第76話 できれば行きたくない場所のこと
できれば行きたくない場所のこと
「おい、あんた!」
友愛高校の1階廊下。
今日も今日とてお仕事(という名の気ままな探索)をするかと来てみたら、後ろから呼び止められた。
振り返ると、中年のおっさんが立っている。
・・・なんかいら立ってるなあ。
神崎さんを見つける前に厄介なのに捕まった気がするぞ。
「・・・俺に、何か?」
とりあえず問いかけてみる。
あまり下手に出る必要はないだろう。
「何か、だとぉ!?」
おいおいおい、随分ご立腹だな。
こんなに恨まれる覚えはないんだがな。
「いつになったら娘を見つけてくれるんだ!!」
・・・あー、探索の依頼主か。
「こっちはずっと待ってるんだぞ!?」
そんなこと言われてもなあ。
こっちは風の向くまま気の向くままだしなあ。
「あー・・・そう言われましてもねえ。依頼主は大勢いるし、探索場所の決定は警察の管轄なんで・・・」
息を吐くように嘘をつく。
「なに!?警察が・・・!?クソ、役に立たないな!あんたは!!」
おっさんはそう吐き捨てて歩き出す。
あの・・・もうちょっと紳士的に対応してもよくない???
我探索者ぞ???
なんちゅう口のきき方だよ。
「あのー、すいませぇん」
「なんだあ!?」
「捜索場所と、娘さんの名前教えてくれます?俺から警察に掛け合ってみますよ・・・期待はしないでほしいですがね」
なるべくにこやかに話しかける。
おっさんは嬉々として娘の名前と場所を教えてくれた。
ふむふむ、なるほど・・・ヨシ!覚えたぞ。
「頼むぞ!頼むからな!!」
「はぁーい」
・・・一番後回し決定、と。
期待しないでって言ったから問題ないよな?
気になるならご自分で探しに行けってなもんだ。
俺は結構根に持つタイプなんだよ、ご愁傷様。
人にものを頼むときはもう少し丁寧にするこったな。
あ、暫定で一番後回しは大木くんの婚約者のなんとかさんだった。
・・・じゃあブービーにしといてやろう。
武士の情けじゃ、ケケケ。
「あっ田中野さんこんにち・・・なんですかその顔」
たまたま歩いてきた森山くんがドン引きしている。
「・・・ハンサムでしょ?」
「顔の傷と相まって、まるで悪だくみする山賊ですよ?」
「・・・せめて宇宙海賊がいいなあ」
どうも俺は、顔に感情が出すぎるらしいなあ・・・
もうちょい前髪伸ばした方がいいかなあ。
それかマスクか仮面でも付けてみるかな・・・
かっこいいかもしれんな!
「・・・なんか、ろくでもないこと考えてません?」
ホラな!顔に出てる!!
「・・・ってことで、探索場所の選定は警察の管轄ってことにしときましょう。・・・表面上は」
「そうですね・・・すみません田中野さん。避難民の方々には、くれぐれも失礼のないように伝えてはいるのですが・・・」
宮田さんがそのでかい体を小さくしながら謝ってくる。
小さくはなってないけども。
「気にしないでくださいよ、美玖ちゃんたちもいないんで評判が下がろうが上がろうが特に気になりませんし」
「そう言っていただけると・・・」
警察も大変なんだろうなあ。
ここに閉じ込められてるようなもんだし、24時間勤務だもんなあ。
防衛に、食料の調達や生産、おまけに避難民のケアもせにゃならん。
俺にはとても真似できんねえ・・・
せいぜい戦闘と探索くらいしかできない。
「で、宮田さん・・・捜索とは別に仕事とかあります?」
避難民の依頼よりよほどこっちの方が重要だ。
何度も言うが、警察とは仲良くしときたいしな。
仮に仕事がなくても、こうやって聞くだけでも心証は違うだろう。
「・・・一つ、あります」
おや、珍しい。
「どーんと任せてくださいよ!」
「うあぁ~、行きたくねえなあ~~~」
「・・・珍しいですね。そんなに嫌なら断ればよかったのでは?」
「任せてくださいって言っちゃったんですよお・・・やると言ったらやらねばならんのです」
「ふふ・・・変に律義ですね、田中野さん」
軽トラの車内。
流れる景色を見ながらのろのろと運転する。
隣でくすくすと笑う神崎さん。
「それにしても・・・中央図書館かあ・・・」
今回の依頼、それはいつぞやもあった避難所の偵察だ。
ここ詩谷に残った、警察の運営する最後の避難所。
『詩谷市中央図書館』である。
そう、いつかのハーレム野郎が目指していた場所だ。
以前確認した3つの避難所と違い、ここは正規の避難所ではなかった。
なので前回は除外されていたが、どうも今でも健在であり、しかも警察が運営しているらしいということがわかったのだ。
最近になって避難してきた人からの情報だそうだ。
友愛も食糧事情が充実してきて、ヤバそうなタイプじゃなければ少しは受け入れるようになってきているらしいな。
情報源はそんな人たちだ。
なんでも、美玖ちゃんがいた小学校と、由紀子ちゃんの高校を運営していた警官の生き残りが図書館を運営しているとか。
避難民はそこで保護してもらおうとしたが、定員オーバーだと言われて無理だったらしい。
そこで友愛への避難を勧められたとか。
ふむ、前みたいなニセ警官なら問答無用で殺しているだろうし、本物かもしれない。
確認してみる価値はあるが・・・あの4人がたどり着いていると面倒なことになりそうだよな。
「避難所の責任者とは私が話しますから、田中野さんは後ろで護衛をお願いしますね?」
「ええ?いやそんな、悪いですよ・・・」
「『適材適所、適材適所です!』ふふ、田中野さんの真似です」
・・・かなわないなあ。
なお、あいつらとの顛末は既に話している。
俺の態度から一瞬で何か隠してるって見抜かれたからな。
・・・やっぱり仮面の着用を検討した方がいいかもしれん。
それかヘルメットのシールドをもっと濃い色にするとか・・・
「・・・何を考えている顔ですか、それは」
「・・・ハンサムでしょ?」
「はい」
「ヴェ!?」
「ハッ・・・!?う、宇宙海賊みたいでかっこいいです!」
さっすがあ!神崎さんは話が分かるぅ!
一瞬びっくりしてしまった。
何故か黙り込んでしまった神崎さんを乗せ、ゆっくり走る。
えーと、たしかこの大通りをこっちに・・・
それで、この信号とインド人を右に・・・
おお、看板があった。
あんまり来たことなかったから曖昧だったんだよな。
まあカーナビがあるから迷うことはないんだけど。
道沿いに図書館が見えてきた。
中央図書館というだけあって、かなり大きい。
前方に大きな駐車場。
図書館本体は4階建ての四角い建物だ。
最後に来たのは・・・高校の時だったかな?
たしか吹き抜けの大きな中庭があって、後ろ側にも広い空地があったような気がする。
避難所にするには十分な大きさだったと思う。
中庭や空き地を畑にすればいいわけだしな。
それに今思い出したが、ここは地震や洪水の時の避難所に指定されていたはずだ。
ということは、自家発電機なんかもあるだろう。
こう考えてみるとなかなか大した立地条件じゃないか。
駐車場の一番道路側に車を停める。
何かあった時に即逃げられるように、道路に向けて停車しておいた。
降りてみるが、周囲に人影はない。
ちなみに俺の装備は脇差と各種手裏剣、そして神崎さんに分けてもらった手りゅう弾だ。
全てベストで隠して、正面からは見えないようにしている。
日本刀は避難民を刺激するといけないので、車に残す。
見える範囲にゾンビはいないので、木刀もお留守番だ。
神崎さんはいつもの通りライフルと拳銃装備だ。
まあ、こっちは自衛官だしな。
図書館の入り口は、工事現場でよく見かけるフェンスでバリケードのようなものが組んである。
後ろ側には土嚢が積んであるようだ。
いつぞやの商店街よりも頑丈な作りだな。
しかし門番というか、歩哨のような人影はない。
おっと、少しだけ小細工をしていこう。
以前ホームセンターで見つけたバンダナで口元を隠し、ヘルメットのシールドを下げておく。
これで顔は隠せるはずだ。
凄まじく不審者っぽいが、神崎さんの後ろにいれば目立たないだろう。
銃を持った自衛官の方がよほど人目を惹くだろうしな。
さてと、入り口は封鎖されているしどうしようか。
1階部分はガラス張りだが、中から本棚のようなものを並べているので中が見えない。
図書館だもんな、本棚なんて売るほどあるだろう。
探索ならこのまま回れ右なんだが、今回はそうもいかない。
「ここから観察してみましょうか」
「そうですね、あまり近付きすぎるのもよくありませんから」
軽トラの場所まで戻り、単眼鏡を使って図書館を観察する。
2階部分も本棚が並べられており、中は見えない。
3階は・・・うーん、角度があって天井しか見えない。
4階・・・も同じだな。
もうちょい高いところから見下ろしたいところだが、ここらへんはそんな背の高い建造物は無いからな。
「・・・屋上に洗濯物が見えますね」
「えっマジですか?よく見えますね?」
「屋上の給水塔の下・・・金属の部分に反射しています」
・・・おお、本当だ。
よく気付いたなあ。
確かに反射している、一部だけしか見えないが結構な量があるみたいだ。
ということは、ここにはまとまった数の避難民がいるってことがわかる。
しかし、それ以外では人の気配がないな。
入り口は封鎖されてるし・・・裏口方面にでも回り込んでみるか?
まあ、運営されている状況は確認できたんだ。
正直気は進まないし、このまま一旦帰ってもいいんじゃないかな?
「・・・無理に中に入るってもの危険ですし、今回は出直しましょうか?」
「そうですね、運営されているであろうことは確認できましたし」
神崎さんも同じ意見のようだ。
欲を言えば、警察官の姿でも確認できればよかったが・・・
前回の商店街事件もあったし、あまり近付いて攻撃でもされたら困る。
あそこは死角がたくさんあったからいいが、ここにはない。
弓やボウガンを上から撃たれたらかなり危険だ。
「師匠なら矢くらい楽勝なんだけどなあ・・・」
「そういう技があるのですか!?」
神崎さんの食いつきがすごい。
さすが武術マニアだ。
「え、ええ・・・俺は苦手なんですけど脇差の技にそんなのがあって・・・」
正確には二刀の技だが。
半身になって被弾面積を減らし、右手に持った脇差を防御のみに使用し、肉薄した後は左手に持った刀で攻撃をするってやつだ。
「懐かしいなあ・・・師匠、普通に矢をバンバン撃ってくるんだもんなあ・・・」
「す、すさまじい訓練ですね・・・!」
あの時は死ぬかと思った。
いくら矢じりが付いていないとはいえ、当たったら痛いものは痛い。
家に帰って風呂に入ろうとしたら、全身謎の斑点だらけだったもんな。
妹にヤバい病気だって勘違いされて救急車呼ばれそうになったし。
「まあ、防御だけに専念すれば大丈夫だと思うんで、その時は神崎さんに攻撃をお願いしますよ」
「はい!任せてください!」
向かってくる矢を落とすだけならなんとでもなる。
撃ち下ろしの角度だと弾道が固定されやすいだろうし。
移動しながらだと狙いがブレるからやりにくい。
師匠ならいけるんだろうけど、俺はまだ未熟だからな。
「帰りますか・・・適当な所を探索してお茶を濁して」
「このままここにても変わりませんからね、その方がいいでしょう」
「せっかくなんでゲーム屋リベンジしてもいいですか?」
「私はなんでもいいですよ?田中野さんのお好きになさってください」
うーん、ありがたい相棒だ。
それではそうするとしようか。
たしか近くにレンタルビデオと合体したチェーン店があったはず・・・
レトロゲーは少ないだろうが、ないよりはマシである。
それでは、ウキウキゲーム屋探索にしゅっぱー
「あのっ!自衛隊の方ですか!?」
・・・なんちゅうタイミングだ。
2人で咄嗟に軽トラの影に隠れる。
ボンネットの前だ。
ここなら最悪矢を撃たれても大丈夫なはず。
「そうです!私は神崎陸士長と申します!!」
神崎さんが叫び返している。
手鏡の破片で確認。
3階の窓が開き、こちらを見下ろしている警官がいる。
遠くてよくわからんが、婦警さんっぽいな。
「ああ、よかった!ちょっとお話を聞きたいのですが!・・・裏側に回ってくださぁい!そこに入り口がありまぁす!」
「・・・わかりました!!」
さて、鬼が出るか蛇が出るか・・・
神崎さんと視線を交わし、狙撃を警戒しながら移動を開始した。
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