れるように言え!!」




だが悲しいことに、中には命知らずもいるようだ。


若い男が、鉄パイプを振り上げて俺に向かってきた。




「俺はここに仕事で来ただけで住人じゃないし、たとえ住人でもお前みたいなカスを紹介するつもりもない」




そう冷たく言ってやると、男の顔は真っ赤になった。




「んっだと・・・このォ!」




俺の顔面に向かって躊躇なく振り下ろされる鉄パイプ。


なあんで初手が振り下ろしかなあみんな。


隙だらけだっての。




「っぎ!?いいぃい・・・!?」




兜割を振るい、その握り手をぶっ叩く。


・・・この手応え、指にヒビくらい入ったかな。




男はたまらず鉄パイプを取り落とし、手を押さえて蹲った。




「2度は言わん」




「げぅ!?」




男の顔面を、ボレーシュートめいて横から蹴り飛ばす。


男は横に吹き飛ばされ、失神。




「どけ。殺すぞ」




残りの人間に声をかけると、まさに蜘蛛の子を散らすようにいなくなった。


・・・おい、連れてけよ失神した奴。


仕方がないので首根っこを掴んで邪魔にならないように道の反対側にある廃墟に投げ込んでおいた。




・・・ま、運が良ければゾンビに食われる前に起きる・・・あ。


失神じゃねえこれ。


首・・・折れてる。




・・・不可抗力・・・だな!うん!


奴は俺を殺す気だったから殺した!


俺、推定無罪!!




「ま、運が良けりゃあゾンビに食われる前に目を覚ますだろ・・・」




対外的な言い訳を口にしつつ、軽トラに戻る。


そのまま土に還ってくれ・・・




「どーもー!高柳運送の田中野ですー!後ろのバイクは協力者ですー!!」




「は、はい!聞いております!どうぞ!お入りください!!」




ぽかんとした顔で俺の暴れっぷりを見ていた若い警官がそう言うと、門がゆっくりと開いていく。


・・・よし、バレてはいないようだな。


バレていても一向にかまわんのだが。




誘導に従い、いつものように駐車場へ。


さて、とりあえず職員室に・・・




「センセイ!センセーイ!!」




・・・元気になったようで何よりだ。




「すっげえ、ムッキムキだ・・・」




こちらへ向けて満面の笑みでダッシュしてくるライアンさんを見ながら、大木くんが呟く。




「やあライアンさん、ハワイユー?」




「ゲンキ!ゲンキデス!!」




うんまあ、見りゃわかるけどな。




「センセイも、お元気、そう、デ・・・?」




疑問形になるなよ。


そりゃ、見た目はヤバいけどさ。




「大丈夫です、もう治りましたよ・・・あの、森山さんいますか?」




「はいはい、いますよ~」




校舎内から森山さんが出てきた。


タイミングのいいこって。




「あれだけの大怪我だったのに、化け物じみた回復力ですねえ・・・それで、どうしました?」




「ああ、この大木くんが・・・俺の友人なんですけど、詩谷からあなた宛ての手紙を持ってまして・・・」




そこまで言うと、大木くんが俺の後ろから進み出た。


そして懐から例の愛の詰まった分厚い手紙を取り出した。




「どーもー、中央委図書館の鷹目さんからお届け物でーす」




手紙を受け取った森山さんは目を丸くし、動きを止めた。


おいおい、どうしたどうした。




「た、鷹目さんが、ぼ、僕に!?」




我に返った森山さんは、小刻みに振動しながら手紙の封を破る。


もう座るのももったいない、と言わんばかりの勢いで、立ったまま猛然と手紙を読み始めた。


早い早いよ・・・速読みたいな勢いで手紙を読んでいる。


しかし何より驚くべきは、その速読めいた速度をもってしても瞬時に読めないほどの手紙の分量である。


一体何万字あるんだ、あの手紙・・・


ちょっとした短編小説並みだぞ、あれ。




「すっげ・・・もう読んじゃって、うわ、最初に戻った」




大木くんの言う通り、森山さんは読み切った手紙をもう一度読み返し始めた。




「彼、どうしましたカ?」




「・・・ラブレターですよ、あれ」




「オゥ!若い時を思い出しマス!デスネ!!」




ライアンさんは大変うれしそうである。


奥さんと文通でもした過去があるのだろうか。




何度か手紙を読み返した後、森山さんは動きを止めた。


・・・感極まっているんだろうか。




そう思っているとまた小刻みに振動し始める。


マナーモードにしてもうるさいな、見た目が。




「ぼ、ぼくも・・・!!」




森山さんは手紙を思いきり抱き締めると、






「僕も・・・僕もぉ!!愛しています!鷹目さん!あなたに夢中だ!!たかめさああああああああああああああああああああああああああん!!!!」






そう、大声で叫んだ。




周囲の人々が何事かとこちらを見つめている。


俺も知りたい。


誰か説明してくれよォ!?


だがまあ・・・幸せそうで何よりである。




『僕も』ってことは、手紙の内容は愛の告白だったのだろうか。


本当に相思相愛である。




「・・・大木さん!!!!」




「は、はひ!?」




完全にドン引きしている大木くんの手を取った森山さんは、強すぎる眼力を彼に注ぐ。




「返事!書いてきますので・・・!申し訳ありませんが!少しお待ちを!!」




「は、はい!どうぞ!!」




「ありがとうございます!!ではっ!!!」




森山さんは風のように校舎内へ消えて行った。


後に残された俺たちに、視線が周囲から突き刺さる。


・・・何も知らん!俺たちは!!


ここに神崎さんがいたら、いつものようにお目目をキラキラさせているんだろうなあ・・・


帰ったら、教えてあげよう。




「・・・いやあ、凄かったですね」




「もうすごいっていう感想しか出てこないな、うん」




「森山サン、春が来ましタネ!」




ライアンさんは嬉しそうだ。


あっちのお国ではそんなに珍しくないのかな?




さて、図らずもここで待つことになってしまった。


森山さんは返事を書くらしいが・・・この分ではそれなりに時間がかかりそうだ。


絶対鷹目さんと同じくらいの分厚い手紙、持ってきそう。


まあ、お似合いのカップル・・・かな?


世界はこんなだけど、是非幸せになっていただきたい。




「ここで煙草でも喫いながら待つかねえ、特に用事もないし」




「あ、ササミありますよ!犬用ですけど!」




・・・いい機会だ。


味見しておこうか。




「せ、センセイ!待って!プリーズ!ジャーキーなら私の、あげます!!」




突如として軽トラの荷台でササミを焙り始めた俺たちに、ライアンさんが必死に言ってくる。


違うんだライアンさん、これはあくまで学術的な興味であって・・・あ、走って行っちゃった。


あちちち、指まで焙っちゃったぞ。




「そんぐらいです、それで醤油をちょいとつけて・・・」




どこから取り出したのか、醤油皿を持つ大木くん。


用意がいいなあ・・・


焙ったササミに醤油を付けて・・・ん、うまい・・・な、うん。


絶望的に塩っ気が足りないが、これはこれで・・・


成犬用だからか、硬くて噛み応えがある。


うむうむ、空腹時のごまかしにはピッタリだな。




「意外といけるね」




「でしょ?缶詰も高級なやつなら結構おいしいんですよ?だいたい僕が食う牛丼より高いんですから・・・」




・・・なんか悲しくなってきた。


俺たちが喜んで喰っていた牛丼・・・犬の餌以下の価値しかないのか・・・


だがまあ、そういうことなら高級缶詰はご馳走である。


常食する気はないが、最後の砦として保管しておくのもアリかもしれんな。


喰わなくてもサクラが美味しくいただけるし・・・




「オゥ・・・トゥーレイト・・・」




ミリ飯的な銀色の包みを持って帰って来たライアンさんが、地面に膝を付いている。


いやあの・・・そんなにショックを受けなくても・・・


ちなみにジャーキーは丁重にお断りをした。


マジで食うに困ってないからな。






「あ!おじさん!」




歩哨の時間だというライアンさんを見送り、森山さんを待っていると声をかけられた。


高山さんだ。


以前の傷はすっかり癒え、元通り元気そうにしている。




「怪我したって聞いたけど、元気そうでよかった・・・何食べてるの?」




「犬用のササミジャーキー・・・いる?」




「き、気持ちだけ、もらっておきます・・・あはは」




そら食わんわな。


ここで会ったのも何かの縁だし、人間用の食い物をあげよう。




「じゃあチョコバーをどうぞ」




「うわっ・・・すっごい!いろんなところから出てくる!」




ふふふ、今日は釣り用ジャケット装備なのだ。


ポケットは無数にあるぞ。




「璃子ちゃんの友達の・・・3人娘ちゃんたちの分も渡しておこう」




「うわわっ・・・いいの、おじさん?」




「いいのいいの、まだまだ在庫はあるからね・・・こっそり食べなさいね?」




「はい!・・・ありがとう!」




子供は素直が一番である。


元気で健やかに生きていってほしいものだ。




「後ろのお兄さんは・・・お友達ですか?」




「ん?ああそうだよ。詩谷から来た大木くん」




そうか、大木くんはおにいさんで俺はおじさんか・・・


時の流れって残酷なのね。




振り向くと、大木くんはひたすらジャーキーを齧っている。


・・・止まらない気持ちは少しわかるけど、食い過ぎじゃない?




「詩谷から!?あ、あのっボク高山あきらって言います!」




「もももむい・・・んぐ。ああどうも、大木政宗です」




「いきなりなんですけど、高山巡査って聞いたことありませんか!?ボクのお父さんなんですけど、詩谷にいるはずなんです!!」




・・・なるほど。


そういうことか。




「高山・・・宮田さんから聞いた名前だけれど、それ以上は知らないなあ・・・ごめんねえ」




「い、いえ、いいんです・・・」




大木くんは一瞬だけ俺を見てそう言った。


この反応、宮田さんから事の顛末を聞いているっぽいな。


空気の読める男である。


いつかは言わなくてはいけないが・・・やはりそれは今じゃないだろう。




「僕も詩谷に帰ったら探しておくね。ごめんね、力になれなくて」




「いえ!そう言ってもらえるだけでもありがたいですっ!」




少しだけ寂しそうな高山さん。




「わふ!」




「えっ?」




開いたままの運転席の窓から、サクラが顔を出す。


お、やっと起きたか。


久々のお出かけでテンションが上がりまくったせいか、ここに着くちょっと前からずっと寝てたんだよな、サクラ。


ササミの匂いで起きたのかな?




「わぁあ・・・この子、おじさんが飼ってるんですか!?」




「そうだよ、サクラっていうんだ。サクラ、高山おねえちゃんにご挨拶して~」




「わん!」




「ふわあ・・・よろしくね、サクラちゃん!」




運転席のドアを開けると、待ってましたとばかりに飛び出すサクラ。


そのまま高山さんの足元をぴょんぴょん跳ねている。




「かっわいい!・・・おじさん!撫でてもいい?」




「どうぞどうぞ」




そう言うと、高山さんは荷台にチョコバーを置いてサクラを抱き上げた。




「すっごいいい匂い!お布団みたいにふっかふか~!」




「きゅん!ひゃん!!」




基本的に人間が大好きなサクラは大喜びで高山さんに甘えている。


うーん、俺の100倍はコミュ力があるなあ。




大木くんはカメラを構えようとして・・・やめた。


そうだね、高山さんが写っちゃうもんね。


編集面倒臭いもんね。




「いい子いい子!おじさん、サクラちゃんすっごくいい匂い!」




「ふふん、そうだろうそうだろう・・・毎日お風呂へ入ってるからなあ」




「ま、毎日!?・・・いいなあ、サクラちゃん」




ここでも風呂は毎日とはいかないようだ。


避難所も大変であるなあ。




「あきら先輩~あ、おじさんだ!元気になったんですね!」




増えた。


この子は前に保健室で会った・・・えなちゃん?だな。




「やあ、お陰様でね」




「よかったあ・・・あ!この子!サクラちゃんですね!?わぁ、かわいい!」




「わん!きゅん!」




この子にはサクラのことを話していたからな。


元々犬を飼ってたって聞いたし・・・この子も犬好きなんだろう。




「お手!」




「わふ!」




「うわあ、ご褒美もないのに子犬のうちからできるなんて・・・すごい躾けですね!」




「よせやい、サクラが賢すぎるだけのことだよ」




・・・褒めろ!もっとうちの可愛い娘を褒め称えろ!!




高山さんとえなちゃんは、しゃがんでサクラと遊んでいる。


可愛がってくれる人間が増えたので、サクラのテンションは爆上がりである。


周囲の人たちも、微笑ましそうに見つめている。


アニマルセラピーって、すげえ・・・




「あ!洗濯物取り込まないとですよ先輩!おじさーん、サクラちゃん、またね~!璃子ちゃんにもよろしく~!」




「やっば、忘れてた!おじさん、ありがとうございました!大木さんも!!」




高山さんたちはそう言うと、チョコバーのお礼をして名残惜しそうに校内へ帰って行った。


サクラも元気に吠えて見送っている。






「あの子・・・田中野さんの拳銃の持ち主の娘さん、ですよね?」




その姿が見えなくなってから、大木くんがポツリとこぼした。




「・・・宮田さんから聞いてたのか?」




「ええ、こっちへ来るときにですけど。もしあきらって娘に会ったら、黙っていてくれないかって・・・いずれ宮田さんが話すつもりらしいです」




・・・そう、か。


それなら宮田さんにお任せした方がよさそうだ。


元々の知り合いだし。




「死んだほうがいい塵屑なんていくらでもいるのに・・・いい人ばっかり死んじゃうんですよね」




「まあな、俺みたいな適当な人間なら、適当に生きていけるのになあ」




「なんだかんだ言っていい人の癖に~」




大木くんは楽しそうにササミをほっぺにグリグリしてくる。


やめろォ!飯を粗末にすんじゃねえ!!




「ま、僕なんかもっと適当ですけどねえ・・・自分が生きるだけで精一杯ですから」




「・・・本音は?」




「一生一人でもなんとも思わないですなあ!がはは!一人最高!!」




正直者めが。


ま、歯に衣着せないところは好感が持てるなあ。




「あんな思いをすることもないし・・・」




そして吹き出す闇である。


サクラは怯えて俺のベストに潜り込もうともがいている。


やめなさいジッパーに毛が挟まるぞ。






それから、周囲の警官やら自衛隊員やら軍人さんやらが入れ代わり立ち代わりサクラを撫でにきた。


犬好きにはたまらない可愛さであるからな、無理もない。


歩哨の合間を縫って来たらしい、信じられないほどとろけた顔のライアンさんも混じっていたが見なかったことにした。




「お待たせ!しました!!」




そんな中、森山さんは帰ってきた。


・・・鷹目さんの手紙の、2倍の厚さの便箋を持って。


おいおいおい、便箋パンッパンじゃないか。


もういっそノートとかにした方がいいんじゃない?




「大木さん!よろしくお願いします!!」




「お・・・お任せを・・・」




大木くんは、その重そうな便箋を受け取り、




「物理的に・・・愛が重い・・・」




そう小さく呟いたのだった。




サクラはかわいらしく首を傾げていた。

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